第5話オコジョーをなめるな前編
おことわり
劇中劇の演出に超能力は登場しません。猿による猿の為の呪いの物語です。
テーマパークのショーのように楽しんで貰えると幸いです。
ステージの右端から男女4人が雑談しながら現れる。手前側の男子高専生2人は物語の主人公だ。学ランに似た、襟付近のボタンを1つだけ留める制服を着ていた。
銀髪で丸形サングラスを掛けている男子は『サトル』だ。横の左側に前髪を垂らす、短い黒髪ポニーテールの男子が『スグル』とサトルから呼ばれている。彼だけ古いヤンキーのような、全体的に大きく膨らんだズボンを穿く。
4人はステージの中央に来て、観客側を向いた。そこで女子2人の顔は見える。黒いタイトースカートとストッキングを穿く茶髪のショートヘアー女子が『ショーコ』だ。制服は2人と同じく、それだけで3人の関係性が分かる。
優れた能力を持つ人間しか所属出来ない、所謂『高専』の生徒として、勉学や任務に勤む。肝心の優れた能力は、お遊戯会程度の劇で恐らく見られないだろう。
左の白いセーラー服姿の白いヘアバンドを着けた、三つ編み女子中学生が『リコ』だ。左の白いセーラー服姿の白いヘアバンドを着けた、三つ編み女子中学生が『リコ』だ。ミッション系女学院中等部へ通い、由緒正しい子女達を友人に持つ。
サトルとスグルが彼女の護衛を担っている。リコの潜在能力は希少なあまり、様々な勢力から命を狙われていた。
ショーコが彼らに同行している理由は暇潰しだ。男子2人程、戦闘に特化した能力を持っておらず、後方支援に秀でている。
サトルは高身長の神々しい美青年な事もあり、女子生徒達の黄色い歓声を湧かせた。それに応え、彼がピースサインを取った。
「ダッキーも似合っているね。良いなぁ、皆にモテモテのアイドルだよ」
「オパールはアイドルより、結婚相手に選ばれるような子を目指さないとね」
石津が気になり、2人の様子を見る。オパールと同じ高さまで屈み、茉理は抱き寄せながら頬を重ねていた。仲睦まじい姿が年の離れている姉弟か、親子のようだ。
『ダッキー』の愛称で親しまれていたサトル役の男性は、オパールの母方の叔父に当たる。『萩原家ピューマ』に乳児期と少年期の彼が登場していた。
「リコちゃんは私の家族だから、ショーコ、リコちゃんの隣を譲ってくれないか?」
「違う、家族じゃ無い! 本当にコイツ、キモいのじゃ!」
演じていた2人が、実の兄妹と知っている観客の一部は笑う。茉理のバイト先の先輩がリコ役、その兄はスグル役だ。どちらも三中の妹、親友を自称する程、彼と家族同然の関係を築いている。
「犯罪者じゃん」
ショーコは鼻に掛かった、甘ったるい声で罵り、スカートのポケットから棒付き飴を出す。微笑しながら包装を外し、それを咥える。独特の声と冷めた態度が原作ファンに人気だ。
劇の演者は担任教師の知人で構成されているはずだが、石津はショーコ役の女性だけ見覚えが無い。薄い望みを掛けて、後ろの茉理に訊く。
「ハルミさん、だったかな。別の学校で先生していて、前にオパールの叔母さんと飲みに来てたよ」
「クラスでさぞ人気だろうな」
サトルがショーコの台詞を真似た後、右側から金髪の女性が彼らの方に来る。ノースリーブタートルネックを着て、ジーンズを穿いていた。本家より背丈は低いが、十分の高身長だ。
「どんな女がタイプかな?」
中性的な声で男子2人に質問する。設定上、世界中を旅していた彼らの先輩、『ツクモ』だ。劇の本筋に関わらない人物は、演じている女性の要望で登場した。
三中や配偶者を飼い犬扱いする『副店長』だ。雌ライオンを擬人化したような性格と容姿の彼女は、慕われている反面、血の毛が多い。一方、息子へ人並以上の愛情を注いでいる。
「私はカリンさんですね。タッパもあってケツもデカいですから」
「ゲトウ君、それはナシだぁ」
スグルは台本と違う答えを出したのか、3人が困惑してしまう。唐突のアドリブに動じず、ツクモは語尾だけ巻き舌にして返す。そして、スグルの肩を掴みながら下から突き上げるように鳩尾を殴った。
「ブォェ!」
彼の容姿らしからぬ汚い声が響き、観客の笑いを誘う。鳩尾を押さえながら床へ伏せる彼を放置し、ツクモは退場した。彼女の存在が、この後の展開を狂わせる為、妥当な行動だ。
「スグル、大丈夫か? アイスの食い過ぎ?」
「いや、お前見てただろ!? ツクモさんのボンバイエを食らったのさ!」
アドリブに弱いサトルと、痛みで演技を忘れつつあるスグルのやり取りは、更に場を盛り上げた。その時、古いゲームのBGMを彷彿とされる曲が大音量で流れ、観客と出演者は苦情を出す。
それを合図に、大きなヌンチャクらしき朱色の武器を首に掛けた男は、ゴルフクラブと専用の台座を持って左側から現れる。曲のせいで、観客達はブーイングや罵声を浴びせた。
「バカー市長!」
「肩に小っちゃい軽載せてんのかい!」
「フィ、ジム帰りのゼンインやないかい!」
黒の半袖トレーニングウェアとカンフーパンツの格好をしている彼、トウジは、ステージの4人に避けられながら中央へ来て、台座を置く。
短髪強面悪役を演じている男性が副店長の配偶者、オパールの父親だった。本家の背丈より高く、十分な迫力を醸し出す。胸板は厚く、腹筋も綺麗な形で6つに割れている。
石津達の副担任と学年主任を受け持つ愛妻家だ。音楽やブーイングが止まり、早速有名な台詞を出す。
「はい、お疲れ。解散解散」
「それよりも。誰だ? バカー市長とか、肩に小っちゃい軽でも乗ってんのかいとか、ジム帰りのゼンインとか言った奴」
「ゼンインじゃねぇ、今はフシグロだ。3時間経ったので、プロテイン飲んでも良いですか?」
右の口元に油性ペンで縦線を描いている男、フシグロが、唐突に観客の許可を求めた。情けない態度のあまり、笑いを引き出す。
「アホか!! 我慢せぇ!! 授業中もプロテイン飲み腐って!!」
「ステロイド手出してへんやろうな!?」
男性教師のツッコミで堰を切り、観客達は彼をユーザーやLOOSERと次々に呼ぶ。筋トレ発展途上国の人々が、未だステロイド剤へ厳しい目を向けた。
「マーガリン!」
左手を上げ、彼は何の脈絡も無い言葉を発す。そして、BGMの続きが流れ、観客の一部は「是非も無し」と新たな謎の言葉を返した。やり取りの後、音楽が消える。
「おかかちゃんお外走って来る!!」
ゴルフクラブを置き、両手で顔を覆いながら男は控え室へ戻ってしまう。彼の容姿に似つかない高い声が滑稽だった。
「リコちゃん、くろあで帰ろうか」
「車!」
原作に無い単語を出され、観客達は笑いつつも謎の単語について疑問を抱く。石津がその単語を後ろの2人へ訊くも、やはり知らないようだ。
スグルはズボンのポケットから黒い3D眼鏡を出して掛ける。糸目を再現しようと細目になったが、眼鏡越しに見える彼の双眸は薬物依存症のそれだった。
「どうも、チャーミングでニヒル」
「何か、何か、ヤクキメている奴みたい!」
彼の顔を見てしまい、サトルが指を差しながら大笑いしてしまう。それに釣られ、観客も腹を抱えて笑いのツボへ入った。スグルの表情は笑いの兵器と化す。
2分程経ち、ユーザーは茶色のピンポン玉を持って謝罪もせず、ステージの中央に来た。台座へ玉を載せ、ゴルフクラブを拾い上げてスイングする。
「〇イガー・ウッズです」
演出に成功した彼は軽く会釈し、観客からの拍手を貰う。玉がオパールの足元へ落ち、彼は拾った。すぐ頭上に掲げる。
「今、ボールを取ってくれたの。ああ、息子か」
「お前さぁ、酷いよ。何で、俺のきんのたま取っちゃうの? 悲しいじゃん」
「もう殺すしか無くなっちゃったよ。嘘嘘、冗談だ。持って帰って良いよ」
父親から玉の正体を聞かされた息子は、不機嫌そうな表情でズボンのポケットへ入れ、下瞼を下げながら舌を出す。嬉しくない記念品だった。
参考作品
「呪術廻戦 芥見下々著/集英社」
タイパ重視する猿...読者向けに内容の解説を載せておきます。
〇サトル役
白木忠清、三中の父方の従弟でもあります。5歳の頃、あるきっかけで記憶を失い、回復しないまま成長しました。年齢は23歳です。
〇スグル役
二田部慧沙、三中の終生の親友(自称)です。何故、サトル役が三中で無いのかは後に分かります。スグル同様タレ目の27歳男性です。
〇ショーコ役
雨崎晴未、別作品で「おたふく」のお面を被って、無言の場面が多かった女性です。年齢は32歳です。
〇ショーコの後方支援向き能力
反転術式で傷の治療が出来ます。この劇中に活躍する機会はありません。
〇かつて晴未がお面を被っていた理由
「ブラック・ジャック」の登場人物、ピノコの姉のパロディです。
〇リコちゃん役
二田部秋菜、先日、卒業式を迎えたばかりの女子です。リコちゃん同様勝気でタレ目の特徴を持ちます。
〇リコちゃんの潜在能力
不死の術式で生命維持していた呪術会の重鎮、「天元」の初期化に必要な「星漿体」の事です。「マトリックス」シリーズのネオと同じ能力です。
〇スグルがリコちゃんにセクハラする理由
〇くろあ
〇「どうもチャーミングでニヒル」
某声真似実況者の呪術廻戦実況、生放送回のオマージュです。
〇ツクモ役
斎方夏鈴(旧姓白木)、初代〇クラスセダンを所有している男装趣味の36歳女性です。元陸自隊員の経歴を持ち、友人が配偶者の先輩です。彼女の出自はまだ謎に包まれています。
〇ボンバイエ
自身の体に仮想の重量を与える術式。ちなみに、ツクモのパンチは術式未使用。
〇彼女の早期退場
非常に高い戦力を持つ為、主人公達が目立たなくなります。
〇騒音のBGM
所謂「ハガー市長のテーマ」と呼ばれている曲です。正式名称「HIT SOUND12収録 14 Max Limit」
〇大きなヌンチャク
三節棍の呪具、「遊雲」です。価格は最低5億の設定を持ちます。
〇バカー市長
「ファイナルファイト」の登場人物、マイク・ハガー市長が元ネタです。
〇肩にちっちゃい軽載せてんのかい!
「肩にちっちゃいジープ載せてんのかい!」というボディービル大会の掛け声が元ネタです。演者の車は軽自動車の為、それの揶揄で軽に改編してます。
〇フィ、ジム帰りのゼンインやないかい!
「名倉やないかい!」のツッコミが元ネタです。ゼンインはトウジの旧姓です。
〇トウジ役
斎方櫻香、サクラやおかかちゃんの愛称を持つ、三中の母方の従兄です。筋トレと●渕剛の曲を愛す33歳児です。
〇3時間経ったのでプロテイン飲んでも良いですか?
ボディービルダー横山尚隆氏が元交際相手に言った有名な言葉です。
〇~へんやろうな?
闇営業騒動で社長が言ったとされる言葉、「テープ回してへんやろうな?」のパロディーです。
〇ユーザー
ステロイド使用者の蔑称です。
〇マーガリン!
同性愛者ビデオの出演者の空耳台詞です。「バイバイ!」が正しい台詞です。
〇是非も無し
「市長に入れ替わって困惑する」シリーズの定番なコメント。
〇おかかちゃんお外走って来る!!
「俺の彼女と幼なじみが修羅場すぎる」の登場人物、冬海愛衣が失態を起こした時の台詞、「アイちゃんお外走って来る!」のパロディーです。
別の台詞、「アイちゃん大勝利!」を改変した「ちーちゃん大勝利!」を別作品で出す予定です。
高校時代、作者の同級生も気に入り、「アイちゃん大勝利!」を事ある毎に使ってました(どうでも良い情報)
〇ゴルフ
ウォーターワールドの定番行事です。客席まで飛んだ時だけ「〇イガー・ウッズです」と言います。
〇「お前さ酷いよ。何で~ちゃうの? 悲しいじゃん。もう殺すしか無くなっちゃったよ」
「龍が如く0 誓いの場所」の登場人物、佐川の有名な台詞です。ネットミームにも一時期なってました。