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再会、包囲、脱皮。

 手合わせ事件(事件?)から翌日。

 朝というには遅すぎる午前に、またしても事件は起きた。


 マスターが今までに作った薬のレシピや例のパン製法などのライセンス料を、銀行で下ろした帰りだった。


「うーむ。資金はまだあるとはいえ、こうも消費が激しいとな」

「あの自称なんでも屋(ジョジュア)に支払う金もお安くありませんし」

「いつまでも宿屋ってわけにはいかないですね。仮住まいできる住宅があればいいんですが」

「お安く引っ越すとなると、東区の住宅になるでしょうなあ、しかし不安ですな」

「ですね、東区は治安がちょっと……」

「ご近所付き合いを上手くできる気がしませんな……前の世界でも近所の男児(ゴブリン)から『†漆黒より黒き闇から生でしクソジジイ†』などという微名誉な二つ名で呼ばれたことがあって」

「微名誉どころか名誉棄損だと思うんですけど」

「アタシも近所付き合いについての知識は皆無なんだよな、たしかアレだろ?作りすぎたヤツをおすそ分けしたらいいんだろ?敵とか」

「他人に迷惑を分配(シェア)するんじゃないよっ!たしかに僕らは敵作りまくってますけどね!?」



 そんなありきたりな会話を消化しつつ宿の前まで来ると、足音が聞こえてくる。

 コソコソと走ってくるようだけど、隠しきれない騒々しさのある音だ。

 先生から言わせれば『品の無い走り方だ』とのこと。


 四方から現れた男たちはボーガンを構えながら僕らを囲む。

 彼らの恰好は素肌に革鎧、トゲ付きの肩パッドに極彩色(ごくさいしき)のモヒカン。

 奇妙なモノであふれる異世界でもひときわインパクトのある、思い出したくない姿だった。


「へっへ……やっと見つけたぜお前ら」

「お、お前は!…………………………………………」


「………………………えーと………………………」


「長ぇよ!わかんねぇならいっそ『誰だ?』って素直に言えよ!俺たちは……」

「あーちょっと待ってくれたまえ!喉元まで出かかってるから!もうちょっとで出るから!」

「ヒントとか無いの?」

「あるわけねえだろ!クイズやってんじゃねぇんだよ!」

「アイツらですよ!僕らが馬車で国境越えた時に襲ってきた賊!」

「あー!あー!あー!ハイハイハイあー……なぁんだ……そっか……ハァ」

「あ、明らかにガッカリしやがって……!」

「いやいかにも因縁ありそうな現れ方するから期待しちゃったじゃんか」

「知らねぇよ勝手に期待してろ!」


「ええい!お前ら周りが見えてないのか!」


 ぐるっと見回すと、賊の頭目を除いて6人。

 全員がボーガンでこちらを狙っている。


「以前お前らには散々な目に会わされたからなあ……前回会った時の事件で仲間割れした元・頭目とは、あれ以来絶交だし、こっちの仲間に怪我人は出るし中には賊を辞めてカタギになった奴さえ出る始末……」

「結構なことじゃないか、てっきりそうしないと食っていけないから賊やってるものかと」

「よくねえ!おかげで俺の仕事と責任は増える一方で大変なんだよ!この苦痛と手玉に取られた屈辱を晴らさねばと、お前らの足取りを根気よく探してようやく見つけたんだ!」

「なぜその根気と処理能力を普通の仕事で活かさないのか」

「時々いるよな、状況の改善より鬱憤を晴らす事の方に全力出す奴」

「てめえら黙ってろ~~~~!!」


 頭目(新)の怒号に、賊たちが殺気立ってボーガンを構えなおす。


「俺が合図すればお前らなんぞ串刺しなんだぞ!もっと泣いて命乞いでもしやがれってんだ!」


 会話に夢中でよく考えていなかったが、たしかにこれは相当にヤバい状況だ。

 マスターがこっそりと杖を持ち上げて魔法障壁(マジックシールド)を張ろうとする、が。


「動いてんじゃねえ!今度やったらブッコロだからな!まず武器を捨てろ!」


 まずい!ここで武器を捨てられたらますますこの状況を打開できなくなってしまう!

 ボーガン賊と僕らとの距離は6~7mくらいだろうか。

 以前先生が見せた槍の魔法『竜頭』。

 あの射程なら、しっかり踏み込んで撃てばボーガン賊に当てられるだろう。

 マスターの魔法も言わずもがな射程内だ。

 であれば、遠距離攻撃をマスターから貰った薬の投擲(とうてき)くらいしか持ってない僕が囮になるしかない。

 でも、ただ(わめ)いたくらいでは6人の賊全員を注目させることは、きっとできない。


『虎穴に入らずんば虎子を得ず』と言うことわざもある。


 ここは覚悟をキメて、やってやる!

 やりたくないけど、やってやる!!!


「おい、武器を捨てろって言ったのが聞こえねえのか!」

「くっ……」


 たじろぐ先生とマスターの前に腕をスッと出し、僕は頭目の前に出た。


「マジロ君……?」

「マジロ……?」


 張り詰めた空気の中、僕はゆっくりと武器を床に置く。


「そぉうだ!そこの女男が一番聞き分けがいいなぁ!」


 持っていた薬も、軽鎧も床に置く。


「ヒャハハハ!殊勝(しゅしょう)な態度じゃねーの!よし次はそっちのヒゲの……」


 着ている上着とズボンも脱いで床に置く。


「おい……」


 シャツも置く。


「何を……」


 パンツも置く。




 そして、全裸になった僕だけが残った。


「…………」


 沈黙が場を支配した。

 なにもかもが凍り付いたように止まっている。



 ―――――お父さん(ディアファーザー)お母さん(アンドマザー)、元の世界でお元気していますか?


 今、貴方たちの息子は、街中でムスコを晒している真っ最中です。

 しかも2度目です、異世界に来てから。



 賊の1人と、マスターが同時に唾を飲んで、同じ言葉を放った。


「「結構デカい……」」


 その声をきっかけに、僕は動く。



「ひょおおおおぉぉぉぉ~~~~!!!」


 腕を頭の上で組み、奇声をあげながら腰を揺らし()()()()


「えぇ…!?」

「うおっ!?」

「なんだこいつゥ!」

「露出狂!!」


 時計の針が動き出したかのように、突然ざわめきだす敵味方。

 これだ。

 この停滞と注目こそ、僕の望んでいたもの。


 さあ先生!マスター!今こそ動いてください!!!



 僕の股間見てないで!!!ホラ!!!はよしろ!!!!!!!!!!!



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