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『我が神』

「うっあっうっ……」


 アイウートの呻く声が漏れる。

 体中に矢が刺さって、動けば動くほどに深く潜り込んでいくのだろう。

 もしかしたらこのまま死んでしまうのかもしれない。

 少しだけ心が痛むが、賊を傷つけ苦しめた残忍さ、そして彼がこれからも周囲の人間を巻き添えにして呪術を使っていくことを考えると止めようとは思わなかった。

 それよりも、死ぬ前に近づいて情報を聞きたかった、が。


「彼のような狂信者は口を開かないだろう、それより賊から距離を取らないと()()()で撃たれかねない」


 先生が僕を止める。


「手がかりは……奴の死体から漁るしかあるまいね。先に賊が死体を漁るようなら、もう一戦交えないと――」



 と、僕らの周囲が突然暗くなる。

 雲に太陽が隠れて陰になったのか。

 いや、それにしては暗すぎる。

 陰というより影だ。

 それにこの影の形は、何か大きな鳥のような


 僕らはすぐに察して構える。

 その影はアイウートの元に近づき、そして降り立った。



 それは、オオワシの翼、ゴリラの腕のような太く長い脚、燃える尾、禍々しい角と瞳を持った、牡牛(おうし)

 ファイアードレイクやデュラハンよりさらに1まわりか2まわりほど大きい、怪物。


「なんだ、こいつは……!?」


 賊の1人が、呟いた。


「マスター、アレはなんなんでしょうか!?」

「知らない!こんな化け物は見たことも聞いたことも無い!ドラゴンでないのは確かだが、大きさはそれと同等だ!この世の物なのかアレは!」

「いや……悪魔だ」


 先生がぽつりと言った。

 その声は震えていた。


鷲獅子(グリフォン)の羽に、牡牛の身体を持つ悪魔!卑金属(鉄や銅)貴金属(金やプラチナ)に変え、水とワインを入れ替え、そして、知恵を吹き込み、『物質の変換術』を教える……!」


 先生の声に怒りが込み上げてきているのがわかる。


「ソロモン72柱の48、『ハーゲンティ』!!」


 ハーデンティと呼ばれた悪魔はゆっくりとこちらを向く。

 その間、賊たちはたじろいで少しも動こうとしなかった。


「貴様が……貴様がやったことなのか!」


 先生の言葉に、低く響く声で悪魔が返答する。


「余が人間と世界に対し、出来る事など些細(ささい)なもの。我ら(悪魔)を知っているお前であればそれは知っていよう」


 そういえば以前先生自身が言っていた。

 悪魔は魔法陣の外には出られないから、世界や人間に対して大きく何かをすることはできないと。

 あれ?でも今は……。


「余はキマリスの仲介を通して契約し、魔法円の(かせ)から部分的、一時的に解放され、この世界では失われた『物質の変換術(錬金術)』の伝授と、わずかな力を行使したまでのこと」

「契約だと!?」

「さよう、余と契約し実際に行動したのはこの者」


 見ると、その背には誰かが乗っているようだった。


 濃い紫色の汚れた布で指先つま先全身をまとい、目と口の部分に正円の穴があいた仮面をつけた人物だった。

 それが、ふわりとハーゲンティの背から降りて、アイウートの前に立つ。

 仮面の人物の身長は、それほど大きくはない。


「あ…ああ……」


 アイウートは震えながら仮面を見て、涙を垂れ流した。


「貴方なのですね、『我が神(マイゴッド)』……!」


 !!!!!


 こいつが、こいつが!!

 こいつが『敵』の親玉!!

 こいつが世界の危機の元凶!!


 こいつが!!!!



『我が神』がアイウートの頭の上に両腕を出した。


「ひっ」


 怯える彼の頭を包むように、『我が神』の腕が下がる。


「ああ!申し訳ありません我が神よ!どうか!どうか私を罰してください!!お見捨てにならないでください!!貴方に見捨てられれば私は!私は!!あああああ!!!」


 顔中から水分という水分をまき散らしながら罰を乞うアイウート。

 だが。


『我が神』はそんな男をゆっくりと抱きしめていた。

 動きだけでわかるほどに、大事そうに。

 背中を軽く、ポンポンと叩いて。

 途端、赤ん坊のようにアイウートが泣きじゃくり、周囲は困惑の色に包まれた。



 最初に我に返ったのは、賊たちだった。

 彼らの一部が、ボーガンをアイウートに向けなおしたのだ。

 頭目がそれに気づいて叫ぶ。


「待て!やめろ!」


 その指示は正しかった。

『我が神』が、構えた賊の方を向くと、ハーゲンティも素早くそちらを向く。

 そして、猛牛の合唱のような吠え声が響くと同時に、ハーゲンティが突進する。


「うwぁ」


 文字に起こすならこんなかんじだっただろうか。

 吹っ飛び、壁に激突した賊がグシャリと潰れ、悲鳴が途切れたのだ。


「私は今までに、悪魔の相手をしたことが幾度かある」


 先生が語りだす。


「だがそれはすべて、魔法円の中にいた悪魔との戦いだった……!」


 先生が不安を口にするなんて、初めてかもしれない。


「正直、勝てるかどうかわからんよ…!円の外に出た悪魔が相手では……!」


 僕も、マスターも、そして先生すらも凍ったように身動きができなかった。



 寛大で、無慈悲。

 悪魔『ハーゲンティ』を連れた、神として崇められる者。


我が神(マイゴッド)』。



 こいつが、僕らの、敵……。


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