夫人の剣、確かな成長
岩夫人の武器を構えた姿勢は相変わらず美しい。
体幹――胴まわりの筋肉が強い人は、歪み無い立ち姿を持つと言うけど、夫人のソレはまるで彫像のようだ。
綺麗で、まったくのブレがない。
隙が無い。
だから、僕も武器を構える。
ガニ股で、盾をあさっての方向にして。
夫人がすぐにムッとした顔をして、そのあとハッと気づいてニッと笑う。
流石にわかりやすい挑発だったかな。
だが夫人はあえてノるようだ、1歩踏み出してくる。
しかし夫人はまだ互いの間合いの外……と思っていたけど、跳ねるように地面を蹴り出して、滑るように低い態勢で踏み込んできた!
まるで猫か蛇!
どうする!踏みつけるか!いや盾を頭上で構えてる!踏んでも立ち上がる勢いで跳ね飛ばす!
引くか!いやそれではなにも変わらない!それどころか重心が大きく前に出てる分スピードでは向こうが有利!追いかけっこになったら負ける!
受けるか!?夫人が狙うのは足首か!?そうなるとこちらも低く構えざるを得ない!頭を盾で狙われる可能性も……
……いや!
僕は、前に向かって避けた。
夫人が右手の剣を構えているのは、左胸のあたり。
ならばその逆、夫人から見て右の方をすれ違うように跳ねる。
姿勢を低くして頭上で盾を構えている夫人は、視界……特に上方が非常に狭まっているはず。
これでこちらの動きと位置は把握しづらくなる!
たとえ振った剣が当たっても、位置的に振り切った刃先が当たるくらいのもの。
ならばそう痛手にはならない!
しかし、夫人はこちらの行動を読んでいたのか。
踏み込んだ足を軸にして、大きく脚を、腰を、上体を、頭をひねり、回す!
後方にも届く回転斬り!
剣の勢いは弱まるどころか、さらに増している!
遠心力は、偉大だ。
ぜひとも、利用させてもらおう!
僕は夫人の視界の外で、その回転斬りの届く距離、その剣の軌道を予測して盾を構えていた。
勢いの付いた剣を受け流して、弾ける盾。
夫人は、回転の勢いがついた体勢を抑えるために隙ができている!
そこへ、弾けた勢いを利用して、上体と腰をひねり、踏み込んで、突く!
ドッ!
っと、夫人の腹に僕の木剣が……当たった。
『刺さった』『めり込んだ』という表現を使わなかったのは、夫人が腹筋に力を込めていたせいで、体に剣先がぜんぜん埋まらなかったからだ。
うっ!
と驚いた瞬間、夫人の脚が豪速で僕の股間を蹴り上げ、なかった。
トン、と軽く僕の股間を太ももで叩き、場が固まる。
「お見事」
スッと構えを解いて距離を取った夫人が爽やかな微笑みを浮かべ、僕を映やす。
「パリィで受けた勢いを利用する動き、瞬間での行動の選択、わざと私の怒りを買い攻撃を誘う嵌め手。教えた事をしっかりと復習できており、たいへん見事でしたわ」
「いやあ、そんな」
「否定しない!!」
「ッ!?」
「名誉冒険者たるわたくしの師事を受け、そう長くない期間で大きく成長し、そして今、師に一撃を当てるほどの腕前を得ることができたのです!貴方は強くなったのです!それを否定することは、たとえ貴方本人であっても許しません!」
「夫人……」
「もし成長が嘘であったなら、一撃を貰ったわたくしの名誉にも傷がつくというものです。胸を張りなさいな」
「……はい!ありがとうございます!でも僕、もっともっと強くなりたいです!」
「ええ、そうでしょうね。こちらから見ても、貴方はまだ完成とは言えません。あともう少し、付き合って貰いますわよ」
「よろしくお願いします!」
「でも、今日のところはここまでです。今日の勝利の喜びを、しっかり反芻してから寝る事。よろしい?」
「はい!お疲れ様でした!」
僕は、緊張と疲労でくたくたの身体だったけど、宿まで駆けださずにはいられなかった。
勝利、と呼ぶには程遠いかもしれないけど、確実に一歩進んだという自信をつけられたから。
全身をくすぐられるような喜び、思えばこんな気持ちいつぶりだろう。すっかり忘れてた。
ふと、足が止まる。
もしかして夫人は、僕に自信をつけさせるために、わざと……?
思えば、さっきの攻撃は彼女にしては予備動作が大きくて分かりやすかった。
本気でやればもっともっと早く攻撃が振れたのかも。
いやしかし、それを考えるのはよそう。
彼女は僕の強さを、僕に信じさせたかった。
それはつまり彼女が強さを認めたという事だ。
ならば変わりない。
僕は、自信をもって戦いを修行に挑むのみだ。
見送る岩夫人が背後で、僕の股間に当てた太ももを撫でまわしながら紅潮しているのに気づかず、僕はその夜、宿でぐっすりと寝た。
もう、僕を嗤う悪い夢は見なくなるのかもしれない。
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