指と指、槍と剣
訓練用の剣と盾、長棒を購入して郊外の草原へと向かう。
「夫人、なぜ先生と手合わせを?」
「……理由は、戦った後でお話ししましょう」
訝しむ顔を解けないまま、僕は先生の方を向いた。
「マジロ君、彼女は信用できる人かね?」
「その……はずです」
「ん」
それだけだった。
先生も夫人もそれ以上、僕を通してお互いについて聞こうとはしなかった。
いや、夫人にはそれなりに先生の事を語ってはいるのだけれど。
「聞かなくて、いいんですか?」
「スリーサイズとかかい?」
「じゃなくって!」
「『戦えばわかる』ってヤツだよ。言葉より行動の方が大抵の場合正直さ」
「格闘マンガとかでそういうセリフよく聞きますけど、読み取れるものなんですか?心を……」
「互いに『理解しあいたい』という意思があるなら、たぶん、いくらかは」
若干自信無さげな発言だったけど、とにかくここは闘りあわねば済まないだろう。
そう思ったので、僕もそれ以上は聞かないことにした。
夫人の後ろをついていって街の外に出る。
夫人は周囲の、なるべく平坦で障害のない場所を探し、見回している。
2人の背中を見つめていると、先生の指がピクッと動くのが見えた。
指の反り方からして力が入ってるのがわかる。
そしてそのわずかな直後、夫人がスッと腰のあたりに右手を浮かせる。
彼女の指先もまた、力が込められているようだった。
それを見て僕は少し瞳孔が開いた。
立ち位置的に、夫人には先生の動きが見えないはずなのに……。
2人の利き手はまるで、早撃ち前のガンマンのように構えている。
が、しかし。
先生は夫人の指を見たのか、少し下を向いたあと、フウと息を吐いて体の力を抜き、槍の石突き(刃の付いてない方の先端)を地面に立てて楽にした。
夫人も、手の緊張を解いたようだった。
この一連の動作も『会話』なんだろうか。
そういった世界を知らない僕には推察することしかできない。
「ここにしましょう」
「わかりました」
夫人の提案に、地面を軽く見回した後で返事する先生。
「マジロ君、ちょっと下がって。でも離れ過ぎないように」
そう言われてゆっくりと後ずさりする。
理由も結末も分からない戦いの行く末に、僕は不安でいっぱいだった。
2人が、武器を構えた。
訓練用なので殺傷力は無いが、それでも両者の実力を知っている僕から言わせれば、『完全に無事』では済まないと思う。
「マジロ、よく見ていなさい。きっとこの戦いは、いい勉強になると思いますよ」
夫人はこちらを見て柔らかな微笑みを見せた。
この笑顔の裏に悪意があるとは思えないし、思いたくない。
だから僕は、2人の戦いに手を出せない。
だったらせめて夫人の言う通り、この戦いをしっかりと見ておかねば。
雲が太陽を隠し、草原を吹く風が止むと、それを合図にしたように空気が張り詰めていく。
いよいよ、始まる。
先生は、槍の先を夫人の足元に向けている。
槍の先端…刃を相手の顔に向ければ、それだけで相手は気圧されてしまう。
しかしそれは場慣れしていない者に対してのみ有効なもの。
相手がある程度の熟達者ならば、その槍の先端と自分との距離から容易に間合いを測られてしまう。
また、刃と槍持ちの身体が一直線に視界に入るので、攻撃の起こりが分かりやすい。
しかし、刃を足元に置かれると、両方を視界に入れるのが難しくなる。
と、これは僕が夫人から休憩中に受けた講説だけど。
先生はそれを知っていたようだ。
僕の師匠であると聞いていた時から夫人を熟達者と捉えていたのか。
はたまたさっきの指の動きのやり取りで実力を測っていたのか。
先生が、夫人の視界から刃を外そうと、ギリギリまで間合いを詰めようとする。
緊迫した空気においても夫人は、微笑んだようにも見える優しい顔つきだ。
焦りも不安も、まったく見えない。
いったい、夫人はどう動くのか。
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