第一話
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僕は、市立松原中学校に通う二年生、花崎薫だ。
ある日、先生に没収されていた僕の携帯が、誰かに盗まれた。
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「花崎薫!」
ある日、授業中の教室に、熊井先生の野太い怒号が響いた。
「へ?」
僕は、家でギターを弾いている様子を生配信している最中だったはずだけど、どうしたことかと、ぱっと顔を上げた。顔を上げた瞬間、ぐらぐらと僕の景色が揺れた。ぐにゃりとゆがんだ景色が落ち着いてきたと同時に、僕の視界がぱっと開ける。そこには、鬼の形相をした熊井先生、通称クマ先生が、教壇から降りてくる姿が見えた。それに、クラスメイト達が一斉にこちらを振り向き、にやにやと笑っている様子がだんだんと広がっていく。
「寝ていたな?」
つかつかと歩いて僕の目の前まで来たクマ先生が、腕を組んで仁王立ちし、僕を睨みつけている。
「寝て…ましたね。」
僕は、うつぶせになっていた顔を上げて、ゆっくりと背筋を伸ばす。そして、少ししびれる手で頭を掻きながら、クマ先生の質問に答えた。机の横にかけているスクールバックから、僕の携帯のアラームがけたたましく鳴っている。その音に、全然気づかなかったくらい、僕は熟睡していたようだ。アラームはスヌーズ機能になっているため、現在進行形で教室中にけたたましく響いている。
僕は、昨日、ゲームのオンラインイベント開始時に合わせてセットしたアラームの解除を、忘れていたことを思い出した。
「とりあえずアラームを切れ!」
クマ先生は仁王立ちをしながら、じろりとスクールバックに視線をやる。
「はい、すいません。」
僕は素直にカバンから携帯を取り出し、パスワードを解除してアラームを切った。
教室中に響き渡っていたアラームの音が止むと、クマ先生は僕の手からひょいっと携帯をとりあげた。
「あ、やっぱりですか?」
僕は、万が一の奇跡を願っていたが、それは叶わなかったようだ。相手はクマ先生だったから、没収されないことは本当に万が一くらいの奇跡だった。しかし、僕は願わずにはいられなかったのだ。
「当たり前だ、校則違反だろ。持ってくるのはかまわんが、授業中に電源を切っとかないと、没収だ。罰として一日預かっとくから、明日の放課後取りに来い。」
「そんなぁ〜。」
クマ先生の容赦のない取り上げ方に、僕は絶望の声を出した。周囲のクラスメイトたちは、同情の視線だったり、人の不幸を面白がるような視線だったりと、反応は様々だ。クマ先生は教壇に戻りながら、僕の携帯をズボンのポケットにしまった。
「自業自得だ。授業進めるぞ。花崎はもう寝るなよ。テスト出るとこだぞ!」
「はぁい…」
僕は一気にやる気のなくなった理科の授業を、苦痛に満ちながら受ける羽目になった。
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