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中編

失意のまま城に戻ったカルタム王は考えた。これはむしろ幸運かもしれない。フィラもいないが、王妃もいない。王妃の顔を知ってるものは少ない。フィラを見付け王妃と入れ替えてしまおう。


「簡単にはいかないかもしれません」

「どう言う事だ」


側近に話しをすると、自分が討伐のために海に出ている間に、不穏な噂が流れ始めたというではないか。


「輿入れしてから王妃の姿を見たものはいない」

「王妃が行方不明だ」

「実はすでに死んでいるらしい」

「死因は他殺」

「犯人は王に横恋慕した令嬢か」

「もしくは国王自身か」

「他の女に入れ上げた国王が邪魔になった王妃を亡き者にした」


なんて事だ、また王への不信感が大きくなってしまう。まったく厄介な事をしてくれたのだ、王妃は!


「もうすぐ建国記念日です、それまでに王妃を探し出し噂を払拭させましょう」

「それしかあるまい」


側近と相談し、秘密裏に式を挙げた神殿へと行く。


カルタム王と王妃は式の際「婚姻の絆」を結ぶ儀式を行った。これはカルタムの王侯貴族が代々行う、新郎と新婦の間に縁を繋ぐ神聖魔法だ。最近では裕福な平民も行っていると聞く。海洋貿易の盛んな地域なので、夫と妻が離れ離れになっても再会できるようにとの祈りから出来たと言われている。


この「婚姻の絆」の縁を辿ると、片方の所在を調べる事が出来る。細かくは難しいが方角や国や地域などを知ることが出来る。当然、生死についてもだ。


神官の協力が必要なので、口の硬い者を選び、王妃の捜索をする事になった。


「分かりません」

「どう言う事だ」


ところが、せっかく神殿に赴いたのに、神官はあっさりと諦めた。おまけに意味の分からない事を言う。


「神聖魔法が発動されません。“婚姻の絆”が解除されたと言う事です。つまり離縁と言うか、婚姻無効の状態ですね」

「そんな事した覚えはない!」


どことなく嫌味なこの神官は一つため息を吐き出して説明した。


「ある条件が揃えば片方からでも解除可能です」


そう説明する神官の視線には侮蔑の視線が含まれていた。神官が言うには「婚姻の絆」の解除は双方揃っていれば、無条件解除出来るが、片方のみの場合は3年以上純潔を保っている事が必須。つまりは片方のみで解除申請を行なっているのは女性が殆どで、夫に不当に扱われている事が多いとのことだ。夫から逃げるために縁を切るのだと言う。


「幼い妻に無体を強いる事をしなかっただけだ」

「そのように大切にされていたなら、王妃様は何故“婚姻の絆”を解除し、お姿を隠したのでしょうね」


そんなもの知るか!そう叫びたいのを我慢し、くれぐれも内密にするよう言い含めて神殿を後にした。城に戻ると側近が苦い顔を作りながら言った。


「仕方ありません、地道に捜索しましょう。他の貴族に知られると攻撃材料になります。王妃様は病で伏せっている事にしましょう。捜索は秘密裏に行います」

「頼む」

「では、王妃様の特徴を教えて下さい」

「知らん」

「え、顔を見ていないのですか?」


会った時からベールを被っていたし、誓いのキスも交わさなかったので、顔を確認していなかった。容姿に興味もなかったので釣書も見ていない。条件のみで選んだ王妃だ。


「陛下!いい物がありました」


そう言いながら侍従が持ってきたのは、婚姻の前にシェル国から送られてきた王妃の肖像画だった。どこか適当な所にしまっておくよう、侍従に頼んだ記憶がある。


見ると、銀髪の美しい少女が薄く微笑んでいた。


「お綺麗ですね」


側近が感心したように深いため息を吐き出した。確かに美しいが、王侯貴族の肖像画など、多かれ少なかれ実物より美しく描いてるものだ。


「ん、まさかな……」


側近が考え込むように肖像画を睨み付ける。


「どうした?」

「フィラに似てませんか?この肖像画の髪を茶色くして、少し大人にさせるとフィラそっくりになる気がして」

「まさか、他人の空似だ。フィラはもっと美しく、優しく、気高く、健気で、可愛らしい」

「ですが、王妃とフィラが姿を消した時期は同じです」

「王妃が姿を消したのは、もっと前だろう。王妃の部屋の汚れ具合は2、3ケ月とは思えない」

「しかし」

「フィラと王妃が同一人物のはずがないだろう。もし、フィラが王妃なら姿をくらませる理由がない」


自分達は真実の愛で結ばれているのだから。


しかし必死な捜索も虚しく手掛かりも掴めない。王妃の捜索は難航を極めた。カルタム王としては王妃よりもフィラを先に見つけたい所だが、どちらの捜索も順調とは言い難い。


気が付けば、建国記念日が迫りつつある。


「仕方ありません。代役を立てましょう」


あと一ヶ月となった日、側近は言った。

通常業務に加え、王妃とフィラの捜索を行なっている彼には疲労の色が見える。


「分かった、そうしてくれ」

「王妃様の背丈はどれくらいでしたか?」

「確か、この程度だったと思う」


ぼんやりとした記憶を頼りに王妃の身長を伝えると、後宮に王妃のドレスが残っているのではないかと思い付いた。


「王妃のドレスを着れる銀髪の女なら誰でも良いだろう」

「分かりました。口の固い者探してみます」


そして、迎えた建国記念日の同日。カルタム王の前には化粧の濃い銀髪の少女が立っていた。


「あの肖像画とは、あまり似てないな」

「申し訳ありません」


少女はガラガラとした声で謝罪をする。あまりの声の低さに驚くカルタム王。


「彼は私の従兄弟の息子です。声変わりが始まってしまっているので人前で喋らせないで下さい」


秘密を守れそうな小柄な女性を見つけられなかったと言う。


「国民への披露が終われば問題はない。頼むぞ」


そうしてカルタム王は少年を伴い、広間へ面したテラスに向かう。外からは自分の登場を今か今かと待ち侘びる民の声が聞こえる。


厚化粧の少年と共にテラスに出ると、カルタム王は国民に手を振る。

偉大なる王、国民の父、カルタムの守護者ここありと。


ところが民草から上がったのは歓声ではない、戸惑いの声だった。


「王妃様、ちゃんと生きてたんだねぇ」

「でも小さくない?」

「確か13歳だって話しだぜ」

「これは輿入れの時の話だろ?」

「じゃあ今は16だよね、どう見ても子供じゃないの」

「うちの娘は14歳だが、王妃様よりデカいぞ」

「ちゃんと、飯食わせてもらってんのか?」

「王妃様が虐められてるって話は本当だったんだ」


カルタム王は婚姻から三年の月日が経過し、当時13歳だった王妃は16歳へと成長してる事を失念していた。その三年間は大人の三年とは違う。子供が大人へと成長していてもおかしくない時間だ。


「まずい事になった」


部屋に戻りうめくカルタム王に側近は言った。


「いえ、大丈夫です。王妃様は侍女達から世話を放棄されてました。その精神的苦痛から病になり成長が滞っているとしましょう」

「なるほど、それでいこう」


頭の切れる側近がいる事が誇らしく思った。その理由があれば、あの侍女達の罪も重く出来るだろう。


「それからご覧ください。この帳簿を」


見せられたのは王妃の予算の内訳が書かれたものだった。内容はドレスに宝飾品、茶葉などの嗜好品だ。


「おかしな所はないが」

「いえ、よく見て下さい。婚姻直後からワインなどの酒類も購入してますが、幼い王妃が飲む物ではありません。それに音楽家を呼び、小さな演奏会を催したと書かれてますが、調べたら彼等は男娼でした」


なんと後宮に男娼を呼んだのか。しかし王妃は純潔であるはずだ。でなければ勝手に「婚姻の絆」を解除できない。


「そうです、男娼を呼んだのは侍女達です。それに注文したドレスのサイズも調べましたが、全てバラバラでした。王妃様のドレスなら、少しずつ大きくなるはずでしょう。これらの注文も侍女が購入したものです」

「横領ではないか」

「おまけに、購入記録がある物品が実際には納品された記録がない案件もあります。その購入先は侍女達の家です」

「生家も横領に関わっていると言うことか」

「はい、また菓子や酒は購入しても、食料を購入した記録も料理人を雇った記録もない。王妃様の食事のご用意をしていなかった。ここまで酷ければ不敬罪に相当します」


生家も巻き込んだ横領に不敬罪。これだけ罪が揃えば偉そうに踏ん反り返っている貴族どもも反論できまい。


「粛清だ!」


こうしてカルタム王と側近達は、有力貴族の力を削ぐ事が出来た。王妃の存在も役に立つではないか。しかし悪徳貴族を粛清してやったというのに、カルタム王の国民からの支持は底辺を漂っていた。


単純な民草は王侯貴族はすべて悪と思い込んでいるのだ。


「幼く見える王妃様に同情しているのでしょう」


そう言ったのは側近だ。


「だが奴は我儘で醜悪な女だ。同情されるなら、そんな女を娶った私だろう」

「ええ、ですが民は王妃様の実態を知りません」


確かに、一理ある。我がカルタムの国民にも王妃の本性を知って欲しいところではあるが、今は本人が行方不明だ。


「ままならないものだな」

「お労しいことです」

「あの、自分に一つ考えが」


自分達のそばで話を聞いていた侍従の一人が口をひらいた。


「元々は王妃様が行方不明だという噂が発端です。それだけ聞くと、やはり恐ろしい陰謀に巻き込まれたと想像してしまうでしょう。ですが実際の王妃様は悲劇のヒロインではなく悪女です。その事実を噂として流しましょう」


なるほど、偽の情報ではなく真実を広めるというのかとカルタム王は感心した。


「仮初だとしても敬愛する陛下のお妃様でいらっしゃる。ですが、私めは、どうしても皆に真実を伝えたいのです。どうか、許可を」


そう言って侍従は首を垂れる。なんと素晴らしい忠誠心だろうか。侍従の純粋な言葉に胸が熱くなる。


「許す。良きにはからえ」

「御意」


そうして、侍従は王妃の悪い噂を広めるため、城下町にある「銀のランプ亭」という料理屋にやってきた。この店は非常に繁盛しており、町の住人をはじめ、旅の商人などの出入りも多い。噂を広めるなら最適だろう。


通常、大衆のプロパガンダなどをコントロールするなら、国の暗部などが行うだろう。ところがカルタム王の周囲には、そのような人材はいない。しかし、民草に噂を流す程度なら、自分だけでも簡単だ。


しかしながら、王宮に勤める侍従が王妃の悪い噂を広めるなど外聞が悪い。旅の商人を装って店に入る事にした。


「いらっしゃい。お一人ですか」


テキパキとした印象の給仕の女に席に案内され、テーブルにつく。いきなり、言い始めるのもおかしいだろうと思い、ワインとつまみになりそうなメニューを注文する。


「お待たせしました」

「な、なあ、お嬢さん。知っているか?この国の王妃はとんでもない悪女なんだ」

「へーそうなんですか」

「我儘三昧で、性格が悪いらしい」


よし、完璧だ。こういった店で働く女はお喋りで口が軽い、あっという間にカルタム国中に広まるだろう。王の誇りを回復させた満足感に満たされてながら、ワインと食事に手をつけた。下々の店にしては、なかなか美味い。


「例えば?」

「は?」

「どんなところが我儘なんです?」

「何がだ?」

「王妃様はどのような我儘をおっしゃってるんですか?」


魚のソテーを口に入れたと同時に声をかけてきたので、良く味がわからなかった。しかも、王妃の我儘なんぞ知るわけがない。面倒臭いな思った侍従はさっさと会話を切り上げる事にした。


「我儘と言ったら我儘なんだ。それ以外に何がある」

「お客さん、孤児院に行ったことあります?」

「そんな所に行くわけがないだろう」


給仕の女は急に話題を変えてきたので、侍従は少し戸惑いつつも答えた。


「孤児院では、色んな理由で満足に食べられなかった子供もいて、そういう子って栄養不足で成長が止まってしまってる子も多いんですよ」

「だから何だ」

「王妃様は他国の王女様だったんでしょう?」

「そうだ」

「この前、お城の発表で、侍女達が王妃様のお世話を放棄していたために、体調を崩して、成長が止まってしまったって知らせがあったんですよ」

「知っている」


我々が発表したのだから。何が言いたいんだ、この娘は。侍従は苛々し始めた。


「王妃様も満足にお食事をとらせてもらえなかったんだろうなって。お姫様がご飯さえまともに貰えない状況に不満を持たない訳ないですよ。それを我儘だなんて言う方が人でなしですよ」

「なんだと!」


給仕の小娘ごときが、偉大なカルタム王の臣下である自分に反論するとは何と生意気な!小賢しい顔を打ち据えてやろうと、手を振りかざした瞬間、強い力で腕を掴まれる。


「何をする!放せ!」


がたいの良い男が侍従の腕を捻り上げていた。


「無礼だそ!」

「何が無礼だ、アンタこそ、エリーに何しようとした!」

「いきなり殴ろうとするなんて、最低の男だね」

「そんな奴、警備に突き出してやれよ!」


店内では暴行を受けている自分ではなく、狼藉者を支持する声が次々と上がる。


しまった、今の自分は旅の商人であって、王の臣下ではない。下手に騒ぎを起こしたら政敵に弱みを握らせる事に繋がるかもしれない。しかし、誇り高きカルタムの貴族が、野蛮で下等な愚民に謝罪するなどあってはならない。


「ありがとうございます、ガイルさん。もう大丈夫ですよ」


だが、小娘は己の愚かさを自覚したのか野蛮人に手を放すように言う。


「エリー、本当にいいのか?」

「また何かしてきたら、股間を潰してやります」

「分かった。思いっきりやってやれ」


侍従はやっと腕を解放され、安心したのか、給仕の女が物騒な内容を話しているのを聞いていなかった。


「お客さん、他国の人なんでしょう?ひとつ一つ良い事を教えてあげます。カルタムでは、むやみに王侯貴族の悪口を言うと不敬罪になることもあるんですよ」


本当に生意気な小娘だ。平民というのは言われたことをハイハイ聞く生物だろう。しかし、ここで引くわけにはいかない。我が王の名誉回復と言う使命があるのだから。


「ああ、だが、本当に王妃はとんでもない悪女なんだ」

「ですから、そう言う話は具体的に言ってもらわないと、誰も信じませんよ。例えば、花屋のクレオさんはバッカン伯爵に季節的に絶対手に入れらない花を入荷させろって命令されたけど、当然不可能で、怒った伯爵からバザールでの商売の許可を取り消されました。ダメーン男爵は八百屋や果物屋など、色んなお店で、大量注文してはキャンセルを繰り返すので、バザールの要注意人物です。アーフォー子爵は釣りをしたいからって、ジョニーさんの漁船を無理やり奪いました。お金は払ったけど、その船はジョニーさんのお祖父さんの代から乗っていた大切な船だったんです。お金を積まれても売る気なんて、そもそもなかったんですよ」


給仕の女は次々と貴族達の迷惑行為を上げる。カルタムの貴族は民を雑草だと思ってるらしく、簡単に踏み潰すような行いをする。そのため、街の住人達は自衛のためにも無茶を言いそうな貴族の情報は正しく共有しているのだ。


「ねぇ、お客さん、王妃様はどんな我儘な事をしてるんですか?」

「ええと、だから、その。あれだ」


侍従は動揺している。たかだか料理屋の給仕がこんなにもしっかりの貴族の行為を把握してるとは思わなかった。ここに来て、やっと適当な内容では噂は浸透しないのではと不安になる。


「……ド、ドレスを買い漁ったり」

「貴族のご令嬢なら、沢山ドレスを購入するのは普通ですよ」


苦し紛れに出てきた言葉はアッサリ否定された。挙げ句に聞いていた客も王妃を擁護する。


「ウチのカミさんは仕立て屋でお針子をやってるからな、買い漁ってくれりゃあ、ありがてぇってもんだ!」

「まあまあ、旅の人をいじめるなって」


すると、それなりに身なりの整った男が侍従を庇いはじめた。ところが、その男が続けた言葉にさらに詰まる事になる。


「なぁ、俺は布地の卸をやってるんだ。王妃様がドレスを購入した店を教えてくれないか?王妃様御用達の店に布を卸せれば良い宣伝になるからな」


適当に言った言葉だ。侍従は王妃が買物をしてる店など知らない。


「あ、あー確か、ここから近くにある店だったような」

「この辺だと、アリア商店か?」

「そうだ、確か、そんな店だった。では、先を急ぐのだ、失礼する」


そう言って侍従は店を後にする。

やったぞ、トラブルもあったが成功だ。すぐに王妃の悪行は国中に広まり、王への批判も鎮まるだろう。腕は痛むがこれは名誉の負傷だ。侍従は誇らしさを胸に城へと戻った。


「ありゃ何だったんだ」


侍従がいなくなった店では布地の卸をしていると言う男がエリーに向かって呆れたように言った。

侍従が王妃御用達と言ったアリア商店は平民が利用する古着屋だ。王侯貴族がドレスを注文する店ではない。


「デタラメな噂流して、どうするつもりだったんでしょう」


給仕のエリーも困惑してる。いい加減な情報を流すわけにはいかない。カルタムでは貴族の情報は生活を守るための道具でもある。しかも王妃についての批判だ。迂闊な事は言えない。


「そうだ、エリー。ルヴァランまで護衛を頼みたいのだが、腕が立って信頼出来る冒険者を知らないが?」


布地を扱うという、その男はエリーに尋ねた。


「いつ頃、出発予定ですか?」

「ニ、三日中にはカルタムを出たいな」

「分かりました。ガインさん。ルヴァランまでの護衛の仕事ですが、如何ですか?」

「おうよ、任せろ」


エリーは元々はギルドの職員だった。しかし退職後、ギルドマスターの不正や問題が発覚。新たなギルドマスターが派遣されるまでギルドが閉鎖状態なってしまったのだ。


移住を考えていたエリーだったが、ギルド本部の調査員から調べが終わるまでカルタムにいて欲しいとの頼みで、出国を延期。ギルドの調査が終わるまで、行きつけの「銀のランプ亭」で給仕の仕事を始めたのだが、調査後もギルドの再開の目処はたたない。


カルタム国は港があり、海洋貿易などの流通が盛んで、護衛を求める商人が多い、また、仕事の依頼を受ける事が出来なくなり冒険者も困っている。


エリーは銀のランプ亭のご主人と奥さんに許可をもらって、ギルドが再開するまで、店で依頼者と冒険者の仲介を始めた。元ギルマスから慰謝料をたんまり貰っているのでお金には困っていない。個人で始めた事だし、仲介料は貰わないつもりだったが、冒険者達にも依頼者達にも、何故か店のご主人と奥さんにも「ちゃんと、仕事の見返りは貰いなさい」と言われてしまった。


せめて場所代をお店に払おうとしたが「給仕だけじゃなくて、帳簿付けの仕事までやってくれてるんだからいらないよ。エリーちゃんのおかげで商人や冒険者が集まってきて、繁盛してるんだから、こっちが感謝してるんだよ」などと言われて恐縮してしまった。


エリーはやっぱりこの国が好きだなぁと思う。住民も旅の商人も良い人達が多いし、海も美しいし、何より食事が美味い。


特に、この銀のランプ亭の賄い。魚介の煮込み(ブイヤベース)の絶品なこと。毎食毎食、幸せな気持ちになる。


カルタムの王侯貴族はナメクジだが、移住は考え直そうか。あいつらさえ、居なくなれば皆幸せなのだ。塩をぶっかけたら消えて無くならないだろうか。


こうして、決死の思いでカルタム王の名誉を回復させるために銀のランプ亭に来た偽の商人の事など、店にいた誰もが忘れた。国王の評判は悪いまま、カルタムの国民の生活は続いていくのであった。

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