Rからログアウトしました
俺の仕事は、フルダイブ型VRゲームのテスターだ。
「そういや、そろそろ会社内でパーティーをやるんだっけ?」
時間はバッチリ、最後1つだけバグが残っているけれど――
「良しとするか、アレぐらいならすぐ治せるし」
いつも遅刻してるが故、早めに会場へ向かう為にVRヘッドセットを外した――はずだ。
壁紙に棚、それに家具が全て主人公の部屋にそっくりなのだ、仕事前はこんな事にはなってなかった……フルフェイス型のVRゴーグルとは言え外の音は少しなら聞こえるのだが……
「まさか新しいバグか?」
ため息混じりに呟いて、ヘッドセットを再装着しようとした。だが、ヘッドセットはどこにもない。デスク、棚、床下——隅から隅まで探したが何処にも無い。冷や汗が背中を伝う。
「いや、さっき外しただろ…?」
俺は確かにログアウト画面で「終了」を選んだ。はずだ。
スマホを手に取り、開発元に連絡しようとしたが、画面に映るUIに思わず嘘だろと声が出た。アプリのアイコンが、VRゲーム内のものそのものだった。
「おい、冗談だろ?」
俺は笑い声を上げたが、声は震えていた。外に出ようとドアに手をかける。だが、ドアノブが冷たく、まるでゲーム内の金属の感触だ。恐る恐るドアを開けると、そこは会社の廊下ではなく、VRゲームの主人公が住むマンションの廊下そのもので、頭がこんがらがった。確かにあのゲームはウチの会社をモデルにしたとしても、これは……
「ログアウトしろ!ログアウトしろよ!!」
俺は数十年ぶりに腹の底から何度も、何度も何度も何度も叫んで、虚空にコマンドを叩き込むジェスチャーを繰り返す。だが、何も起こらない。
それどころか背後で足音が聞こえてくる。
思わず全身が硬直し、ゆっくりと振り返る……
目の前の光景に完全に頭が真っ白になった。ゲーム内の敵キャラ——赤い目のウサギのお面を被った大男が立っていた。
「お前、現実じゃ…」
驚愕の余り、溢れる言葉は途切る。ジワリ、ジワリと間合いを詰める大男の手には、冷たく光るナイフ。
コマンド画面を出そうとスワイプのジェスチャーをするが出てこない。ここはゲームの世界じゃないのか?
後退りしていると、カッターが足元に当たりすかざず拾い上げた。
大男は驚いた様子で動きが止まる。
「最後のバグが残ってて良かったよ」
最後のバグ、それは主人公が死んだ瞬間強制的にゲームも落ちる事だ。