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修行、勉強、イドが湧く

 ラウホステイン周辺──

 開けた草原で修行は始まった。


 岩夫人(ミセス・ロック)の指示で買った、幅広の短剣と小さめの盾、正しく呼ぶならグラディウスとバックラー(を模した木製品)。

 それらを構えてみせる。


「準備、できました!」


 途端、夫人の軽い平手が容赦なく飛んでくる。

 ぺちーん


「手が出るの早すぎませんか夫人!?」

「容赦はしないと事前承諾はしたはずですよ。貴方はまず構えから矯正する必要があります。なんですかそのガニ股は!なんですかその盾の向きは!まだ手は出してません!!猥褻未遂です!!!!」

「夫人!夫人落ち着いて!」

「はっ!すみません取り乱してしまって、未遂とは計画をして実行はしていない状態の事……計画すらしてないなら未遂未満なのでがぜんセーフでしたわ」

「まだ取り乱してるな!?」


「よろしいですか?バックラーを構える場合基本的には相手に突き出すようにするのです、そうすれば相対的に防御面積は増えて相手の視界を遮る事にも繋がります」

「視界と防御面積を考えるなら大きな盾を持てばいい話では?」

「然り、ですが機動力を落とすことになります。以前聞いた話だと、貴方の戦いはほぼ個人戦ばかり。そうなると機動性は大事ですし、いつ襲われるかわからないなら携帯性も意識せざるを得ないでしょう。生存を原則(ドクトリン)とするのであれば」

「まさに生きたい人の為の装備がこの小さい盾と短い剣……」

「依頼によって戦う場所戦う相手の変わる冒険者にとってもこの装備は理想的だと、ワタシはそう信じています」

「『名誉冒険者』がどれほどのものかは存じませんが、その名を持つ夫人が信じるのであれば僕も信じたいです」

「よろしい!」


 ぺちーん


「なんでいちいちはたくんですか!」

「記憶というのはただの言葉だけではなかなか染みつかないものです、五感を使うことでより効率的に覚えることができるのですよ」

「痛覚は五感じゃないんだけどなあ!」



 そこからは実戦を介しての勉強が続いた。

 バックラーは防御(ディフェンス)というより受け流す(パリィ)の為の道具だということ。

 敵の武器を剣で受けた際、受けた勢いを利用して反撃する技。

 使えるものは足元の小石でも利用せよという教え。

 相手の守りの崩し方。

「ハメて!」

 ……いきなり夫人が叫ぶからびっくりしたが『嵌め手(はめて)』の事らしい。

 隙をわざと見せて敵の大振りを誘う戦法だ。



 小さい剣と盾なれど、何十回何百回と振って受ければ流石に疲れる。

 はずなのに夫人は汗一つかいてないのだから、基礎体力の差を思い知らされる。


 夫人は修行の休憩がてら、瞑想のような事もさせた。

 全身の衣服を緩めて目を閉じさせ、修行を望んだきっかけを反芻(はんすう)せよと言うのだ。

 辛い時苦しい時悩んだ時は呼吸を整え基礎に立ち返り、心、体、状況をリセットするのが彼女の『打開策』だと。

 たしかにすごく効果的だ。

 あの時の事を思えば沈んだやる気が再燃し、気力が湧いてくる。

 ただこの休憩を挟んだ後は決まって夫人が顔からなんらかの液体を垂らしている。

 鼻血とか涎とか涙とか。


「失礼しました。……もう、涎なんて出し切ったと思っていたのに……」


 悲しき殺戮機械(キリングマシーン)が感情を取り戻した瞬間みたいなセリフを吐く夫人。


(そう、そのまっすぐな激情を宿した瞳。女性的な顔立ちにその瞳が加わると、どうにもワタシの心も共鳴(シンクロ)してしまって……嗚呼……)


 ?なにか聞こえたような……?




 むっちりとした夫人との修行は数日間みっちりと続いた。



 しかし、自分が強くなった気がしない。

 夫人の教え方が悪いわけじゃない、と思う。

 ただ、どうしても実感が湧かない。


(マジロお前、こんな事もできないのか?)


 頭の裏にへばりつくような、僕を否定する僕の声が響く。

 その声が聞こえると、いつも決まって夫人の一撃が刺さる。

 変えられないのか?僕は……。


「体力は元から悪くなかった。基礎とはいえ技術は叩き込んだ。あとは、その瞳」

「え?」


 何かを呟く夫人が僕の眼を見て、その後武器を構える。


「マジロさん、もう一度、構えなさいな」

「また実戦ですか」

「ええ。但し、次はもっと真剣にやってもらいます」

「えっ」

「命は取りません、ですが、骨折くらいは覚悟して貰いますわよ」


 夫人の圧が変わった。

 ギラギラとした眼で僕を睨んでいる。

 急にどうしたんだ!?

 理解できないまま、僕も武具を構える。

いいね感想ブクマなどなんらかのアクション頂けますと幸いです。

貴方の一手間で救われる心がある。

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