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絵に描いたぼた餅  作者: ギリゼ
本編
12/13

第12話駆け込み寺


 

 学業に勤しむ実感の湧かない時間を浪費し、下校した石津は1度帰宅してからケーキ屋、『クレール・ド・リュンヌ』へ訪れる。木造を模した店の壁が、日陰者の来店を拒む結界のようだ。


 白い形崩れした襟のTシャツを着ている彼は、すぐ対人能力の低い性格を見抜かれてしまう格好だった。所持している服の種類が恐らくオランウータンのぬいぐるみより乏しい。


 それ程ケーキを好まず、一緒に来店する友人すらいなかった石津は本来、ケーキ屋と縁遠い。しかし、数時間前まで友人だった茉理の紹介がきっかけとなり、何度か足を運んだ。従業員は非凡な人間達で構成されている。


 自転車を出入口横に駐輪させ、石津が入店した。暴力を振るわれない明日を得る為、三中に問題解決を頼む腹積もりだ。突発的な告白よりは成功の確率が高い。


 店内の喫茶スペースで茉理の先輩はいた。しかし、三中の姿が見当たらない。その空白を埋めるように、ボンテージスーツの人物は、女子高校生と向かい合う形で座っていた。


 明らかに副店長から叩き出される格好だ。色合いのせいか、一瞬だけ霊感を持っていないはずの石津は()()と見間違える。スーツの穴から無機質な瞳が彼を注視した。すっかり、ケーキ店の治安は悪化している。


 「目的は大体検討付いているけど、しっかり買い物すンだよ」


 白い調理服姿の副店長が、腕を組みながら卓上冷蔵ショーケース越しに釘を刺す。厄介事を持ち込んでいる彼を快く思っていないようだ。彼女の他に、茶色三角頭巾の女性従業員も出勤している。


 所持金のほとんどを巻き上げられた石津は机のカゴからプレーンクッキーを取り、購入した。会計を担当する女性従業員が、淡々と作業を行う。


 喫茶スペースを利用する権利を得て、彼は茉理の先輩へ挨拶した。人間関係を除けば気の強い一般的な女子が早速難癖を付ける。狸のような目元に反し、手厳しい。


 「あれぇ? 丘people!? どうして()()()()が小さいのぉ!?」


 長い髪を背中へ垂らす彼女から、劇の面影は消えていた。理不尽な扱いを受けた彼が軽く謝罪して、事情を話す。茉理の先輩、二田部秋菜(にたべあきな)を通せば、三中は要望を無碍に扱えない。


 「知努お兄が睨み利かせても結局見てない所でカツアゲされるだけ」


 「手っ取り早い方法は学校に財布を持って行かず、しばらく耐える事だね。良い人生経験じゃん」


 彼女の返答から、孤立無援の状況を石津が改めて思い知る。常時、虎の傍でいなければその威を借りられなかった。彼は落胆しながら頷く。


 ボンテージスーツの人物が2人の会話に興味を示さず、反対側を眺める。飛行帽を被った子犬のゴールデンレトリバーの絵や、机にバイクや車の自動車を展示しており、ほとんどは店長の私物だ。


 口元のファスナーを閉じられ、その人物が誰かに石津より粗末な扱いを受けている。目的を無くした男子高校生は、その人物の正体を世間話程度の認識で訊く。


 「ちょっと精神状態が不安定な人。うちの知り合いなんだけど、今日はあまり良くないみたい」


 ()()に遭いたくない石津が深入りを避ける。従業員2人と秋菜は危ない人間を軟禁し、監視下へ置いていた。とても子連れや学生の客が安心出来る状態で無い。


 無駄骨を折った彼は挨拶もせず、退店しようとする。ちょうど前の扉が開き、数十年前の自衛隊員らしき格好の男子小学生は入店した。副店長の息子、オパールだ。


 額の左側にガーゼを貼っており、未だ傷が癒えていない。服装に合わせ、オリーブグリーンの戦闘帽も被っている。彼は厳かな表情で規則正しく歩む。


 深紅の翼竜らしきぬいぐるみを伴っていた。黒く鋭い半開きの(くちばし)、3本ある爪のような鶏冠(とさか)、何重にも隆起していたクリーム色の胴体を持つ。


 辺りの雰囲気に気圧され、石津が退店出来なくなった。片手へぬいぐるみを持ち直し、オパールは副店長の正面で立ち止まる。素早く徒手の敬礼と到着の報告を行う。


 「斎方二等陸士及び、半年前にぃ()()()()きて、みっちり調教したぁ()()()()、到着しました」

 

 ぬいぐるみの説明だけ、掠れた声へ変わる。上官役の母親に『()()()監視』の任務を与えられて、彼が喫茶スペースへ行く。


 担任教師の説明通り、三中は未だ店内にいた。何らかの原因で精神異常を起こし、ここへ隔離されている。全身を覆うボンテージスーツが接近禁止の警告文代わりとなっていた。


 退店の良いタイミングを逃し、石津は秋菜に着席を命令される。彼が退店して、場を白けさせたくないようだ。オパールは彼女の隣へ座り、ぬいぐるみの代弁をする。


 「恐竜坊やもそうだ、そうだと言ってます」

 

 先輩の女子に逆らえない石津が近くの座席へ座った。大した話題を持っておらず、黙々とクッキーを食べる。一方、オパールは秋菜に1ピースのチョコレートケーキを奢って貰う。


 2人がケーキを食べながら、ケーキ屋の出張販売イベントに関して話す。ショッピングモールの食料品売り場前の場所を借りて、期間限定出店を行うようだ。


 秋菜の退店まで拘束されていた石津は、会話の輪へ入ろうとせず、無為に時間を過ごす。三中が暴れ出す事も無く、ひたすら苦痛を感じさせる平穏な空間だった。


 石津と同じく、傍迷惑な問題を持ち込む女子の来店で、彼の退屈は終わる。制服姿の茉理がストーカー男との話し合いの場をここに指定した事を秋菜へ伝える。


 「それは良いとして、()()()を起こしたらどうなるか分かってんの?」


 「うん、分かっているよ。だから、巻き込まれたくなかったら早く帰ってね」


 力無く笑い、バイト先の先輩すら信用していない彼女は、卓上冷蔵ショーケースの元に行き、チーズケーキを1ピース購入した。無言で女性従業員からケーキを受け取り、喫茶スペースに戻る。


 石津の側頭部をいきなり力強く殴り、床へ落とす。副店長が注意するも、茉理は聞く耳を持たなかった。ストーカー男を殺し兼ねない形相へ変わる。


 「邪魔。死ねよ害虫」


 側頭部を押さえながら起き上がり、彼が奥の座席へ移動した。クッキーしか購入していない客の立場は皆無に等しく、彼女と争えば周りを敵に回してしまう。石津の正当性など誰も尊重しない。


 茉理の暴力行為を()()()と見做されず、彼女は奪った席を占拠する。しばらくし、監視対象の三中が席を立ち、手洗い場へ向かう。他者との関わりを一切拒絶している。


 「オジラ、トイレに進行中。繰り返す、オジラ、トイレに進行中」


 「了解、引き続き奴の監視をせよ。これより第四種警戒態勢に移行する」


 副店長は謎の警戒態勢宣言をしたが、それらしい動きは見せない。気が抜けているオパールは幼児向け番組の主題歌を歌いながら、ぬいぐるみを踊らせた。両翼を大きく斜め上や左右へ広げる。


 店内の雰囲気が和らいだ矢先、健全な目的を持っていない男子高校生2人が来店した。木刀や金属バットを持ち、明確な敵意を示す。オパールは1人の男子高校生を指差しながら驚く。


 「あ! 昨日の()()()()()!」


 「あぁ!?」


 副店長が低い声を出して、その男子高校生を睨む。視線の先に、木刀を持つ男子高校生、()()()()()はいた。彼女が手洗い場の方を向き、猛獣を呼び戻す。



 向上心の高い読者向けに内容の解説を載せておきます。

 〇ボンテージスーツ

  黒いポリ塩化ビニル生地で全身を覆っているスーツです。『パルプフィクション』や『グランド・ゼフト・オート サンアンドレス』のGinp suitのパロディです。ホラーゲームのクリーチャーにしか見えないです。

 〇丘people!?

  某大物配信者の有名な台詞の1つです。石津と同族の男子を煽る時に、秋菜は良く大物配信者の台詞を引用します。

 〇三中の精神不調の原因

  少年期のある出来事がきっかけで、解離性障害を患っています。別の人格は歪んだ正義感を持ち、不必要と判断した命を殺処分します。幼少期の髪が長い頃の写真を見せない限り、基本、彼の人格入れ替わりは起きません。

  約11年ぶりの入れ替わりで、空白期間の変化を受け入れられない為、ケーキ屋に軟禁されています。

  副店長や女性従業員(絹穂)をある程度信用しており、情緒が安定しています。

 〇オパールの格好

  かつて自衛隊で採用されていた65式作業服です。「ゴジラ(1984年版)」の陸上自衛隊員を参考にしています。彼の母親は「ゴジラVSビオランテ」の前年に誕生しました。

 〇翼竜のぬいぐるみ

  「ゴジラVSメカゴジラ」に登場するファイヤーラドンをモチーフとしています。オパールの叔母が作成しました。

 〇二等陸士

  半年の教育期間が終わると、この階級を与えられます。『僧侶殺人事件』の犠牲者、三中アパアパはオパールより階級が高く、三等陸曹です。

 〇半年前にぃひらってきて、みっちり調教した~

  「奴隷調教地獄絵図(SM奴隷オークション)」のオークション男の台詞を引用しています。ホモガキの父親から影響を受けています。

 〇恐竜坊や

  「ゴジラVSメカゴジラ」の主人公、青木一馬がGフォース隊長から呼ばれていた渾名です。その青木が翼竜マニアだった為、オパールはぬいぐるみをそう呼んでいます。

 〇オジラ

  怪獣王、ゴジラのパロディです。三中が初めて劇場で観た作品は「ゴジラ モスラ キングギドラ 大怪獣総攻撃」です(作者と同じ)同時上映がハム太郎で、多くの子供は白目ゴジラ(通称GMKゴジラ)の怖さに泣かされました。

 〇~もそうだ、そうだと言っています

  「三大怪獣 地球最大の決戦」の「ラドンもそうだ、そうだと言っています」が元ネタです。ゴジラの「人間はいつも我々を虐めているではないか」に同調しています(小美人の翻訳したやり取り)

 〇第四警戒態勢

  「ゴジラVSビオランテ」の国土庁が発令する特殊警戒態勢の事です。第四警戒態勢は「Gゴジラが日本の特定地域に上陸する事が確実とされる場合」を意味します。

 〇ぬいぐるみの踊り

  「しまじろう」の「ハッピージャムジャム」です。恐竜坊やをとりっぴぃに見立てています。三中とアパアパも2歳児のご機嫌取りで、これを踊らされています。

 〇カツアゲ君

  「龍が如く0 誓いの場所」に登場する強敵です。巻き上げた金を取り戻すと、何故か倍になっています。

 

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