第七章:ポンデとエンゼル
それから数日後───
放課後の帰り道。薄曇りの空の下を歩いていた暁と禊の前に、ひょっこりとじゅるじゅるが現れた。
「やっほー!みー君!暁〜!」
「お前、急にいなくなるな。心配もされなかったぞ」
「わたしはずっと心配してたよー。ちょっとだけ」
暁が半笑いで言うと、じゅるじゅるはにへら〜と笑いながら近づいてきた。
「なんか色々あってさ〜、でも今はね、ちゃんとごはん食べられてるの。ちゃんと、毎日」
「……ポンデのことか」
禊が鋭く言うと、じゅるじゅるはこくこくとうなずいた。
「うん。ポンデ教団には入ってないんだけど、あの建物の上に住んでる“ゴッドエンゼル”っていう人がね、ポンデドーナツを分けてくれるの。やさし〜の」
「……エンゼル?」
暁が首をかしげた。じゅるじゅるは、どこか誇らしげな顔で説明を続ける。
「そうそう。灰色のスーツ着てて、背が高くて、髪もヒゲも灰色で、ちょっとかっこいいんだよ〜。
でもね……あの人、ポンデを“異性”として見てるらしいの」
「……異性?」
禊が眉をひそめると、じゅるじゅるは耳打ちするように囁いた。
「“ポンデは女神であり、真実の愛の対象だ”って本気で言ってた。しかも、ポンデの穴に指突っ込んで、“手を繋いでいる感覚”って……」
「聞きたくなかった……!」
禊は顔を覆い、深いため息をついた。
「それで? お前はその変態から餌をもらってるってわけか」
「うん! わたし、ポンデ好きだし、犬扱いでも平気〜。ゴッドエンゼルに哀れで醜い化け物呼ばわりされてるけど気にしないの〜」
「最低だな……!」
暁はというと、両手をポケットに突っ込んだまま、静かに聞いていた。やがて口を開く。
「でもさ、結局“教団”って何なの? なんでこんなに大きな建物あって、人もいるの?」
「それはね……」
じゅるじゅるは両手を広げ、空を見上げる。
「ポンデ教団の目的は、この世の全ての主食をポンデドーナツにすることなんだって。」
「……」
「……」
暁と禊はしばし無言になった。
「……おかしいって自覚はないのか?」
「うーん、私は別に困ってないし。ポンデうまいし」
「パンでもご飯でもない……でもおやつとも違う……あの中途半端な食感に、世界を支配させようとしてるのか」
禊の脳が静かに悲鳴を上げていた。
「じゃあみー君、わたしたちもポンデ食べながらそのへんの人間に教え広めてみる?『主食はポンデ!』って」
「絶対に嫌だ……」