夜の学校、カンニング、取引?
夜の校内というのが不気味さを漂わせるのは、異世界でも変わらないらしい。
以前、日中に来た時とは打って変わった異様なまでの静けさと、数メートル先すら見えない暗さ。
とはいえ、それらは悪意を持たずに学校に入った者が感じるものであり、忍んで入る必要のある僕らにとってはむしろ好都合な不気味さである。
「巡回警備の人はいなさそうですね」
「おそらくだが門番が巡回の仕事も請け負っていたんじゃないかな」
「あの人あんだけ針刺さって無事なんでしょうか」
「たぶんね、後で抜いておかないと侵入がバレちゃう」
「いやだな目の前まで行って針抜くの……」
「気分はまるで黒ひげ危機一髪だねえ」
「冗談じゃないですよ……」
雑談しながらジョジュアさんが図書室の扉を開くのを待っていたけれど、彼女はフウとため息を吐いて開錠道具を片付けだした。
「ダメだ、おそらく最新式の魔力錠で施錠されている。たかが本ごときになぜこんな厳重な……」
「本ごとき、とは聞き捨てならんな」
マスターがどこか自慢げに語り始める。
「魔法学校に納められている本の中には、印刷技術が乏しかった時代の古くて数の少ない魔術書や学術書、当時を知るのに必要な文書、資料などがある。歴史的資料的学術的な価値があってなおかつ軽くて持ち運びやすいとなれば、賊から狙われることは容易に想像がつくというものよ」
「それを分かっていたなら当然、この錠を解く手筈も計画済みなんだろうな?」
「……えーと……」
「さっきからこの女の詰めの甘さはなんなんだ!」
「許してやってください根は良い子なんです」
「何の言い訳にもなってない上に外面は悪い子みたいな言い方するな!」
「どうしましょう、こういうのって鍵は教師の誰かが保有しているものですよね」
「そのへんきっちりしてたら詰みだけどね、職員室になにかないか探してみよう」
そういうわけでダメもとで職員室に行くと、薄~くだが明かりがついている。
「職員が残業しているんでしょうか」
「だったらこんなに薄く明かりを灯すのは変だろ、何か後ろめたい理由がある奴だ」
「僕らみたいに?」
「……そうだ」
覗き込むと、少年がなにやら職員室の机を漁っている。
「子供ですね、生徒さんでしょうか」
「思春期の若者がこんなところでけしからんな!どうせ好きな女子の使った笛を嗅いだり舐めたり挿れたりして愉しんでいるんじゃないか!?」
「よくそんな最低な発想ができますね!?」
「っ!?誰だ…?」
しまった、少年がこちらに気づいたようだ、息を殺して身構えている。
つい声を荒げてしまった。
「まずいですね、もし通報なんかされると……ってアレ?先生?」
気が付くとさっき隣にいた先生がいない。
「誰かって?フフ……ピーターパンさ」
いつのまに移動したのか、先生は少年の前にふわりと着地して迫る。
「パンの方じゃなかったらさしずめ、親愛なる隣人の方のピーターだろうか」
先生、そのネタ異世界人には通用しないのでは。
「そう警戒しないでくれたまえ、君に危害を加えるつもりは無い。ただちょっと不審者なだけさ」
「ちょっとどころか盛大に不審者だし、言うことに信用性がない!」
ごもっともです。
「おおかた女子生徒の使った笛を嗅いだり舐めたり挿れたりして愉しもうとしてたんじゃないか!?」
先生の発想が男子学生並みなのか、男子学生が先生レベルのアレな発想なのか。
「失礼なことを言わないでくれ給えよ、私はただ図書室の本を読みに来ただけなんだ」
「こんな夜中に?」
「色々事情があるんだよ、察してほしいね」
「無茶言うな、あからさまな泥棒の恰好してるくせに」
「泥棒に泥棒呼ばわりされる筋合いは無いな」
マスターも少年の前に出てきた。
「学生が職員室に忍び込んでやる事なんぞ簡単に察せるぞ、テスト用紙の内容を事前に覗いて答えをメモってカンニングするつもりなんだろう」
「ぐっ……」
少年が言葉を失った。
アタリなのだろう。
「アタシ達をもし通報すればお前がここにいた事もバレる。成績的な名誉を守るためにカンニングしに来たのにそれ以前の問題で名誉を落とすようなマネはお前だってしたくはないだろう」
「それは……」
「『若いうちの黒は買ってでも白』って言葉もあるよ少年、若いうちに負った罪は長くに渡ってキミを苦しめる。ここでお互い黙ってれば潔白になれるぞ?」
「先生ソレ言葉が間違ってませんか」
「おやそうだったかね」
「ややこしくなるからお前らは黙ってろ!」
マスターのげんこつが先生と僕にぶつかる。
なんで僕まで……。
「我々は何も見なかった、キミも何も見なかった。いいね?」
「……わかった」
「ご理解いただけてなによりだ、ところで図書室の鍵の開け方とかは知らないか?」
「……今日の施錠の担当はエンドウ先生だから、先生の机の中に入れっぱなしじゃないかな。あの人ちょっと偉そうな態度取ってるくせに結構いいかげんな性格してるから……」
エンドウ、たしか教頭先生がそういう名前だったな。
教頭のとおぼしき机を調べると、たしかに鍵束が引き出しの中に。
「ずさんな管理してますねえ」
「ま、おかげで図書室に入れそうだし文句は言うまい」
僕らはそそくさとその場を後にして図書室前に戻る。
「しかし、本当に見逃して良かったんですかね、あの生徒」
「今は仕方ないさ、世界の命運には代えられまい」
「それはまあ、そうですけど」
「我々があの少年と出会ったのは、少年からしたらむしろ幸運だったかもね」
「え?」
「こすっからい悪事を働こうとした結果、全身タイツの怪しい集団に出くわしたんだ。今頃小便漏らすくらい恐怖しててもおかしくはあるまい。これで懲りて以降はカンニングなどできまい」
「たしかにトラウマになりそうではありますが……まさか先生ソレを意識してあんなわけのわからない会話を?」
「?なにが?」
「そこは素ですか……」
やっぱり先生はちょっと、ちょっと?おかしい。
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