図書室、錬金術、変換
魔法学校、地下の図書室。
中は月明りすら届かぬ暗闇に覆われた、だだっ広い空間だった。
「灯の扱いには細心の注意を払えよ、燃え移って火事になったら頭と胴がお別れするかもしれん」
「はい。しかし、地下のはずなのに空気が悪くないですね。地下墓地とは大違いです」
「書物の保管で高温多湿は厳禁だから、換気はしっかりしてるんだね。どういう方法でかはわからんが」
「さっさと目当ての本を見つけて戻るぞ」
「いやしかしそうは言ってもこの蔵書数、探すだけでも一苦労しそうです」
「目録は無いのかな?」
(※目録…リスト、名簿、一覧表のようなもの)
「この膨大な本の数では、目録だけでも辞典並みになりそうですね」
「『禁じられた魔法などの術について』だったら超常関係の番号がAで魔術が1、歴史が4だから分類番号A14番の書物を調べればいい。それだけでも結構な数になるが」
「魔法学校ともなれば図書蔵書がメインの施設ではないだろうに、十進数図書分類法を採用しているとは、力の入れように恐れ入りますな」
「そもそも図書のできる施設が近隣にないからなー、近辺の書物の類はすべてここに集まるから力も入れざるを得ないってものよ」
「なんで学校に併設されてんのかわかんないくらいすごいですね」
その蔵書たちを手分けして調べるも、僕含めてみんな、これといった本には皆出会えてない様子だった。
「『禁魔術:大地を腐らせる』『禁術:反魂』『空間に染みる呪術』『魔術を超える超常の力』う~んどれも危険そうではあるけれど、世界のリセットとは直接関係はなさそうだねえ」
「そもそも紹介すること自体も憚られるような術だったらどうしようもないな……」
「夜が明けるまでに見つけられなければ切り上げるほかあるまい」
皆で消極的な相談をする声が聞こえる中で、僕は
おしっこがしたくなった。
出物腫れ物所構わず、とはいえこんな時に催さなくても!
全身タイツのせいで脱ぐのも一苦労だっていうのに!
いくらなんでもその辺でするわけにはいかず、近くのドアを片っ端から調べる。
ここ違う、ここ違う、ここ違う!
ここ!……は、朽ちたりした本をとりあえず置いておく倉庫のようなスペースのようだ。
ボロボロの本の山が蜘蛛の巣とホコリで飾り付けられている。
その山から外されて置いてある、一冊の本。
表紙にも背表紙にも一切の意匠が無い、のっぺらぼうの本。
そこからどことなく感じる禍々しさに似た妖しさ。
僕は恐る恐るその本を手に取った。
その本の内容は……。
「『錬金術調査報告』……?こ、これは…!」
「マジロ!こんなトコにいたのか!」
「うわああああ!」
「いるならいるって言えよな!」
「こっちのセリフですよ!あっ……」
「あ?」
「いえなんでも!それよりマスター、これ!」
「なんだこの本、『錬金術』?金を作る術ってか?そんなオカルトみたいな話が……」
「あるみたいなんです!この本に書いてあることを信じるなら、ですが。いえ、金を作るだけなら、禁じられてはいなかったことでしょう」
「なに?その錬金術とやらは禁術だったのか?」
「はい、この本にはその辺について細かに……ところでマスター!」
「なんだ」
「トイレ……どこか知りませんか……」
「お前な、折角盛り上がってきた時にさあ。あーもうこっちだ来い!」
「うう、さっきの大声でちょっと漏れた……」
「それで?その錬金術というのがどうして禁術なんだ?」
「金だけで世界をどうこうできるとは思えないけどねえ」
マスターが先生とジョジュアさんを呼んで、話を聞かせる。
「この本によると、ある術師が『別の物質を金に変換する術』を研究しようとして、とんでもない術を完成させたらしい」
「いったいどんな術を?」
「信じられん話だが、『あらゆる物質をあらゆる物質へ変換する術』だそうだ」
「な、なんですと!?そんなものがあったら……」
「ああ。地形も生物も、なんもかも自分の好きなように変えられる。できないのは生命の直接的な創造くらいなものか?」
「そんな荒唐無稽な術が本当に存在すると?」
「『金を作る術』の存在自体は魔術・魔法薬界隈で密に噂されていた。しかしながら誰もその術の内容を知らない事に疑問を感じてはいたが……」
「禁術だったとすれば辻褄は合いますな」
「ああ。そしてここまで徹底して秘匿されていた事実が、逆にこの本の信憑性を高めている」
「その隠された錬金術の内容を、例のキマリス……『隠されたものを教える悪魔』が、悪意ある者に教えたとしたら……」
「まさに、世界の危機、だな」
皆、息を呑んだ。
事件自体には無関係のジョジュアさんまでもが。
「リセットした先にある、『敵』の考える理想の世界とは、いったい……」
「目的なんてどうだっていい。こんな術、存在しちゃいけない」
「禁術扱い、妥当も妥当。ですな」
「止めなくては、手遅れになる前に!」
「……」
底の見えぬ敵の意志に、僕達はそれでも立ち向かう決意を固める。
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