先生、先生?そして勝利
鉢合わせになったのは、先生だった。
別れる前とはなんら変わりない、傷一つ無い様子だった。
楽勝だったのか、はたまたなんらかの理由で逃げたのか。
僕が構えたままの剣を納めると、先生はホッとした顔で話しかけた。
「マジロ君、こんな所にいたのかい」
「………ええ、グールを追いかけていたら。先生はやっつけたんですか?」
「うむ、案外と楽に勝てたよ。鉄に弱いと知っていればまあこんなもんだね」
「ですか。僕の方は、グールの鼻を潰したはいいんですが逃げられてしまって。先生が来た方向に逃げたはずなんですが、見なかったですか?」
「見なかったね……どうやって逃げたんだろうか」
「わからないですね……先生はどうしてこっちに来たんですか?」
「槍をこっちに置いてきたままだったからね、回収しに来たんだ」
「ああ、そういえばそうでしたね。今はそのナイフしか持ってないのか」
ナイフを見ると、汚れ一つ無い刃がキラリと光っている。
…………。
「しかし、逃がしてしまったグールはまだ近いはずだ、どこかに隠れて……」
と言った所で、先生は何かに気づいたようにハッとした顔をして僕を指さす。
「マジロ君、後ろッ!!」
その声を聴いた僕は、納めていた剣を抜いて
先生の左肩を突いた。
突かれた右肩から血が流れ、先生の顔が苦痛に歪む。
「ぐああああああッ…!!!な……マジロ君……何を……」
「僕が岩夫人から教わったのは戦闘技術だけじゃありません。自分の考えや行動を信じる心を、『自信』を僕に刻んでくれたんです、あの人は」
「ぐ…ぐが…が…」
「違和感は3つありました。1つは、僕がグールを追いかけた時、『待て!』という大声が聞こえない距離じゃないはずなのに『こんな所にいたのかい』と、出会うまで僕のいる場所がわからなかったかのような台詞を吐いたこと、2つめは、綺麗なナイフ。『鉄に弱いと知っていればまあこんなもんだね』って言ってたということは、ナイフで攻撃したであろうはずなのに、そのナイフが血で汚れていない。鼻血を出すくらいだからグールには血が流れてるはずなのに。そして3つめ!」
呼吸が荒くなり、身悶えする先生に向かって言う。
「なぁんでマスターが一緒にいないんですかねぇ~?彼女は今、魔法に頼れない状況で、1人にしたら絶対にまずい状況なんですよ!?それをほっといてのんきに槍の回収なんて、先生がそんなことするわけないでしょッ!?」
「グガガガーッ!!!」
「左肩を刺されただけにしては、さっきから随分と痛そうじゃないですか!『鉄が弱点』なんですか!?」
「ガアアアアアアーーッ!!!!」
先生……いや、先生のようだった物は、その体をグールの姿へと戻し、怒りをむき出しにして襲い掛かってくる。
僕は剣と盾を構えなおしてそれを迎え撃とうとする。
「マジロ君!避けろ!」
突然、遠くから声が聞こえた。
僕はその指示に従って、後方へサッと飛びのいて、声の方向を見やる。
先生だ。
後ろにマスターもいる。
「グールを剣で刺せばその内ほっといても死ぬが、もう一度刺すと逆に刺された傷が治ってしまうと伝承で読んだことがある!そのまま待つんだ!」
「先生!?」
「おっと!私は本物だよ!言い忘れていて悪かった!グールには変身能力があったんだ!」
「アタシも保証する!このヒゲは本物だ!ほら見ろ!」
マスターが鉄のナイフで先生をチクチクと刺す。
「いた、痛たたたた、やめてくださいませマスター!」
「え、痛がってる…!?じゃあこいつも偽物…!?」
「普通の人間でもナイフで刺されればちょっとは痛いに決まってるでしょっ!」
漫才みたいなことやってる、まったくもう。
こっちは命がけの戦闘と選択を乗り切ってクタクタだというのに……。
ふと見ると、さっき刺したグールは断末魔すら立てずに、焼死体のようになって死んでいた。
人……人?を殺めてしまった罪悪感が湧く。
けど、こうしなければこっちが死んでいたのだと、こうしなければ将来的には世界が消えてしまいかねなかったのだ、と考えて気持ちを飲み込むことにした。
「いやしかし、任せたはいいけど正直不安だったんだ。マジロ君がグールを相手に1対1で勝てるのかって。だのに見事に勝っているじゃないか。本当に成長したんだね、マジロ君」
「……先生」
そうか、僕は。
僕は認められたんだ。
僕は勝ったんだって、認めてくれているんだ。
嬉しい。
本当に嬉しい。
異世界に来る前から、ずーっと前から味わえていなかった、勝利の喜びに、全身を震わされる。
涙が出そうだ。
でも我慢。
この勝利の快感も、もっと強くなるための糧にしていかなければ!
「あーあー、大の大人がうずくまってプルプルして、そんなに嬉しいのかね」
「まあまあ、ついでですし、少し休憩しましょう」
「ったく」
「そういえば先生はグール倒したんですか?」
「もちろん。2対1なら余裕だよ」
「魔法が使えないって言ってもアタシには魔法薬があるからな、援護くらいはできる」
「っていうか実力差的に考えてマスターとマジロ君のペアで行かせるべきだったね?」
「えぇ……なんか今回の僕、無駄に苦行背負ってません?」
「いや、本当に悪かった、すまない」
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