夜、パトロール、僕ひとり
夜のラウホステイン、東区。
魔力で光る街灯が点々と、頼りなく大通りを照らす。
酒場や、そこから住宅地に続く道は活気がまだ残るが、そこから少し外れれば人気は全くと言っていいほど無い。
失踪事件のウワサは街全体に広まっているのだろうか。
僕たちは松明を片手に、街を練り歩く。
「治安の悪い東区ってことも含めて、なにか出そうな雰囲気がしますね」
「有名な殺人鬼、レザーコートもやはり治安の悪かったロンドンのイーストエンドに住む娼婦を標的にしていたと聞くしね。ここからはより一層気を付けて進まねば」
「殺人鬼ねえ。ただの人間の凶悪犯であればまだマシな方なんだが」
「……」
マスターの言葉に、唇を噛みしめる。
ファイアードレイク以上に、凶悪で、強力な、敵。
想像もしたくないけど、目をつむれば消えてくれる問題ではない。
僕の心配をよそに、無情にも歩みは進む。
どんどんと大通りから離れ、月明りだけの路地に移る。
ゆっくりと進んでいると、道の端に大きめの陰が揺れ動いて映る。
恐る恐る影を覗くと、馬だった。
藁に首を突っ込んで、なにかを探しているような動きだ。
馬は馬車に繋がれている。
パッと見、特にそれ以上のことはなさそうだったので、僕らは列になってスッと横切った。
列の後ろにいた僕は、なんとなく振り向く。
馬車の中のなにかが、松明の光でキラと輝いた。
刃物だ。
血がついている!
その血は、刃物だけじゃなく置かれた馬車の床にも広がっている。
まだ乾いてない!
なにかあったのか!?
刃物を拾おうと、手を伸ばす。
すると、馬車の荷物の裏からニュッと手が伸びて僕の腕を掴み、馬車内に引き入れる。
そしてそれを合図に、馬が走り出す!
「うわあっ!」
僕の声を聴いて、先生とマスターが振り向くのが見えた。
しかし、僕と二人の距離はどんどん離れる。
通路の角を曲がって、さらにさらに距離をつけていく。
僕を掴んだ相手の方を向くと、そいつは仮面を被っていた。
人間の、男性だ。
仮面の男はもう片方の手に、落ちていた刃物を拾って握る。
もうココには、僕しかいない。
以前みたいに、先生やマスターが僕を守ってはくれない。
僕1人では、どうしようも……。
刃物が向かってくる。
走馬灯がぐるぐると巡る。
でも、僕の記憶なんて、たかが知れたもんです。
バイトの記憶。
叱られてばかりだった頃の、バイトの記憶が、ぐるぐる巡っている。
食品製造、パチンコホール、警備、運搬……。
走馬灯は、生き残る為に自身の記憶を高速でたどる過程で起きる現象だと聞いたことがあるけど、僕の記憶なんて……。
あ。
ふと思い出して、体を後ろへ倒す。
でも倒れることはできない。
敵が片方の腕で僕を掴んで、引っ張るから。
僕は引っ張られる勢いを利用して敵に踏み込み、背中を当てながらぶつかる。
その時……たしか、もう片方の腕を、相手の『掴んでる腕』の下に潜らせるんだったか。
そして背中で敵を持ち上げながら、掴まれた腕を、今度は全力で、もう一度引っ張る。
敵の身体がぐるりと縦回転して、背中から床に打ち付けられた。
いわゆる、『一本背負い』。
警備のバイトをやってた時ほんの少しだけ習ってた柔術を、まさか剣と魔法の世界で活かすことになるとは思ってもみなかった。
とにかく、助かった!
敵が倒れて混乱している間に、走る馬車から飛び出す僕。
格好よく着地ができず、ゴロゴロと転がった。
敵もすぐさま馬車から飛び出し、こちらへ向かってくる。
逃げなきゃ!
敵に背中を見せた瞬間、声が響く。
「今逃げようとしてる奴だ!ソイツを止めろ!」
-先生の視点----------------------
馬車の逃げた軌跡を追って、私とマスターは全力で走る。
「迂闊だった!マジロ君に狙いをつけていたとは!」
「1対1だとて、マジロ1人で対処できるか!?」
「……残念ながら、おそらく1対1じゃない」
「!?」
「さっき馬車が角を曲がった時、馬の顔が見えた。いや、正確には見えなかったと言うべきか!」
「どっちなんだ!」
「無かったんだ!馬の!首から上が!」
「ええっ!?」
「首の無い馬が、それ単体で呼び出されたとは思えない!きっと……アレも呼ばれている!」
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僕の逃げる先の道から、端々に置かれていた荷物を踏み壊しながら、なにかが近づいてくる。
黒く、巨大な、鎧をまとった人影だった。
その鎧に、首から上は無かった。
思わず、うめくように呟く。
「首無し騎士……!」
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