明けた夜、響くビンタ、始まった道
暗い。
温かい。
柔らかい。
鳥の声が聞こえる。
ここが死後の世界なんだろうか。
欠伸が出そうになる。
口が動く。
動く?
身体が動く。
生きてる?
瞼を開く。
天井。
知らない木造りの天井だ。
身体を起こそうとする。
途端に、激痛が走った。
「ツウっ!」
痛みで確信できた。
ここは、死後じゃない。
まだ、生きてる。
周囲を見回す。
窓から射す光の先に、先生とマスターがいた。
2人ともヨレヨレの服とボサボサの髪だ。
先生は大股を開いて椅子に座ってるし、マスターも椅子を横並びにしてその上で寝ている。
大口を開けてカーカーと眠る様子を見ると、よほど疲れているようだ。
経緯は覚えてないけれど、きっと、僕の為に尽力してくれたのだろう。
ありがとうございます、本当に。
マスターが寝がえりを打つと、足をググッと伸ばす。
伸びた足で先生の座っている椅子が押されて、そのまま先生ごと倒れる。
「な、なーっ!敵か!?味方か!?いや、スーパーマンか!?」
先生が喚きながら周囲を警戒する。
そして、僕に気づいた。
「おお……!マジロ君……!」
「先生!」
先生が嬉しそうな顔をして僕の両肩を掴んで揺らす。
「大丈夫かい!?意識ははっきりしてるかい!?痛むところは無いかい!?」
「今まさに揺らされてるせいでお腹がいだだだだだだだだだだだだだだだ」
「おお!失礼!」
「ぐえっ」
突然肩を離されてベッドに倒れる僕。
「私はてっきりあのまま『なにやら満足死』してしまうのではないかと」
「なんですかそれは」
「物語でラスボスが敗北する時、自分の生き方やら負けた理由について勝手に納得しながら死ぬ現象の事だよ。さんざ引っ掻き回された挙句勝ち逃げみたいに死なれると気分悪くなるよね!」
「なんとなくわかりますし、僕がそうだったことは否定しませんが、なんかなあ」
「いや、ともかく無事でよかった。老人1人で異世界に取り残されるかと思ったんだぞ?」
「ご心配をおかけしました……でも、そうは言っても、僕なんて――」
そこまで言って、ドタンと音がした。
寝ていたマスターが椅子から転げ落ちた音だ。
「マジロ……」
「マスター……」
「マジロ君……」
「いやなんで先生が入ってくるんですか今そういうタイミングじゃないでしょ」
「老人ばかり蚊帳の外にされる~」
「マジロ、大丈夫か?痛むか?どこが痛む?腹か?」
マスターの声に震えが混じっているのがわかる。
「顔は?顔は痛むか?怪我してないか?」
マスターが僕の顔にそっと触れる。
「痛むのは幸いお腹だけです。顔はどこも……」
「そうか……」
そう言うとマスターは僕の顔からゆっくりと手を離し
振りかぶって
思いっきりビンタした。
「ぶべぇ!」
「うーん肩と手首のスナップの効いた良いビンタだ、指にスキマを作ってないのも◎」
「冷静に評価してる場合ですか!痛いじゃないです、か……」
睨むと、マスターは泣いていた。
「お前なあ、こっちはなあ、なあ、アタシのせいで、アタシがほっといたせいで、周りの人が死んだりして欲しくないから、お前らに付き合ってやってるってのになあ、何お前はやりきったみたいな顔して死のうとしてんだよ……ふざけんなよ……アタシだってなあ、自分から死にに行くヤツは止めらんないんだよ……分かれよ……!」
「マスター……」
申し訳ないという気持ちはある。
「すみません……」
「でも……」
でも。
「でも!どうしろって言うんですか!僕だって死にたくて死にに行ったわけじゃないんですよ!あの状況で僕に逃げる術はなかった!だからああしたんです!アレが最善だと思ったんです!僕だって、もっと強かったら!もっと先生やマスターみたいになれたら!もっと……!」
「マジロ……」
「マジロ君……」
悔しい。悔しい悔しい悔しい。
全部、僕が弱いせいだ。
今僕がベッドで寝ているのも。
先生を心配させたのも。
マスターを泣かせたのも。
全部僕のせいだ。
僕は
もういやだ。
「マスター」
マスターが目を擦って僕を見る。
「僕に……お暇を頂けませんか」
「マジロ……」
「……仕方ない、か。こんな目にあったんじゃあね。本当にいつまた同じ思いをするとも限らない」
悲しい空気が室内に漂う。
「僕は……修行したいです!」
「「!!」」
僕1人が嫌な思いをするだけだったら、きっとまた逃げてただろう。
でも、今は違う。
僕の事を本気で心配してくれる人が、僕の為に泣いてくれる人が、すぐ近くにいる。
僕は、泣かせたくない。
そして、消えてもらいたくない。
守りたい。
自分を、2人を、2人のいる世界を。
強くなりたい!
僕は、変わりたい!変えたい!!
点と点の間に障害があっても、立ち止まってはいけない!
どんな回り道をしてでも、進まねばならない!
僕はようやく、始まりに立って、歩き出せた。
そんな気がする。
「僕、絶対に強くなります!」
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