第二話
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「運が悪かったな、薫。」
理科の授業が終わると同時に、ニヤニヤしながら悪友が話しかけてきた。悪友の名前は高城光。今年のクラス替えが発表された日、僕はまた一年こいつと同じクラスなのか、と思ってげんなりしたくらいの悪友だ。僕はいつも、何かと光に巻き込まれている。
光は、僕の前の席に座り、後ろを振り向いて雑談をする態勢になった。
「光が昨日、イベントに誘うからだろ…。そのアラームだよ…。」
僕は、アラームを解除し忘れていた自分のことを完全に棚にあげ、すべて光のせいにした。それを許されるくらいには、いつも迷惑をかけられていると自負している。
「まぁまぁ、明日には帰ってくるんだしさ。」
「輝かしい未来ある中学生の一日に携帯がない事とかけまして、無能な泥棒ととく、だ。」
「どういうことだ?」
「どちらも『する(スル)ことがない』だよ。」
僕は「お~、なるほどね。」と顎に手を当てて感心している光を無視して、机の引き出しをごそごそとさぐり、次の授業の準備を始める。次は確か、国語だったか、と思いながら、教科書とノートを探していると、光が脈絡もなく話題を変えた。
「そういえばさ、女バスのエースいるだろ、くるみちゃん。」
「それがどうした?」
女子バスケットボール部のエース、藍沢くるみのことを知らない男子はいない。美人で誰にでも優しいため、男子生徒みんなからの憧れの存在だ。毎月誰かに告白されているだの、道を歩けば芸能事務所にスカウトされるだの、くるみ伝説がいくつかあるが、真偽は不明だ。
光は机の上に組んだ腕を置き、ニヤニヤしながら前のめりになって、僕にしか聞こえないくらいの小さな声で囁くように言った。
「お前の事、好きなんじゃないか?」
「はぁ?」
僕は、突然光がとんでもないことを言ってくるので、声が裏返ってしまった。僕は自慢じゃないが、平凡な中学生だ。勉強も平均点、体育も平均点。ギターが趣味だが、特に部活はやっていない。高校で軽音部があれば、そこに入ろうかなと思っているが、松原中学にはギターが演奏できる部活はなかった。身長は百七十五センチと少し高い方だが、筋肉はない。運動部のキャプテンや、学年一位の秀才とかいうアイデンティティは持ち合わせていない、ただの一生徒だ。学年一のマドンナであるくるみちゃんが、そんな平凡な僕に好意を持っているなんて、天地がひっくり返ってもないだろう。僕は、なんでそんな突拍子もない説に至ったかの理由を続けるように、光をじっと見つめる。
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