(閑話)見えない未来、価値ある未来
~アネッツァ(マスター)の独白~
アタシは、この世界では珍しいエルフの血を引く人間だ。
と言っても遠い先祖の話だから、歳の取り方と魔力以外に身体的差異は人間とほぼ無い。
実年齢は25歳だが、肉体の年齢は普通の人間に換算して16~18歳くらいだろうか。
成長がほんの少し遅いぶん、寿命も長いのだろう。
この体を不便に思った事は、ほとんどなかった。
魔法学校に推薦入学するまでは。
魔法学校には体育の授業は無いので、体の小ささは問題ではなかった。
魔術の知識も、頑張れば追いつけるレベルだった。
むしろエルフの血からくる魔法の素質のおかげで、皆より秀でた部分もあったほどだ。
皆に追いつけなかったのは、心だった。
人間は体の成長に沿うように、心も変わっていく。
成長が遅いアタシは、心が変わるのも遅かった。
思春期特有の繊細さや、反抗期が、当時のアタシには理解できなかった。
ただ臆病なだけに見えた。
不真面目なだけに見えた。
だから、皆の輪からだんだん外れていった。
親や先生にくっつく私を、情けない子供と笑う人も少なくなかった。
寂しさは我慢できた。
でも、笑われるのは嫌だった。
そんな時、アタシは母さんの膝に泣きついてよく甘えていたものだ。
「母さん、アタシ、あの学校にいる意味があるのかな?価値があるのかな……?」
母さんは微笑んで答えた。
「そんなこと言わないの。アナタの価値はアナタが決めるものじゃないのよ」
「じゃあ誰が決めるの?母さん?」
「ううん、違うわ。……『未来』が決めるのよ」
「『未来』?未来なんて……誰にもわからないじゃない」
ぶーたれて、むくれるアタシを見て、母さんがクスクスと笑う。
「そうね、そう。未来の事なんて誰にもわからないのよ」
「だから、みんな頑張るの。未来をもっと良くするために。未来を悲しくしないために」
「……」
「明日、アナタの価値は、今よりもっと良くなってるわ。アナタが生きてるかぎり、がんばってるかぎり、ね」
「……よくわかんない」
「きっと分かる時が来るわ、その時まで、母さんを信じて頑張ってくれない?」
「……もうちょっとぎゅってしたら、がんばる」
「うん、ありがとうね」
アタシを抱きしめてくれる母さん。
それを黙って優しげに見守り、困った時は必ず手を差し伸べてくれた父さん。
2人はアタシにとって支えるものであり、支えられるものでもあった。
あれからアタシは、学校生活をワルぶって過ごした。
そうすることで皆の輪に入れたから。
おかげで随分と口調も思考もスれてしまったと思う。
でも、生きてきた。
両親は、変わってしまったアタシにも、変わらない優しさをくれた。
今のアタシは魔法薬学で一儲けして格安ながら大邸宅持ち。
さらにパンの特許で儲けて一介の富豪レベルだ。
本当に未来の自分の価値なんてわかったもんじゃない。
未来があるかぎり、世界には希望がある。
だからこそ、マジロとヤマガミが『世界の危機』を防ぐために来たと聞いた時、内心驚いた。
世界の危機、なにかとても恐ろしいことが起こるのだろうか。
未来は悪い方へ変わっていくのだろうか、と。
そして、ギリギリで助かったマジロが伝えた言葉。
「『敵』の目的は、『世界の消滅』です、そう言ってました」
世界が消える。
過去が消える。
未来の全てが消える。
全てが無価値になる。
母さんも、父さんも、学校の友達も、街で生活する人々も、アタシも、なにもかも。
それは、どれだけ恐ろしいことだろう。
それは、どれだけ憎らしいことだろう。
アタシが信じた母さんの言葉を、誰にも否定させない!
未来を繋げてみせる、絶対に!
そのために、命を張る覚悟はできた。
でももし、この戦いが終わって、生き延びられたら。
実家に帰って、父さん母さんの顔を見に行こう。
守る価値がある、あの笑顔を。
そして紹介しよう、未来を守る異世界の人を。




