魔法の杖、招待状
『同性愛者じゃないけど、可愛ければ男でもいい』
と、『カレー味ならうんこでもいい』に。いったいどれほどの違いがあると言うのでしょう。
これは僕が、凸凹の凹にされかけた時の話なのですが……。
「マジロ君、おかえり。存外退院が早かったね」
「ええ、はい、ただいまです。内臓は無傷でしたし、骨は折れてたけど綺麗な骨折だったお陰で治療はヤク漬けにするだけで済んだそうです」
「ヤク漬け……」
「ポーション風呂に浸かり続ける治療法だそうです、めっちゃくっちゃ染みましたけどね」
「そういえば顔面は無事そうじゃないか。マスターのあの剣幕からして、フグみたいに膨らんだ顔になってると思ったが」
「せっかく治った顔の傷を作り直すのも忍びないって言われて。代わりに尻を念入りにひっぱたかれて座るのも一苦労です、うう……」
「無茶した罰にしてはずいぶん温情があるじゃないか」
『我が神』との戦闘後、病院で治療を受け、そこから戻ってきた所。
先生は、帰ってきた僕にクイと首を向け、チラと横目で僕の顔を見て挨拶を投げてきた。
映像付きの魔法レンズを見ることに集中している様です。
僕はすこしモヤッとした気分で会話を続けます。
「ずいぶんとご熱心ですけど、何見てるんですか?」
「ん?ああ、すまないね。大事な作業なんだ。ヤツの正体を暴くために必要な事なんだよ」
「えっ!」
そうだったのか、戦い方や体格くらいしか情報が得られなかったと思っていたけど、先生は掴んでいたんだ。
『我が神』に挑んだ成果は思ったよりあったのかもしれない。
やった!
「それで、結局何を見てるんですか?」
「カタログだよ、魔法杖の」
「杖……!」
「そ。私だけはヤツが使った杖を見ているからね。マスターに頼んでカタログ入りレンズを用意してもらって、記憶と一致する物を探している最中だったのさ」
言われてみれば、先生の近くの机には、既読と未読のレンズの山が積まれている。
ずいぶんと、ご熱心、だ。
「すみません」
「ん?……ハハ、こちらこそすまんね。集中するとどうにも……」
「おっ!!!!!!」
唐突に響く先生の声。
先生はレンズの映像を見せようと、僕の肩を掴んで勢いよく椅子に座らせました。
「あだーっ!」
「あ、そういや尻を叩かれたんだっけ。ごめんごめん話半分で」
のたうつ僕を抑えて、先生が指さした杖の映像。
乾いた樹皮のような模様に、脂を塗ったような光沢の素材。そこに派手過ぎないデザインの銀細工を付けた杖がありました。
「これが!?」
「杖の全体を見たわけではないが、見えた部分だけならこの杖と合致する!うひょう!」
興奮する僕達、ですが詳細を見ても、たどたどしく文字を読む事しかできませんでした。
「でぃー、びー、だぶりゅー、製?」
「なぜだかアルファベットとして読めるのが不思議だねえ」
「『石樹製の素材に、革紐のグリップを採用。魔力伝導率、使いやすさ、デザインにこだわった万能にして王道にして伝統のモデル』」
「石樹っていうのは珪化木の事かな?長い年月を経て化石になった木の総称だが」
「へえー、ではこの『メジャー・グランド549』っていうのは?」
「んんーん…??」
「おっ!ダッチ・ブラザース・ワークスのメジャグラ549年モデルか!いいとこに目ぇ付けるじゃないか!」
突然の弾む声に振り向けば、僕の尻を叩いた処刑人がそこに。
「マスター!」
「素人が買うにはオススメできないシロモノだぞ~!たしかに質は良い!だがこの製造社の杖はその分値段も高い!このモデルだと10本もあれば一戸建てが土地付きで買えるほどでそれはなんでかって言うとそもそも石樹という素材が需要と供給が成り立たないほど伝導率が高くて稀少で美しくまた製造社のDBWがかの魔術発明王ハッビル・エラ・ミーミーの絶大な信頼を功績として持っている老舗の重鎮で」
「マスター!うんちくは有難いのですが(ありがたくない)、我々が購入するわけではなくて!」
「っとと、ということは例のヤツの……?」
「はい、『我が神』の持っていたモノかと」
「……手がかりに、なりそうですか?」
「ん。少なくともヤツにはある程度の権威とカネがあることは確かだな」
「権威?」
「権威を持つ者はそれに見合った装飾を身に着けることを社会から強いられるものだ」
「そういうものなんですか」
「まあ権威とは無縁そうな綺麗な尻をしてるマジロには分からん世界だろうがな」
「権威と尻になんの関係があるんですか!!」
「他人を尻に敷かない綺麗な尻って事だろう、褒められてるぞマジロ君」
「分かりづらいし嬉しくないーっ!」
「しかしこれだけ頑張って探し当てて、ちょっとしたプロファイリングしかできないのは口惜しいねえ……」
「高級品だっていうなら、購入者名簿から名前を特定とかできませんかね」
「いや、一般人においそれと見せてはくれないだろうね、コネが無いのが悔やまれる……」
「フッフッ、もしかしたら運がアタシ達の味方をしているのかもしれないな」
「どうしたんですか、尻だのウンだのって」
「これを見ろ!」
マスターが投げ渡したのは一通の綺麗な封筒でした。
中の紙には、大きく綺麗な文字で
『魔法連盟タイザン国及び近隣支部懇親会のお知らせ』。
「マスター、これは……」
「先日、使いの者を出して、アタシの館に届いている郵便物をこちらに送ってもらったんだが、その中にコレが入っていた」
「『タイザン国』っていうのは我々が今いるこの国で?」
「そ。その近隣に住んでて魔法連盟に所属しているアタシにも通知が届いてたってわけ」
「しかしそれがコネとどう関係するわけで?」
「聞いて驚け。今現在、DBWの社長はこの国に住んでいるんだ!」
「なんと!ということは……!」
「この懇親会に出席する可能性が!?」
「大いに、ある!色目を使って利用すれば、名簿の閲覧ができる可能性は十二分にあるぞ!」
なんという僥倖でしょうか!
僕は尻の痛みも忘れて思い切り立ち上がった!
「マジロ!この機を逃すわけにはいかないな!」
「ええ!絶対にコネを!そして名簿を見せてもらいましょう!」
「よし!じゃあ色仕掛けは任せたぞ!!」
…………。
はい?
「えっ社長ってソッチの方なんですか……?」
「そういうわけではないが、アタシは魔術連盟のオジン共にすごく気に入られていてな。そのアタシが名門会社の社長に色仕掛けしようものなら、オジンの嫉妬で今後がどうなるかわからん。最悪ストーカーに襲われかねん」
「そ、そんなに」
「だから、な!!!!!」
「『な!!!』じゃなくて!僕男なんですけど!?」
「だったら女装すればいい!それぐらい分かるだろ!」
「よかったねえマジロ君、マスターに迷惑かけたお詫びの機会がすぐに現れてくれて」
「分かりづらいし、嬉しくないーっ!」
大変お待たせいたしました。
これからもちゃんと書きますので、高評価ブクマ拡散などよろしくお願いします。




