朝の宿、先生と夫人
僕らは学校から難なく抜け出し、足跡を隠蔽したあと、ジョジュアさんと別れて帰路へ。
何かに襲われることなく宿へと戻ることができた。
敵の目的と手段を知った今、そこからどうやって正体を探るか。
動機はなんなのか。
そんなことをベッドの中で悶々と考えていた。
そのせいで普段より寝るのが遅くなってしまったが、それでも朝はやってくる。
顔を洗って歯を磨いて、毎朝の柔軟運動を欠かしてない先生に挨拶をする。
「おはようございます」
「おはよう!いやあ~やっぱりふかふかのベッドの上で寝るのって気持ちがいいね」
「宿で寝なかったんですか?」
「あの門番を捕まえてからは、コッチに戻れなかったからねえ。あの男を捕らえたという事を敵に察知されるわけにはいかなかったから、宿にマジロ君宛のメッセージだけ送って、私らは郊外の廃屋で待機していたんだ」
「そっか、敵に知られたら、また先回りして刺客を送られてたかもしれませんものね」
「そういうこと。現に地下墓地でも学校でも刺客とおぼしき輩は出てこなかっただろう?」
「それでもそれなりにトラブルがありましたけどね……」
「マジロ!ヤマガミ!お客さんだってさ」
すでに着替えも済ませていたマスターが、僕らを呼んだ。
「「客?」」
階段を降りて、宿のロビーに来ると、そこにいたのは──
「岩夫人!」
「おはようございます、日が覗いて早い内から失礼します」
「あ、おはようございます」
「おはようございます、初めまして……ではありませんな。貴女には以前お会いした覚えがあります」
「はい、魔法学校薬品研究棟の事件の時に」
「おお、そうでしたか。では改めて、山神と申します」
「こちらも改めて、フレイミー・ダンドルトン。冒険者ギルドでは岩夫人と呼ばれています」
夫人がゆっくりと頭を下げると、先生もそれに応じて頭を下げる。
先生と岩夫人。
粛々と挨拶を交わしあう二人のさまは貴族の社交のソレのように品があった。
2人ともこういう場は慣れているのだろう、所作に迷いも強張りも無くスムーズだ。
「マジロ、こちらのヤマガミさんが、例の『先生』ですか?」
夫人とは、修行の休憩中に様々な会話を交わしていた。
自分が異世界人であること、強くなりたい目的、先生とマスターの事、他にも色々と……。
「はい!」
「成程……」
夫人が、先生の眼をじっと見つめる。
「マジロ氏が言うには、悪魔や怪異についての知見の他に、武術の経験もおありだとか」
「そうですね、まったくの未経験というわけではありません。しかしマジロ君、彼女が信用できる人柄だと判断するのはいいが、人の情報を流すのはあまり感心できないぞ?この状況で……」
「う、すみません」
たしかに今思えば迂闊ではあったと思う。
夫人が直接、『敵』と関係していなくても、情報はどのように漏れるか分かったものではない。
敵の耳と目はどこについているか分かったものではないのだから。
「もしよければ、お願いがあるのですが」
「夫人が、僕らに頼み事ですか?」
夫人ほどの実力の人が協力を求めるなんて、しかも僕らに。
いったいどういう……。
「いえ、マジロ。貴方には頼みません」
「えっ?じゃあ」
「私に?」
先生個人に?
僕も先生も、一瞬キョトンとした顔をした。
「よければ、手合わせをお願いしたいのです」
「!?」
先生と夫人が、手合わせ……『試合』をするって!?
なんで夫人はそんな事を急に言い出したんだ!?
もしかして、本当に夫人は敵で、試合と称して……とか!?
いやでも先生じゃなく僕ならいつでも討つ機会はあったわけだし……
ああっ分からなくなってきた!!
この申し出、受けてしまうんですか!?先生――!
「その前に、貴女随分とお若く見えますが……失礼ながら年齢を聞いても?」
「21です」
「ええっ!?僕より年下だったのー!?」
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