理容店、侵入、固まるもの
~山神(先生)視点~
マジロ君から、敵組織の目的が世界の消滅と聞いた時は驚いた。
危機というのは私も神から聞いていたことではあったが、そのレベルとは。
となれば、我々が仮に敵組織から逃げきれても無事ではすむまい。
退路は既に断たれていたのだ。
ま、少なくとも私は逃げる気は無いのだがね。きっと彼も。たぶん。おそらく。そうなんじゃないかな。
その彼の容態だが、完全に回復したそうだ。
もう大丈夫だろう。
とはいえ、彼の負傷については疑問が残る。
医者が言うには、皮膚や骨や筋肉への外傷はひどかったが、臓器に傷はほぼほぼ無く、致命傷にはギリギリ至らない程度だったという。
腹から背中まで貫通するように巨大な剣を刺されてそんなことがありうるのだろうか?
驚異的な再生能力?異常な豪運?
もしかして、それが彼の……
しかし、それを確認する術はない。彼が今いないから。ぐぬう。
マジロ君は、修行に出て行ってしまった。
大丈夫だろうか。
冒険者ギルドに行って受付のお嬢さんに鼻で笑われたりヘソで茶を沸かされたり鼻で茶を飲んだりしてないだろうか。
先生は心配です。
でも今、彼の為になにかをしてあげることはできない。
それはきっと彼の成長を妨げてしまうだろうから。
獅子は我が子を千尋の谷に落とした後温かく見守るという。
サイコパスかな?
とにかく、我々は我々でできることをしよう。
というわけで、我々3人は、街の片隅にある理容店に来ている。
別にオシャレしに来たわけではない。
例の、マジロ君と相討ちした『仮面の男』。
ヤツはこの理容店の店主だったのだ。
マスターがマジロ君の救助の直前に素顔を撮影していたのが役に立った。
というのも、マジロ君を病院に運んだあとヤツの遺体を確認しようとしたら消えていたのだ。
ってことは、共犯者がいたか、ヤツの身になにかあったらすぐに誰かに通知が飛ぶ仕組みがあったか。
なんにせよ、まだ敵組織の構成員は少なからず存在するだろう。
その全容を、具体的な計画を知れないかと、この店にこっそり忍び込もうという算段なのだ。
理容店の外観は特に変わったところは無い。
出入口前には『閉店』と書かれた札がかかっている。
マスターがドアをノックするが、やはり返事が無い。
街の衛兵が調査に来ていない所を見るに、店主が一人で経営していた店なのだろう。
ついでに言えば彼の交友関係が希薄なのも伺える。
ノックの次はドアノブを捻るが、やはり開かないようだ。
「頼む」
マスターが一歩引いて指示を出す。
と、ジョジュアが子供には見せられない道具の数々を取り出して穴を弄りだす。
「ワタシを小悪党かなにかと勘違いしていないか」
「カネさえもらえればなんでも請け負うような奴がよく言うわな」
ちなみに『仮面の男』の身辺調査もジョジュアに依頼した。
衛兵に尋ねて変な目で見られるのも困るからね。
店内に入ってみるが、特に怪しいモノは無い。
鏡、木製のイス、散髪道具、洗面台。あとトイレ。
機械類が無いのを除けば、私がいた世界の理容店とほぼ変わらない。
マスターは洗面台の収納に入った洗剤などの薬品を一つ一つ確認している。
1階はマスターに任せて、私とジョジュアは2階倉庫へと足を向ける。
1階と2階の間には階段しかなく、2階のスペースはすべて倉庫として使われているようだ。
とすると住所はまた別だったようだな。
2階は人が通れないほどの小さい窓に、ごちゃごちゃと置かれた理容用具や資材の箱。
埃っぽいうえに明かりの類がなく、昼でも薄暗い。
何かを隠してくださいと言わんばかりの煩雑さだ。
ジョジュアが、奥の方へと進んでいく。
「何か見つけたらすぐに言うように、勝手にくすねないでくれよ」
とりあえず釘は刺しておく。
と、彼女は足を止めてゆっくりとこちらを見る。
「……お前はワタシを毛嫌いしているように感じる」
「以前言っただろうけど、悪党に容赦はしないタチでね」
「カネを貰って人を殺す者は悪党だ、と?」
「ああ」
「報酬の有無が、善悪を分けるとでも?」
「……何が言いたい」
「貴様とて、経験はあるんだろう?」
「『殺し』の」
「……」
「貴様が『正義』のために殺しをするのは勝手だが、ワタシを悪党としか見ぬその目が、少々気に食わない。それだけだ」
そう言って、彼女は止めた足を動かし、奥へと進む。
彼女が資材箱の物陰にスッと入った時、一瞬うめくような声が聞こえ、そして。
静かになった。
「ジョジュア……?どうした?返事をしたまえ」
……。
「おい!」
彼女の消えた先に警戒しつつ、ゆっくりと私も歩く。
「痛ッ!」
突然、激痛が走った。
床を見ると、釘があった。
尖った部分が上に向かって突き出ている。
そこでハッと周囲を警戒する。
が、なにも来ない。
どうやらトラップの類ではないようだ。
なんという安普請な!
痛みを堪えて、ジョジュアの安否を確認する。
彼女は床に伏せていた。
寝ている?倒れている?
いや違う、なにか様子がおかしい。
微動だにしていない。
呼吸音がしない。
「どうした!しっかりしろ!」
彼女の身体を揺らそうと、肩に触れる。
「!?」
固い!?筋肉の硬直なんて硬さじゃない、これは!
チラリと見えた彼女の肌は、灰色に染まっていた。
これは、まるで、これは!!
その時、私自身の脚に違和感を感じた。
動かない。
まさか!
ズボンの裾を上げると、自分の脚もジョジュアと同じく石になっているのが見えた!
石の浸食はどんどんと、下半身を覆い、今、全身を!
あの、釘だ!!
私は上半身の力を込めて叫んだ。
「マスター!2階に来るな!!!この店はすでに、罠になっていた!!!」
そして、私は意識を失った。
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貴方の一動作で救われる作者がいます。




