じわじわ、じわじわ、死の接近
首無し騎士が僕の進路に立ちふさがっている。
ドレイクほどではないが、コイツもデカい。
横幅は3~4メートルほどだろうか。
デュラハンの動きは歩みも含め、さほど早くはないが、狭い路地でコイツを横切るのは至難だろう。
横道は!?無い。
窓は!?無い。
すぐ跳び込めるようなところには。
壁をよじ登れば入れなくはないだろうけど、そんなヒマを与えてくれるとは思えない。
前にはデュラハン、後ろには誘拐犯。
腰に備えたナイフ一本ではとてもじゃないが両方を相手取るのは無理だ。
仮面の男に立ち向かうしかない。
僕は走る。
「おとなしく馬車で死んでりゃ良かったのに無駄な苦労させやがるなぁ!おい!!」
仮面の男が悪態をつきながらこちらに向かう。
徐々に語気が強まっている所から、イライラが伝わってくる。
「罰だ!苦しめて殺すッ!」
仮面の男もナイフを構えた。
そのナイフは刃がギザギザとして、もし刺して抜かれれば肉をえぐって激痛を生むであろうことは想像が容易だ。
わざわざ苦しませると宣言する行為も含めて、残忍さ、血の気の多さがよく伝わってくる。
だからこそ。
「僕を狙ったのは、一番弱そうだったからだろ?」
「ああ!?」
「そいつに情けなく投げ飛ばされた気分はどうなんだよ!?」
「……!!!!」
「僕1人殺すのにデュラハンの手まで借りてさぁ!」
だからこそ、挑発が効くと思った。
「お前ら如きに世界をどうこうできるわきゃ無ェんだよ!ザコカスッ!」
自分でも今まで吐いたことのないようなセリフを浴びせる。
「こっちの台詞だボゲッ!!!コバエの2、3匹に今更消滅が止められるか!!!!」
やっぱり、コイツは『世界の危機をもたらす奴』だった!この事件の犯人は『敵』だったんだ!
しかも、『消滅』!?『消滅』って言ったのか!?
神様からは『世界の危機』って、漠然とした言葉でしか聞いてなかった。
『魔王が世界を支配する』とか、そういうレベルの話だと思っていたけど、まさか『消滅』ってレベルだなんて!
このことを、どうにかして先生とマスターに伝えなくては!
だが、情報を引き出すためとはいえ。
「楽に死ねるとは思うなよテメェよぉ……!」
僕の煽りに、仮面の男は激昂している。
青筋、見開いた目、噛みしめる歯、震える腕。
なにがなんでも僕を殺そうとする意志が全身に現れている。
僕はナイフを構えた。
仮面の男はほんの少し踏み込み、こちらの腕や足を突いてくる。
僕が投げてくるのを警戒しているのか。
いやきっと、痛みを与えて苦しませる方が主目的なのだろう。
毎日のように、それなりに体力をつけてきたつもりの僕だったけど、技術を磨くことはしていなかった。
そのツケが今、回ってきているんだ。
ナイフによる突きを受け流しきれず、腕に足に傷が増えていく。
予想していた通り、痛い。
以前にジョジュアさんにメスで刺された時があったけど、アレより格段に痛みが強い。
あの時は、死ぬような傷じゃないから前に踏み込めた、と思う。
しかし今、僕の前にはより明確で強い『殺意』がある。
傷を負い、裂けた服に血を滲ませながらジリジリと後退する僕。
デュラハンはもう、すぐ後ろだ。
時間を稼げばもしかしたら二人が来てくれるかもと思ったが、もはやそれにも期待はできない。
死。
もはやほんの少しの足掻きだけが残されて、ただソレを待つのみとなった。
恐怖は――
不思議と、あんまり湧かなかった。
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