悪魔の背の上、悪との対決
『我が神』は、アイウートを抱きかかえると、悪魔に向かって手をかざし、向き直させた。
僕は、グッと踏み出しそうになる足を抑えて先生とマスターの方を向く。
「挑むかね」
先生の問いに、大きく頷いた。
「ちょっ、ちょっと待て!マジロお前、また命を張ってどうにかしようなんて考えてないだろうな!」
「心配ありがとうございます」
と、マスターの気持ちを肯定した上で僕は台詞を続ける。
「しかし、今この状況は二度と無いかもしれないくらいの好機だと僕は考えています」
「!?」
「アイウートは全身に矢を受けて身動きができず、それどころか激しく動かせば内臓まで矢が届き死亡するかもしれない危険な状況です」
「ということはヤツを抱えたままの『我が神』もまた、動きを大きく制限されているわけだ。悪魔のあの身体じゃあ小さな人間を優しく運ぶ事は難しそうだし、わざわざ抱きかかえている所を見るに『物体を直接動かす魔法』を『我が神』は持っていないようだしね」
「ええ、『我が神』がここに現れた目的がアイウートの救助であることは明白です。見捨てて動くこともまずないと言えるでしょう」
「……勝機はあるのか?」
「正直言って自信薄です」
「おい!」
「勝つこと自体は、ですが」
「なんだと?」
「目的は、『見極めること』だろう?」
「そうです。現状、僕らは『我が神』の事をあまりにも知らなさすぎる。このままここで見逃して、後日お互いに万全の状態で戦う事になれば、その方が勝つのが困難になると思います。どんな手段で戦うのか、体力生命力はいかほどか、種族、容姿、クセ、装備、思想。情報を得られるほどに後々の勝機も大きくなっていくはずです」
「……」
「僕の身体のダメージは、重症治療ポーションの霧のお陰で幾らかは回復できました。なるべく生存を重視して、危険なら即離脱します。ですから!」
「わかった、もう言うな!まったく無鉄砲に付き合うとこんなに疲れるとは知らなかった!いいか、自分の命が最優先だからな!」
「はい!!」
「まーったく!ヤマガミ!現状お前が一番消耗してないんだ、しっかり守ってやれ!」
「言われずとも!マスター、観察と援護を頼みます!」
『我が神』が自身の足に魔法をかけ、大きく跳躍し、悪魔の頭に乗った。
今だ!
僕と先生は別々に駆けだす。
先生は悪魔のふところに、僕は賊の死体に向かって。
悪魔は先生を前足で攻撃……しなかった。
きっと悪魔は、良くも悪くも契約外の自主的な行動はしないって事なんだろう。
つまり悪魔に直接の害がない限りで、指示する『我が神』の意識の外にいたり、そもそも指示している状況ではなかったりする場合はこちらが狙われないということだ。
これも今後攻略に役立ちそうな情報!
悪魔の行動を見ながら、僕は死体が持っていたボーガンを拾って、『我が神』を狙い、撃つ。
すると『我が神』は、袖の下から杖を出して魔法を使う。
放たれた矢は魔法障壁によって弾かれた。
杖はマスターの持つものと同じ、指揮棒くらいの長さの物。
やっぱり魔法使いだった。
僕が次の矢をつがえると、『我が神』は手を伸ばして悪魔に指示を出し、魔法の矢で僕を攻撃させる。
マスターの魔法の倍はある大きさの矢だ、槍の刃でもここまでは大きくない。
なんとかその矢を避けつつ、ボーガンを打ち込み続ける。
撃ち慣れてない僕が攻撃を避けながら当てられるとは思ってない。
でも。
そうすれば意識がこちらへ向いて、先生は安全に悪魔の背中へ登れる!
悪魔の肌を掴んでよじ登る先生。
それを振り落とそうとする悪魔だったけど、『我が神』がそれを止めた。
登り切った先生は『我が神』と対峙し、槍を構えようとする。
しかし、しっかりと足が踏み込められない。
「巨大だとはいえ、こうも柔らかくて傾いた背の上では……曲芸師だってこんな事はしないだろうに!」
『我が神』は、片膝を落として火球を連発する。
先生は魔力の籠った刃先で火を反らしつつ、じりじりと前進する。
『我が神』は、自身の横で倒れている重症者を守らねばならない以上、先生の槍の届く距離まで近づかれたくはないだろう。
であれば先生との距離を離すか、先生を背から降ろすか。
どのみち本気の魔法で対抗せざるを得なくなるはず。
何を出すか……!
いや、先に先生が動く!
バランスを崩すことになってもいいと言わんばかりに大きく踏み込みつつ、『竜頭』を放ち、アイウートを狙った!
だが、ガギリと音がして『竜頭』が弾かれる。
魔法障壁だ!
ある意味で意外な選択だった。
おそらく、魔法障壁が弾くモノは『外からの攻撃』だけじゃなくて『内側からの攻撃も』だ。
術者の攻撃だけを都合よく通すことはできない。
つまり、あの魔法を展開中は他の魔法を撃てない……
はず、だ。
防御を解けば次の攻撃が来るし、かといってこのまま障壁を展開し続けても状況は良くならない。
『我が神』は判断をミスったのか?
いや、そうではなかった。
『我が神』が展開した魔法障壁は、よく見れば周囲全体ではなくヤツの前面だけを覆っている。
こういうのもアリなのか!
マスターはいつも全体を覆うように展開していた事を考えると、おそらくこの部分的な展開は高度な魔法技術を要するのだろう。
魔法学校を卒業したマスターの技術より上となると、魔法の専門家と考えるべきか。
と、『我が神』はその障壁に更に何か操作を加えている。
そして、障壁を……射出した!?
攻撃直後では流石に先生でも躱せない、反らせない!
障壁にぶつかり、後方へ弾き飛ばされる。
防御から即時に攻撃へと転じる魔法の使い方、こんなのがあるとは!
これで先生は距離を稼がれてしまった。
しかし、ダメージ自体はそこまででは無さそうだ。
すぐに態勢を立て直して槍を構える。
『我が神』はその瞬間に手をかざし、また悪魔に命令をしている。
一体何を……
!
「先生!後ろ!!」
僕の叫びを聞いて先生は振り返りもせず前方へ跳ぶ。
瞬間、バチィ!と鞭が地面を打つような音が響く。
悪魔の燃える尾が叩きつけられたのだ。
まるで体に付くハエを尾で払う牛のように!
さっきまでは尾の届く距離じゃなかったから振らなかっただけか!
先生は跳躍して回避したけど、それがまずかった!
『我が神』の障壁射出がまた放たれた!
先生は空中で大きく吹き飛ばされ、悪魔の背から落ちた。
落ちた場所も悪かった、悪魔の右前方。
悪魔は身体を揺らさないようにしながら、右足を上げる。
僕は気づけばボーガンを投げ捨てて駆けだしていた。
盾を構えて、先生より前に出る。
悪魔の右足が振り下ろされ、僕は地面に叩きつけられる。
狙いが先生から僕に移った、良かった!
しかし今更だけど、僕自身の身体について考えるのを忘れていた。
身体がバラバラになりそうな衝撃が走る。
ただでさえ骨にヒビが入っていた(と思う)のに、この衝撃が良くなかった。
刺さるような痛みが走り、口から鉄の味がこみあげる。
グエッ、と血がこぼれ、気が遠くなった。
しかしながら悪魔は、叩きつけた足でそのまま僕を押し潰そうとしている。
し、死……。
一瞬、景色がゆっくりになって、色々な記憶が目まぐるしく見えてくる。
走馬灯、なのか、これが……。
その時、僕ではない誰かが血の混じった咳をする音が聞こえた。
アイウートだ。
奴の耐えられる時間もそう長くなさそうだ。
『我が神』は悪魔に命令し、攻撃を中断させ、飛び立つ。
……逃げられてしまった。
でも、いくらかの情報は得られた……。
「マジロ君……マジロ君!」
先生とマスターが駆けよる。
「何やってるんだマジロ君!私の方が怪我も余命も少ないだろうに!」
「っお前はまた無茶をして~~~~~~!!!自分の命が最優先って言っただろうが!!!アホ!!!!」
マスターが僕の身体に微浮遊のポーションをかけて浮かばせた後、2人で引っ張って運ぶ。
「まずは病院!ブッ叩くのはその後だ!感謝しろ!」
「あ、ありがとうございます……」
安堵からか、そこで僕の意識がプツリと切れた。
今後も面白い作品を出していくつもり・・・です!
よければブクマして続きも楽しんでください!




