第二話:謎の冒険者・1
全てが変わってしまったあの日”大厄災”から5年。
14歳になったソフィアとその家族は父親が働く街で新たな生活にも慣れてきた頃だった。
少し前からソフィアは父親のつてで冒険者協会の受付嬢として働いていた。
「それでは、依頼頑張ってくださいね」
「お気をつけて 行ってらっしゃいませ」
本来、一般的に働き始めるのは15歳の成人を迎えた後で、早めに働かせてもらっている。
元々は協会の事務の手伝いのはずだったが、”大厄災”から各所で魔物、魔獣の発生が急増し討伐依頼、護衛依頼が後を絶たず。
冒険者に斡旋する量も増え、回転率が悪い。つまるところ人手が足りないのである。
「ソフィアちゃん、お疲れ様、毎日大変よね~」
「あ、ルナ先輩お疲れ様です」
少し仕事が捌けたところで他の受付嬢との世間話がはかどる。
今話しかけてきたのはこの協会でベテラン受付嬢のルナ先輩だ。
「ソフィアちゃんも、この仕事結構慣れてきたんじゃない?」
「そうですね、皆さんに教えて頂いて何とかですけど」
「いやいや、覚えるのも早いし助かってるわ~」
「そういえばソフィアちゃんまだ14なんでしょ?」
「はい」
「え!? ソフィアまだ14歳だったの!?」
会話に飛び込んできたのは同僚のマリーちゃん15歳。
「父が協会関係者で無理言って入れてもらったんです」
「そんなに働きたかったの!?」
驚きと引き気味が入り混じった様なリアクションをとるマリー。
「ちょっと家計の足しにと」
「お手伝い?偉いわ~お家大変なの?」
「その、大厄災で......」
「あら、それは......悪いことを聞いたわね」
「いえ」
「「・・・・・」」
大厄災について深く聞いてくる人はそんなに居ない
この辺りではよくある話だからである。
「あ、最近は見かけない冒険者も増えたわよね」
とっさにルナ先輩が話題を変える。
「そうそう、この間なんて知らない冒険者同士が依頼の取り合いで喧嘩しだして大変だったんだからー」
マリーの苦労話に二人は苦笑いをする。
依頼の増加でより多くの稼ぎを目的とした他所の冒険者がこの街にも多く流れ込んで来ているのである。
「人が増えて支部長は街に活気が出て良いとは言ってらっしゃるけど」
「トラブルも、増えますよね......」
「誰がそのトラブルを処理するんだって話ですよね!ほんとに明るいだけのあのおっさん!」
マリーの悪態に二人は苦笑いをする。
と、そこへ入り口の扉が開き奇妙な恰好をした男が入り周囲の視線を一点に集める。
ボロボロの黒いマントを羽織り襟に付いているフードを深くかぶった不気味な男だった。
男は辺りを見渡すと一直線にソフィアの元へ近づいて来た。
ソフィアは不気味さを押し殺し精一杯の笑顔で対応する。
「ようこそ、冒険者協会へ 本日のご用件は何で......しょ.......」
ソフィアは近づいてきた男の顔を見て驚きのあまり言葉が引っ込んでしまった。
その男の顔は何かの魔物の頭蓋骨と思われる物で作られた仮面を被っていた。
(コーー...... ヒュー...... コーー...... ヒュー......)
仮面の内側に呼吸が当たっている音がしてとても不気味であった。
しばらく見つめ合った後かなり違和感のある声で小さく
「ミツケタ」
ソフィアは、はっきりとは聞き取れなかったが男はそう言った。
ふと、我に返り男に再び聞き直す。
「本日のご用件は何でしょうか?」
男はしばらくの沈黙の後、手を胸の高さまで掲げ手から煙の様な物を生み出しそれを細くして空中に文字を書き始めた。
「(イライヲミタイ)」
「イライヲ......あ依頼ですね、少々お待ちください」
さっき喋りかけていたのに空中に文字を書き始めたことに疑問を抱きつつも仕事を続ける。
「では、冒険者ランクの方を伺います。冒険者タグを拝見してもよろしいでしょうか」
冒険者には街等にある冒険者協会で審査、登録でき、下から 鉄級 銅級 銀級 金級 白金級 のランクを付けられる。
最初は鉄級 から始まり、経験量や試験をによって上位の等級に上げることができる。
冒険者タグには自身の名前と認定されたランクの装飾が施される。
――カチャリ
その男が提示したタグには金の装飾がなされていた。
「「!!!???」」
一気に周囲がざわつく。
人口比率で一番多いのが 銀級 次いで銅級 そして鉄級
金級 と 白金級 は人数が少ないため拠点にしている街があれば非常に重宝される。
ざわざわと冒険者の会話が聞こえてくる。
「口無しの黒マント」
「あいつじゃね?」
「ああ、間違いない ”ゴースト” だ」
ゴーストと呼ばれる彼はこの街では見た事が無いのだが他の街から来た冒険者の話を聞く限り、このあたりの地域の街では有名らしい。
まあ、辺境や田舎の街だと金級の冒険者は極端に数が少ないので目立って当然ではある。
ソフィアは周囲のざわつきに戸惑いながらも仕事を全うする。
「ゴールドランクの冒険者様にお出しできる高めの以来となりますとこの辺りになります」
ソフィアはいくつかの書類を持ってきてゴーストに提示した。
(コーー...... ヒュー...... コーー...... ヒュー......)
しばらく書類を眺めるゴーストに後ろから厄介そうな男性冒険者二人が近づく。
「おいおい、おまえよぉ、...... ...... 」
つづく ......
やあ、ナギニです。
2話目読んでいただきありがとうございます。
今回、ストーリの区切りが長くなりそうだったので、1話分の長さ(文字数) を一定に保ちたい思いから、今回は2部構成 (前編・後編) で書かせていただきます。
多分こういったことが定期的に起こります。
もしもそういったのがタブーであればこそっと教えて下さい。
俺も皆も飽きないことを願って。