第八話
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「うん、職員室のキーボックスの事なんだけど…。あのキーボックスの番号って、先生に教えてもらった?」
「え?えぇ…。」
知念さんは、僕を再度ちらっとみて、歯切れ悪く肯定する。おそらく「部外者にそんな事教えていいのか?」という視線だろう。光が慌てて事情を説明している間、僕はいたたまれなくなって、視線を外した。少し立ち位置を変えると、遠くの方に藍沢さんがシュート練習をしているのが見えてしまい、慌てて知念さんと光に視線を戻す。
「なるほど。私が携帯を盗んだかって聞きたいのね?」
知念さんは、冗談交じりに笑いながら事情をくみ取ってくれた。
「まさか知念さんがそんな事するはずはないと思うけど、何か知ってたらと思って。」
「ふふ、ありがとう。結論から言うと盗んでないけど、今日の昼休みの時にキーボックスは開けたわよ。」
「そうなの?」
「うん。ちょうど新品のバスケットボールが届いたんだけど、部活の開始までに運ぼうと思って、体育館横の用度室の鍵が必要だったのよ。それで昼休みにキーボックスを開けて取り出したってわけ。」
どうやら、休日くらいしか開けることがないと思っていたキーボックスは、顧問の先生によっては、結構ゆるく管理されているようだ。
「その時に遺失物ボックスの鍵はあった?」
知念さんは、今度はバスケットボールを指先でくるくると回しながら、開けた時のことを思い出しているが、うーんと難しい顔をしながら、考えている。
「遺失物ボックスの鍵って地味だから全然気にしてなかったけど、開けた時に違和感がなかったからたぶんあったんじゃないかな?でも、自信ないかも。ごめんね。」
「遺失物ボックス自体は見た?」
「わからないんだよね…あそこごちゃごちゃしてるからさぁ…携帯あったかなぁ…なんかマジックとかハンカチとかあったのは覚えているのよ…。」
「そっか、ありがとう。」
「どういたしまして。あまり力になれなかったかも。見つかったら教えてね。」
知念さんはそう言って申し訳なさそうな顔をしながら、部活に戻っていった。
「とてもいい子だろう?女バスの部員だけからじゃなくて、運動部全員から人望が厚いんだ、知念さんは。俺も大助かりさ。」
そういって光は、体育館から音楽室に向かう間、知念さんがいかに素晴らしい人かを力説してくれた。
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