ダンジョンにある「凍らせたスライムをスイッチに置いて扉を開く」みたいなギミックをみんな正規の方法で突破せずバグを使って突破するんだけど正直やめて欲しい...。
「ククク...ここまでやっときたか。だがその仕掛けは解けまい」
そういいながらそのツノを生やしたヤギのような魔物、ヤギー司祭は人間をモニター越しに見ていた。ここはベルム城というダンジョンで、この魔物はボスと言う奴だ。このベルム城はダンジョンでいえば中盤ほどで、散々なギミックが施されている。その中でもヤギー司祭のお気に入りがあった。
「よしよし、例のエリアに入ったな」
そこは青いスライムが何体かいて、その部屋にはヤギー司祭のいる場所に続く大きな扉がある。しかしその扉は普通では開けることができない。その扉を開けるスイッチ近くにがあるのだが、スイッチを踏んでないと開いたままにならなのだ。
そこで役に立つのが青いスライムだ。このスライムは氷で凍結すると言う不思議な性質があり、こいつをスイッチに置いておもりにすると開けたままにできる。
「さあ、氷らせろ..!」
そう呟きながら期待して見ていたが、人間はとても奇妙な行動に出た。体を扉の縁に押し当てている。ヤギー司祭は不思議そうにそれを見ていると、その人間はおもむろに爆発の魔法を唱えた。もちろんそのような所で唱えれば大きなダメージを喰らう。だがその爆発で吹き飛んだ人の体はあろうことか扉を貫通し、扉を開けずにヤギー司祭のいる部屋の階段にたどり着いてしまったのだ。
「は?え?」
ヤギー司祭は驚いた。正規のスライムを凍らせ、スイッチのおもりにすると言う方法ではないからだ。
「おいおいおい待て待て!なんでスライムを凍らせない?何でそれで行けるんだよおおおおおおおお!!!」
「と言うことがあってな」
昨日起きた出来事を、ヤギー司祭は部下の羊たちに話した。カラフルなローブを纏った羊の部下は困ったように首を捻る。するとそのうちの1人がこんな事を言い出した。
「ヤギー司祭。これはバグ技という奴ですな」
「バグ技じゃと?」
「ええ。これを見てください」
そういい部下の羊はモニターを映し出す。そして素早く「ベルム城 バグ技」と検索する。すると上からベルム城に関するバグ技の記事がずらりと出てきた。
「なになに?ベルム城をスライムを凍らせずに突破するバグ技??ナンダ?これは!」
「これはインターネッツエクスプォーラーという人間が使っているものです。ここに何かを検索するとそれに関するものがたくさん出てくるのです」
「ふむ...『まずはヤギー司祭の道に続く扉の縁に行きます。そして爆発の魔法を使うと、扉を貫通し氷の魔法なしでいけます!?なんだこれはふざけているのか!?」
その記事を見てヤギー司祭は激昂する。それを羊達はなんとかなだめた。
このようなギミックがあるから面白いのにそれをまるで冒涜するかのような行為だ。魔物がいるだけというのは寂しいだろう?このように頭を使って仕掛けを解くというのもダンジョンの醍醐味のはずだ。
「むう...あの凍るスライムを捕まえるのだって苦労したんだぞ??その辺にいると思ったら大間違いだ。あのスイッチで開く扉だってあれを取り付けてもらうのにいくらかかったと思ってる。この手のダンジョンのギミックって配置してうまく作動するかのテストプレイをして...と大変なんだぞ」
「はあ...」
止まらないヤギー司祭の愚痴に羊達はなんと言っていいのかわからなかった。ヤギー司祭は「よし!」と言ってどこかに電話する。少し何かの話をして電話を切ってしばらくするとペリカンのような魔物がヤギー司祭の前に現れる。
「どうも、ギミックならお任せ、ギミック屋です」
「お前のところの設置してもらったギミックが爆弾で突破されるんだが?」
「ほう..少し見ても良いですか?」
ヤギー司祭はその場所に案内し、人間がやったのと同じように扉の縁で爆発させる。すると人間の時と同じようにヤギー司祭は扉を開けてないにも関わらず扉の先に行けてしまった。
「ふむ...これは修理が入りますね」
「いくらかかるんだ?」
「まあ...そこそこと」
「そうか」
「ついでに追加ギミックはどうですか?おすすめはこれ!『押しつぶす天井!』!これを天井に設置すれば一定の周期で出たり引っ込んだりを繰り返し、人間を押し潰してミスにすることができますよ!」
「いや、いい」
「では『グルグル動く鉄球』!これは鎖に繋がれた鉄球がある点を中心に円を描くように回転します。破壊力抜群!」
「これ、鉄球を動かす装置も込み込みなのだろう」
「はい」
「どうせ高いだろうからいい。
「ではマグマはどうです?ラストダンジョンに付き物のマグマ!」
「いやここラストダンジョンじゃないのでな。ていうかしかもこれ、穴掘ってマグマを流し込むのだろう?こんなのを設置してたら相当かかるだろう」
「まあ、結構骨のいる作業ですからね」
「全部いい。修理だけしてくれ!」
少し残念そうにペリカンの魔物は修理を始めた。
「見てください!」
「ん?」
羊の魔物はまたあのバグの書かれているページを開いた。そこには『修正されていて現在は不可』と書かれていた。
「おお、よかった」
「ですが...」
下にスクロールすると、コメントを書き込む欄が出てくる。
『バグ治すな。つまらん』
『バグもダンジョンの醍醐味だろ。治すとかあり得ない』
『バグ直されてる!直したやつ無能だな』
このように批判の嵐だった。
「まあ良い。ちゃんと正規の方法で行かないこいつらが悪いのだ」
「そうですね」
「ヤギー司祭。また人間が来た...のですが、何かをやっているようです!」
「ん?」
モニターを変えると人間が扉に体を擦り付けて試行錯誤をしている。もちろん扉は開いておらず、またバグで突破を試みているのだ。
「無駄だ!強固になったからな!そこを抜けるには不可能!!はっはっはっは!!素直にスライムをスイッチに置いて扉を開けるがいい!!!はーっはっはっはっはっは!!!は?」
その高笑いは途中で止まった。なぜなら、していない扉の先に人間がいるのだから...。
「えっ...なんで?」
ヤギー司祭の戦いはまだまだ続いた。