決着、血戦、アイウート
「ドレイクの時と同じく、たとえ大型でも一匹じゃあコイツら仕留めきれねえな」
アイウートは吐き捨てるようにため息をついた後、倒れた賊を踏みつける。
「なら手数で圧し潰すまでだ」
そう言って『血の鮫』の時と同様に、僕らに向けて指をさす。
「よく見ておけ……お前らが噛みちぎる肉の顔を……!」
周囲に浮いている大量の『血の魚』が牙を見せてこちらを向く。
こいつらがすべて襲い掛かってきたら、背負ってるマスターを守り切れるのか!?
急速冷凍で一匹凍らせたところで攻め手は止まらないだろう。
それにマスターの魔力も、魚を全て凍らせるほど残ってないのはず。
同様の理由で魔法障壁も使えない。
守りに入ってる余裕はないんだ。
攻めなければ!
しかし、僕らとアイウートの間にはかなりの距離がある。
普通に突っ込んだのでは魚の餌食になるだけだ。
どうする。
と、背中のマスターが薬を取り出してグイと飲みだした。
「マスター!?」
「騒ぐな、ただの魔力補給の薬だ。とはいえ補給できる量は微々たるものだが」
「あっ、はい」
「ヤマガミ、お前も一応飲んどけ」
「良いのですか?」
「1人が大量に飲んだからって、すぐに全部魔力に変換されるわけじゃないからな」
渡された薬を先生もグイと飲んだ。
薬が苦かったのか、マスターが渋そうな顔をしながら他の薬を取り出す。
「お前も使え、重症治療のポーションだ。外傷用だが打撲にもそこそこ効く」
「……マスター、他に薬は?」
「賊相手に使った神経毒がまだ少し、あとは『微浮遊』『生命感知』『毒耐性』『火炎耐性』……」
色とりどりの薬液が入った瓶が並ぶ。
「ううむ、毒以外はどれも使えそうにありませんな……その毒にしたって術者にしか効果は……」
「……使いましょう!」
僕は薬を指さして言った。
そして、今ひらめいた作戦を2人に伝える。
「むう、これは……賭けになりますな」
「私は良い案だと思う!信じるぞ!マジロの方を!」
「お願いします、先生」
「……わかったよ、それしか案も無いしね」
マスターを背中から降ろして僕らはアイウートの方を向きなおし、構える。
一瞬の張り詰めた空気のあと、僕と先生は走り始めた。
と同時に、アイウートも『血の魚』に命令して放つ。
「マスター!」
「おう!」
マスターが薬の入った瓶のふたを次々に開け、魔法をかける。
「霧化!突風!」
薬液は霧となり、風に乗ってアイウートへ向かう。
当然、マスターとアイウートの間にいる僕らも霧に包まれるが――息は止めない。
「なっ……!?」
アイウートの動揺するような声がかすかに聞こえた。
魚たちと僕らが衝突する前に、その周囲は色を持った霧に包まれる。
魚は僕らを見失ってしまった様子だ。
やっぱりそうだった!
さっきアイウートが魚たちに『よく見ておけ』と言ったのは、魚が僕らを眼で判別しているからだったのだ。
であれば、視界を遮れば避けることはできる!
当然、僕らの視界も遮られるし、アイウートもずっと同じ場所には留まらないだろう。
だけどこの霧にはさっきの『生命感知』の薬も混じっている!
僕はスウッと息を大きく吸って、薬を体内に取り込む。
……感じる!
床に転がる弱くなった生命とは別の、大きな生命を!
襲ってくる『血の魚』が本物の生物であれば、薬の影響で僕らを見つけられただろう。
けどそうじゃない、だから毒も薬も効果が無い。
魚達の隙間を縫って、僕と先生はアイウートへ近づく。
そして、僕らの攻撃が届く距離まで辿り着いた!
僕は盾を構えて、剣を振り上げる。
声には出せないが言ってやる!くらえ!!
次の瞬間、僕の身体を無数の刃が切り裂いて、吹き飛ばした。
「がっ……!」
床を転がる僕。
切り傷と擦り傷で全身がズタズタだ。
それでも顔をあげて、アイウートの方を向く。
アイウートは、血液でできた鎌のような刃を、周囲にまとわせていた。
「学習してねえのか?それとも俺を学習できん奴と侮ったのか?なあ?ああ!?」
この男と最初に戦った時に、こいつが先生に使っていた『血の刃』だ。
それが大量に、こいつを護るようにして囲っている。
「お前らが視界を遮った時点で、『血の魚』の大多数を刃に変えて守らせた。今度は跳び蹴りを喰らわんように、大量にな……」
ここでやっと、霧が晴れた。
視界の奥の方で、先生もまた僕と同様に倒されていた。
「先生……!」
「こいつの魔法槍はさっき見た。要は斬撃を刃でいなして、火は血で消せばいい」
「この程度のちゃちな作戦しか思いつかない極小の脳で!よくまあ我が神に歯向かおうなんて思ったもんだなあ!!ああ!?」
アイウートは僕の身体を何度も踏みつける。
そしてその後、ナイフを取り出した。
「さっきも言ったが、お前らは苦しんで殺すぜ!……呪術に使う分の血は、俺が直接傷つけてできた血じゃないと使えないからなぁ……コイツで両手両足爪の間まで刺して!斬って!血を流させて、その血から魚を作ってじっくりと末端から食い破らせてやる……!!」
「ぐっ……マジロ…くん……!」
「ジジイ!てめぇもしっかり見てろ!仲間の死に様をなァーッ!!!」
「どうやらキミの…勝ちだな……!」
ビュン!!
と風を切る音がして、アイウートの身体に無数の矢が刺さる。
「あ…が……何が……」
呻くアイウート。
号令が響く。
「ってェェーーーーー!!!」
賊の頭目の命令で、アイウートに追加の矢が突き刺さる。
周囲を見ると、賊たちは立ち上がり、ボーガンを構えてアイウートを包囲していた。
「なっ!?てめぇら……俺が手足を斬ったはずだ……立つも打つもできる状態じゃ……!」
「そのはずだったがよォ、あの霧を吸った瞬間傷が塞がってよ…」
「!?」
「血ィたっぷり抜かれて、正直フラフラだが、もう痛みも治まりつつある…!この距離なら外さねえぜ……!」
「そ、そうかあの霧……!」
先生が僕に肩を貸し、立ち上がらせながら語る。
「そうとも、あの霧には重症治癒のポーションも混ざっていた。霧に混じって奇襲する作戦は成功するとは思っていなかったさ。それよりもその奇襲を囮にして、賊たちが霧を吸って回復する時間を稼ぐ目的があった。……正直、賊がお前を優先して攻撃する事を優先するかは賭けだったけどね。私はそれより逃げるんじゃないか、と思ったが」
アイウートの身体から血は流れなかった。
矢は、刺された時じゃなくて引き抜いた瞬間に血が出るもの。
だけど奴は痛みのせいか、それすらできる状態ではないみたいだ。
「人任せの危ないバクチというか、人を信じるマジロ君らしい作戦というか……」
勝ったんだからいいでしょ、と言いたいけど、痛みで喋るのもつらいので、代わりに軽く微笑んだ。
マスターが僕らに走り寄ってくる。
「大したもんだよ、君は。さ、少し離れよう」
「2人とも、生きてるか!?」
やっぱり喋るのが辛いので、マスターの声にVサインで返事をした。
アイウートが倒れる音が、聞こえた。
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