貞操、狂騒、錯綜!
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「大丈夫ですよ、ワタシは紳士ですから……なるべく痛くしないようにしてあげますよ……」
「紳士が薬盛って人を襲うか……!」
全力で声を出そうとしても蚊のうめき声の如く小さい。
いやもし大声が出せても、家人も了承の上なのかもしれない。
まさにまな板の上の鯉。
「いやあ、こんなに恋したのは初めてだよ……」
それは恋ではない!故意だ!というか悪意だ!
心の中でどれだけ罵倒しても伝わりなどしない。
「む?これは豊胸パッド?ハハハ、騙していたのはお互い様って事かな」
これで罪はトントンみたいに言ってる!
他人から否定されない人間は公平さがバグると聞いたことあるけど本当だね!
「服装からは分からなかったけど骨が太目だね……健康的で実に……むっ!?」
気づいたか!
バーモンは僕の上着を脱がしきるより先にパンツを脱がす。
「な……これは……ついてる!!」
「そうだよ僕は男!ついでに言えばマデロじゃなくてマジロっていうんです!」
自分の発する声が低くなり始めた。
声変わりの薬の効果が切れ始めたんだ。
こうなってはもう襲う気にもなれないでしょう。
っていうか先に男だって言っておくべきだった。
気が動転してて言いそびれていました。
と、バーモンがゆっくりと息を吐き、口を開く。
「我が社がなぜ今まで魔法杖製造業でトップであり続けられたか分かるかね?」
え?
なぜそんな唐突に自己啓発本のタイトルみたいな事を言い始めるのでしょうか?
「それはわが社の経営理念が『開拓』『挑戦』を基礎としているからだよ。豊富な資金を新技術や新体系を研究する為に使い、伝統に惑わされることなくより良い会社を目指しているからに他ならない」
なんだか嫌な予感が。
「この理念は組織だけでなく、我らダッチ家の信条でもある。常に新しいものを取り込み、自分の中に淀みと反復を残さないことが幸福への道だと信じている」
そう言いながらバーモンは上着を脱ぎ始める。
まさか。
「時には倫理や常識、画一性に反する事だってやろう。新技術がそれまでの価値観や規則を壊してきた例はたくさんあるのだから」
おい。
「そう、ワタシはただ、崇高な理念に基づいて挑んでいるだけ」
「けっして男でも良くなっているわけではない」
ウアアアアアアアーーーッ!!
崇高な理念とやらを性癖の逃げ口上に使うなああああ!!
ベッドの上にバーモンが手をつき、ギシッと音を立てて揺れる。
布の落ちる音が聞こえてくる。
ねっとりとした性欲の滲み出た、ねっとりとした笑顔。
陰で暗くなっていても、はっきりと分かった。
もはやどうにもならないと、悟った。
僕の心にも、深い影が落ちかけていた。
バンッ!!
「はい失礼しまーす!!」
「バッチリ撮らせて頂きましたぁー!!」
突然窓が開き、人が飛び込んでくる。
先生とマスターだ!!
その手には撮影用とおぼしき魔法レンズが構えられている!
「な、君たちは!!」
「やあやあ社長さん!お楽しみの最中に申し訳ない!」
「いやあマジロ君遅くなってごめんよ!なかなかしっかりした警備で!でもお陰で決定的なシーンを撮れたから怪我の功名と言うべきかね!」
「……もしかして手遅れだったりする?」
突然の救いと、軽い怒り。
僕は、もう、感情が混線して。
情けない鳴き声をあげることしかできませんでした。
「おのれバーモン!よくもマジロの貞操を!後で感想を聞かせろ!」
「ちょっと待ってくれ!いや待て!未遂だ!というか不法侵入だ!!この悪党め!」
「毒盛って襲おうとしていた悪党に言われるセリフではないねえ!!!!」
「うぐ!」
「今撮った『未遂』の映像をバラ撒かれたくなかったら大人しく目録を出しな!」
「目録目録って、いったい目録如きにどんな価値があるって言うんだ!」
「それはだねえ!……」
(説明中)………。
「ラウホステインの連続誘拐事件の首謀者の名前が!?」
「そう。……まあ、いつ買ったかは分からないからあくまでも『リストの中から犯人を絞れる』程度の話だけどな」
「それに色々な意味で確証のある話ではないしね、だからこそこういう強引な手で目録を見ざるを得なかったというか」
「むうう……」
「それで、目録はどこに?」
マスターから貰った解毒薬を飲んで回復した僕が聞きだす。
「あ、ああ、ちょうどこの部屋の引き出しに。メジャー・グランド549年モデルはええと、ここだ」
取り出された一冊の目録。
厚く硬いカバーで覆われていて、まるで一冊の本。
それをパラパラと僕らは流しながら見る。
高価なシロモノとはいえ購入者は結構多い。
この中から目星を付けるのはかなり骨になりそうな……。
と思った矢先、明らかな異変がその目録に記されている。
顧客の名前が、1名分だけ黒く塗りつぶされていたのだ。
「!?そんなバカな!」
バーモンが思わず声を出した。
「盗人が、気づかぬ内に侵入して目録を塗りつぶした?」
先生の問いにバーモンは首を横に振る。
「いや、ありえないはずだ。この目録は個人認証魔法筆で書かれている」
「個人認証魔法筆?」
「人間一人一人の顔が違うように、魔力にも個人によって変わる紋様のような物があるらしいんだ。それを使った『特定の人間だけが記入、上書、削除のできる文字を書ける筆』それが個人認証魔法筆だ」
え?でもそれじゃあ……
「この塗りつぶしは確実にその筆で行われたもの。しかしワタシ以外に、今この筆を使用できる人間はいない」
「『今』?」
「……数年前に亡くなった前社長。つまりワタシの父であれば可能だったが……」
「……つまり、そこから分かる事は、『我が神』もとい誘拐の首謀者は、DBWの前社長と顔見知り、いや恐らく深い仲だったということ。そして、犯行計画は数年前から立てられていたということ。そして、消された名前の位置から察するに、ヤツが杖を購入したのは数十年前……」
「壮年から老年くらいの歳だということですな」
「だんだんと、近づいてきましたね」
「うむ。とはいえまだ情報は足りないな」
『我が神』。
絶対にお前を追い詰めてやるぞ!
僕自身を、この世界を、先生とマスターを護るために!
「よしじゃあお前ら撤収だ!」
「「おう!」」
「お、おい君達……!」
「映像の入った魔法レンズなら返さないぞ!ま、お前がアタシらを通報したりしない限りはバラまかないから安心しとけ!」
「いやそれも心配だが1つだけ!マデロ……いやマジロ君!」
「えっ!?」
「……住所だけでも教えてくれないか!?」
「誰が言うか!!!!!!!!!バーカ!!!!!!!!」
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