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懇親会場、ご挨拶!

誤字報告、ありがとうございました。

お読みいただきありがとうございます。

 タイザン国の首都、オトブルク。

 そこにある小城の広間。

 広く煌びやかな空間に集まる人々は、みなが魔法連盟の者なのでしょう、か?

 もっとどことなく陰鬱なイメージがあったのですが、身なりの整った紳士たちがにこやかに会談しています。


「……オジサンが多いですね」

「まあ、魔法学(魔法薬学含む)は陽の当たるような職業じゃないからなあ。指定の作業着で、保守的な思考の元に研究を行うさまは女性に不人気なのも当然ではある。事故も多いし」

「それにしては懇親会などとは社交的といいますか」

「ま、実態はご機嫌取りとコネ作りがほとんどだけどね」


 たしかにパッと見ても、1人を複数人が囲んでるような集団をポツポツと見かける。

 囲まれている人間は界隈の有力者なのでしょう。


「そういえば、僕らのターゲットであるDBWの社長は?」

「見た目も聞いていなかったねえそういえば」

「まあ待て、その前に知人に挨拶くらいさせろ。あとマジロ、ここからは喋らん方がいい。流石に声は装えんだろ」


 僕はだまって頷き、マスターの後ろをついていった。



 オジさんとジイさんの中間のような歳の男性に、マスターが挨拶をする。

 深々としたおじぎに僕らもあわせて礼。


「お久しぶりです、サマンさん」

「おおっ!だれかと思えば、アネッツァちゃん!やあやあ!元気してた?研究は進んでる~?」

「はい、息災でした。研究が多忙ゆえに挨拶の機会を長らく逃してしまい申し訳ありません。……でも、サマンさんの方こそお元気そうで、本当に良かったです」

「ええ?いや~さすがにトシだよ僕も~!体中痛むし!でもアネッツァちゃんの顔見たら元気出てきちゃった、かな!?女の子の笑顔が一番の栄養だよ!クククッ!」

「んも~」


 マスターの礼に頭も下げずに話し始めるサマン。

 でもマスターはにこやかで、声も1オクターブ高い。

 電話口の母みたいな、『よそいきの声色』だ。


「そっちの()と……そこの彼は?」


 サマンが僕の顔を覗き、先生を指さして聞いてくる。

 声を発するわけにはいかないので、マスターに視線でヘルプを求めた。


「彼女はアタ…私の友人で、連盟の方との社交を希望したので同伴させた者です。名は……マデロ。こちらの男性は執事のヤマガミという者です」

「……へえ」


 そのそっけない返事に、隠しきれない嫉妬が混じっているのが聞いていてわかる。

 うわあ、これは筋金入りのこじらせ独身ですね……。

 先生もそれを察したのか、声を発さず、目を合わせずに深々と頭を下げなおす。


「執事と言っても研究手伝いのようなものです、身の回りの事は私自身でしていますし、研究室の掃除整頓雑用と論文の代筆などが主で……何か勘違いさせてしまいましたでしょうか……」

「お、おお!?いやいやそんなこと!」


 嘘ばっかり!

 とは言えません。

 恐らく今の嫉妬を察知しての言葉なのでしょう。


「こちらはサマンさん、魔術関連の素材を卸している業者の方です」


 なるほど、たぶんだけどマスター、この人に色々とサービスして貰ってるんでしょうな。

 妙な怒りを買うとたしかにマズそうだ。

 マスターが直々(じきじき)にDBWの社長に言い寄れない理由も改めてわかる。


「では短い挨拶ですが、また」


 そう言ってマスターは手を出し、サマンに握手を求める。


「あ、ううん!気にしないで!楽しんでね!」


 握手を交わし、彼の元を離れ、また次々と知人に挨拶をしていくマスター。




 今更だけど、マスターもドレスを着ている。

 背中を大きく、胸元をちょっと露出したドレス。

 誘惑してやるんじゃいと言わんばかりの格好。

 しかし、学校時代は大人しくてマジメだったというマスター。

 こうも性格が変わるのには、いや、変わらざるを得なかったのは、もしかしたら魔法学界隈の空気ゆえ苦労も原因なのかもなあ。


 と、かってに想像。



 ふとテーブルのある方を見ると、覚えのある顔が。

 テーブルの料理を行儀よく、しかし勢いよく食べている。

 あの太めの男性はたしか……。


「エンドー先生!」


 僕が思い出すより先に、マスターが声をかけた。

 そうだ、魔法学校の教頭だ。


「んん、おおアネッツァさん。その節はどうも。こちらに来ていたのですね。……おや、そちらのお髭の男性はお会いした覚えがありますが、そっちの麗しい女性は?それに執事が一人足りないような……?」

「あえっと執事の1人は今日は休暇で!こっちの女性は友人です!友人!」

「急に早口ですな。しかし勿体ない、このような席に顔を出せないとは。私も初出席ですが素晴らしい会だと思いますぞ」


 僕について特に疑う様子がないので僕らはちょっとホッとした。


「初出席なんですか?」

「ええ、今年から私が出席するようにと校長からね。我が事ながら名誉なことです。コネに料理にそのほかにと美味しい思いができますし、ね。……フッフッフ」

「はあ」

「さ、私に構わず会を楽しみください。アナタ方が見知った顔はまだおられるでしょうし」


 そういって料理を再び食べ始める教頭。

 偉そうな人ではあるけど、礼儀礼節はきちんとしていて好感が持てる。


 ところで、他に見知った顔って……?

 クルッと周囲を見回す。


「ゲッ!」

(こらマジロ!声を出すなと言ったろう!)

(すみません、つい!)


「あら、これはこれは」


 彼女もこちらを捕捉したようだ。

岩夫人(ミセス・ロック)』!


「挨拶が遅れて申し訳ありません、アネッツァさん……でしたでしょうか」

「えっ、ええ、はい。こちらこそすみませんでした。岩夫人が連盟員だったとは露知らず……」

「いえ、今回わたくしは警衛(けいえい)として参加しているだけです。国内外の有力魔術師が集まる会ですもの。何か起こらないとも言えませんわ」

「まあ確かに……」


 僕は気配を殺してサッと先生の背後に隠れる。


「あら、ヤマガミさん。先日は大変なご無礼を。そのお詫びも未だ出来ずじまいで改めて申し訳ありませんでした」

「いえいえお気になさらず……とは言いませんが、きたるべき時にはきちんと詫びの機会を設けますのでどうかお待ちを」

「そう言っていただけて助かります」



「そちらの方は……」

「ああいえ!その」


 とっさに先生が遮ろうとしたが、時すでに遅し。

 見られてしまいました、顔。


「……!!!」


 夫人の眼が電撃を浴びたかのように見開き、息を呑む。

 そこそこに長かった、僕と夫人の修行期間。

 そのあいだ、ずっと僕の顔を見て生活していた夫人。

 化粧していても僕の顔を判別するのではと思ったけど、やはり、か。

 僕が苦々しい顔をすると、マスターが慌てて前に出る。


「夫人!その、これは!」


 夫人は口元を抑えて、視線を横に向けて言う。


「おっ……ジュル お綺麗な女性ですわね ングッ」

「……!?」


 気づいていないのか、はたまた見逃そうとしているのか。

 それとも急に体調が悪くなったのでしょうか?

 なんか夫人の顔が赤いし口元抑える力がすごそうだし何かを啜るような音がするし。


「あっ……友人です。部外者ですが懇親会に参加したいとのことなのでアタシのツテでこちらに」

「そっ、そう……ウジュ 大変ですのね ズビッ」


 なんだか会話がおかしくなっているけど本当に大丈夫かな夫人……?


「それにしても、皆さんがこの懇親会に参加するとは思っていませんでしたわ……ンジュッ お忙しそうでしたのに」

「ええ、たまにはこういう時間も必要だと思いまして。余暇というには少々堅苦しいですけど」


 …ンゴッグン!ゴグッ!


 突然上を向き、ビールのCMみたいな快音を喉から鳴らして何かを飲み切った夫人が、口から手を離して言った。


「それにしては皆さん、綺麗な()をしていますわね」

「瞳?」

「まるで獲物を狙う肉食獣のような、まっすぐで綺麗な、何かを狙ってギラギラした瞳を……」


 ドギッ!っと心臓が締められるような緊張が一瞬走る。


「フ……何が狙いかは知りませんが、悪事ではなさそうですね。なんとなく理解(わか)ります。ご成功を祈っておりますわ」

「ど、どうも……」


 そう言って夫人は一礼のあと、またも口元を抑えて去っていった。


 去り際に、「危ないところでした……わたくしにもう少し理性が足りなかったら3人まとめて手籠めにする所でしたわ……」

 と聞こえた気がするけど、まあ気のせいでしょう。



 とにかく、この会での身バレは乗り切ったようです。


 顔から噴き出た汗を拭き、化粧を整えなおして平静に戻る。

 すると、会場の壇上から声が響く。


「そろそろご挨拶いただきましょう!ダッチ・ブラザース・ワークス社長、バーモン・マキャベリ・ダッチ氏です!どうぞー!」


 !!


「ちょうどいい、二人ともしっかり見ておけよ。今回のターゲットのお出ましだ」


 見ると、魔法連盟の人の中では異様なほどガタイの良い男性が登壇していた。

 壮年の、くどいくらい爽やかな顔。

 周囲にしっかりとした礼をしたのち、よく通る声でスピーチをしている。

 いかにもカリスマ的な人だってカンジだ。

 僕とは正反対です。


 ……彼が、ターゲット。


 今更だけど、うまく誘惑できるのかな、僕……!?

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