半雪女の美少女に思いを伝えているのに、毎回溶けて保留にされる
パッと思いついたラブコメです。
俺が通っている高校には、人間と雪女のハーフである半雪女がいる。
そんな彼女の名前は――白銀真雪。
腰あたりまで伸びるサラサラな銀髪に、前髪に付けている雪の結晶のヘアピン。
金剛石のように美しい空色の瞳に整った顔。容姿端麗、さらには成績優秀。
男子たちはもちろん彼女に釘付けだ。そして俺も彼女に釘付けの一人である。
名前は――雪宮琥珀。
見た目は何処にでもいるようなごく普通の男子高校生だと思っている。
そんな俺は今日、彼女に告白をする。
彼女が「OK」と言った人はこの高校に誰一人としておらず、〝高嶺の花〟という異名もつけられているほど。
――難攻不落。
そんな俺は今日、二十五回目の告白をする。
何度も何度も振られては再トライしているというわけではなく、彼女から保留にされているのだ。
理由は……まあもうすぐ彼女がこの校舎裏に来るだろうから、その時わかるだろう。
「――お待たせ」
「ん、白銀さん」
さらっと腰あたりまで伸びる髪をなびかせ、二次元を具現化したように美しく可愛い彼女の姿が俺の目の前にいる。
やはり可愛い、可愛すぎる。
ぐっと下唇を噛んでいなければ今にでも「超絶くそ可愛い。めちゃ愛してる」と言ってしまうだろう。
ただしそれは違う。俺は一応セリフを考えてきたんだから、それを言わなければならないのだが…………。
「今日も超絶めちゃくそ可愛い。白銀さんを見かけたらいつでも目で追うほど可愛い。お望みなら資産王でも石油王でもなるぐらい愛してるから俺と付き合ってほしい」
気づけば超絶早口でこんなことを口走っていて、俺は九十度腰を曲げて右手を差し出していた。
すーっ……。やってしまいました。
脳みそで考えるより前に、脊髄でプロポーズをしてしまった。
「恋は盲目」というが、恋というのは判断力すらも鈍らせる恐ろしいものだな。
チラッと白銀さんを見ると……。
「あ、あぅぅ…………」
雪のように白い頰は薔薇色に染まっており、両手でその頰を抑えていた。
さらによく見ると、全身から煙がシュー……と吹き出ていた。
幻覚じゃなく、本物の煙だ。
オー○マイトの変身が解ける時みたいなやつだ。
「う〜〜!」
最後に唸り声を上げると同時に、ぽんっという音を立てて白銀さんの全身が煙に包まれる。
「白銀さん!」
「あ、あぁ……。またやっちゃったぁ……」
煙が晴れるとそこには、小学生ぐらいの大きさで、顔も幼くなった白銀さんの姿がそこにあった。
彼女は半雪女で、とある条件が揃うとこのように溶けて小さくなってしまうらしい。半なのでこれ以上は溶けないらしい。
ちなみに理由は聞かされていない。
そう、これが理由で毎度毎度保留にされてしまっているのだ。
「ご、ごめん雪宮くん……。今日も保留ということでお願い……」
「わかった……。ごめん、本当は最高のセリフ考えてたんだけどつい脊椎反射でプロポーズしちゃったよ。……聞く?」
「へっ!? や、やめておこうかな……。もっと照れちゃいそうだし……」
「? そっか……」
最後の方はよく聞こえなかった。
俺は切り替えて、テキパキとバッグの中から自分の体操服を取り出し、すぐさま白銀さんが見えない場所へ移動した。
流石に二十五回も告白しているので、少女化対策はできている。
「毎回俺の体操服ですまん。でも使ってないから安心してくれー」
「毎度毎度ご迷惑を……」
俺は紳士だ。
だから移動した後も、目隠しをして耳栓も着用した。
これはあの波紋使いの紳士と同じぐらいの紳士度なんじゃあないかな?
そんなことを思っていると、ツンツンとお腹を指で突かれる感触がした。
「ん、着替え終わった?」
「うん、ありがとー」
耳栓を外し、目隠しを取るとそこには――天使がいた。
俺の体操着を着た銀髪でくりくりお目目の天使だ。……まあ雪女だが。
俺の心は『ズギュゥウウン!』と、キューピットの矢で撃ち抜かれた感覚がした。
この姿を何回も見ているのだが、やはり慣れない。可愛すぎる。
きっとこの感情に終わりはない。
「これが……レク○エム……かッ!」
「?? 雪宮くん何言ってるの?」
「ああ、ごめん。なんでもないよ。それより帰ろうか」
俺が白銀さんにそっと手を差し出すと、白銀さんは一瞬たじろぐ。
こんな姿で一人で帰らせてしまったら、きっと悪い奴らに攫われたりしてしまうはずだ。
だから俺は、白銀さんが小さくなった時、ボディーガードをするという大役を立候補し、見事勝ち取ったのだ。
「うん……」
白銀さんは再び頰を赤らめるが、キュッと小さな手で俺の手を掴む彼女。
あ〜〜、可愛すぎて吐血しそう。
あと母性心をくすぐられる感覚がする。俺男なのに。
「ね、ねぇ雪宮くん」
「ん? どうした?」
「えっとね……えっと……」
もじもじと下を俯きながら、手を掴んでいる方とは逆の手で俺の服の摘む。
「こ、今度の土曜日か日曜日暇だったら一緒にお買い物とか……行きた――」
「行く」
「い、いいの……?」
「もちろん。白銀さんからお買い物のお誘いが来るなんて……! 俺は明日死ぬのかな」
「お買い物行くのに死んじゃダメだよ!」
こうして、俺と白銀さんで今度の土曜日に買い物に行くことになった。
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――来たる土曜日。
俺は鏡の前で色々とチェックしていた。
「服装よし、寝癖無し、鼻毛無し、その他諸々よし。オーケー、タスククリア」
目の前の鏡にはパーカーを羽織った黒髪で琥珀色の目の男が映っていた。俺だ。
プライベートで会うなんて初めてだし、ちゃんとしないとな。
「母さん、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
リビングにいる母さんにそう言い、俺は集合場所のショッピングモール前の噴水まで向かった。
その噴水の場所がら見えると同時に、噴水と同等……いや、それ以上に綺麗な美少女がそこに立っていた。
オーバーオールに黒い帽子。スマホを片手に噴水の傍に立っている。
というか集合時間までまだ三十分以上ある。
「ご、ごめん白銀さん! まさかこんなに早く来てるなんて……」
「ううん! 私こそごめん、楽しみでつい早くきちゃった」
えへへと花が開いたかのような笑顔でそう言う白銀さん。
俺はつい頰が熱くなる感覚がした。
「とっ、とりあえずどこから行きたい?」
「んー……。少しお腹空いてるからアイスでも買わない?」
「アイスか、いいな。俺も冷たくて甘いものは大好きだ」
「それじゃあ行こっか」
「ああ」
休日ともあってかなりの人混み。はぐれたりたら大変と思った俺は無意識化のうちに白銀さんの手を握っていた。
「ゆゆゆ、雪宮くん……!?」
「はっ……ごめん。また無意識のうちの……って白銀さん!?」
口をパクパクとさせて顔は赤く、煙が出始めている。
まずい……これはまずいぞ。
雪女……というか、亜人の存在は世界で認知されているが、なんせ数が少ない。
ので、ここで縮まれてしまったら注目の的になってしまう。
「ごめん白銀さん、とりあえずここから逃げるためだ!」
「ふぇ!?」
ひょいと白銀さんをお姫様抱っこし、このショッピングモール内を駆ける。
白銀さんから出る煙の量がなんだか増えている気がする。
「うにゃ〜〜っ!!」
ぐるぐると目が回っている白銀さんはとうとうぽんっという音を立てて子供姿になってしまった。
人気のないベンチあたりまで移動できたので、見られてはいないだろう。
「ふぅ……なんとか安地までついたか」
「雪宮くん……」
「ど、どうしましたか白銀さん……」
白銀さんをベンチに下ろすと、『ゴゴゴゴ……』という音を立てながら俺を見つめていた。
「もう! いきなりお姫様抱っことか反則! あんな人がいるところでするなんて!!」
「ご、ごめんなさい……。それしか方法が思いつかなくて……」
「バカ……バカッ!」
ポコポコと俺の胸を叩く白銀さん。
全く痛くない。むしろ可愛いからもっとやってほしい。
「む? む〜! 雪宮くん何にやけてるの!」
「え? に、にやけてなんか……ないでござんしょう?」
「語尾おかしくなってるよ!」
「まあとにかく、アイス食べて回復しようよ」
「うん、そうだね。この姿だと動きづらいし」
元に戻る方法は体を冷やすか、冷たいものを摂取すること。
雪女についてはかなり詳しい方だ。理由は割愛しておこう。
「それじゃあ――はい」
「ん? 雪宮くん何やってるの?」
俺は白銀さんに背を向けてしゃがむ。
「その状態だと歩幅が小さくなっちゃうし、こうした方が疲れないかなと思って」
「えぇ!? で、でもほら! こうやってズボンとかまくれば大丈夫だし……あと重いかもだし……」
「大丈夫、さっき抱っこした時全然重くなかったから安心して乗って? それかまたお姫様抱っこ――」
「おんぶでお願いします」
「仰せのままに」
俺の背中に乗り、ぎゅっと俺に抱きついたのを確認したら立ち上がり、アイスクリームショップへと向かった。
「もう……バカ……。でもそういうとこが好き……」
「ん? ごめん白銀さん、なんて?」
「なななっ、なんでもない! ほらキリキリ歩く!」
「雪女から女王様にジョブチェンジしたのか」
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「白銀さんどれにする?」
背中にいる白銀さんに、様々なアイスが載っているメニュー表を見せた。
「んー……。チョコミントかなぁ」
「なるほど。俺はただのチョコでいっかな」
「なんだとーっ!? 雪宮くんは反ミント派なの!?」
「いや、そういうことじゃなくて。ただチョコが好きなんだ。トリプルチョコでも俺は構わない」
「そ、そんなに好きなんだねぇ……」
アイスを買い終えたら、再び人気のない場所へと移動してアイスを食べ始める。
「ふー、生き返りゅ〜」
白銀さんはむくむくと身長が元に戻っていく。
完全復活したと同時に、白銀さんは突然何かを思いついたかのように叫んだ。
「あ、そうだ!!」
「どうしたの白銀さん。ソーダが欲しいなら買ってくるよ?」
「違う違う、いいこと思いついたの!」
「イイコト? どんな?」
「ふ、ふふふ……。それは秘密! 次わたしを校舎裏に呼び出す時楽しみにしておくがいいわーっ!」
よくわからないが、白銀さんが楽しそうなのでいいとしよう。
その後もトラブルが多々あったが、とても楽しい休日を過ごせた。
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――二十六回目。
その数とは、次で白銀さんに告白する回数だ。
この前の休日の時に楽しみにしておいてと言われたが、とうとう返事をくれるということだろうか?
「ふっふっふ……。お待たせ雪宮くん!」
白銀さんの目の前に『バ――ン!』という擬音が現実に具現化して見える。
「白銀さん、その上着は一体……」
「これはねぇ、中に保冷剤を収納するスペースがある上着なの! これで私は溶けないッ!」
「おおお!」
なんという画期的な上着だ。
俺も欲しい。
「さ、さあ雪宮くん。どんと来いっ!」
「よしわかった。――出会った時からずっと好きだった。一目惚れだったかもしれないけど日を重ねて行くうちにもっと好きになった。もう白銀さんのことしか考えられない……。だから、よければ俺と付き合ってくださいっ」
腰を直角九十度で右手差し出しのいつものスタイル。
チラッと白銀さんを見ると、顔は真っ赤になっていたが煙は出ていない。
「あ……あぅ……わわ、私でよければ是非お願いしましゅ!! …………噛んじゃった……」
――これは、夢じゃないよな?
正直NOと言われてもそれはそれで潔く諦めるつもりだったが……え、夢じゃないよね?(二回目)
「夢じゃない……?」
「夢じゃないよ! だ、だからその……よろしくね? 琥珀くん」
意識した瞬間、俺も一気に顔が紅潮した。
「というか、今の私は無敵っ! 今まで言えなかった分とことん今言わせてもらうね!」
「え、な、何を――」
「だいたい琥珀くんは優しすぎる! 私に何かあったらすぐ駆けつけてくれるし、めちゃくちゃもてなしてくれるし! もちろん嬉しいけど……。あと他にも――」
それからというもの、俺への怒涛のベタ褒めラッシュだった。
や、やばい……。顔が、いや、全身が熱い……!
めちゃくちゃ恥ずかしいけどすごい嬉しい。
あ……もしかして白銀さんが解ける理由は照れまくった結果なのか――?
俺がそう思いついた途端、目の前が煙に包まれた。
「こ、琥珀くん!?!?」
「あ、あー……」
目の前には巨大化した白銀さんが立っている。
「こ、こ……琥珀くんも雪女の末裔だったの――っ!?!?」
「やっぱりおれ溶けた?」
プルプルと震えながら胸ポケットから鏡を取り出す白銀さん。
それで自分の姿を見ると、大きな琥珀色の瞳とモチモチの肌。どうやら溶けてしまったらしい。
「おれの祖母と祖父がが雪女で、父さんが雪女の血をそのまま受け継いでるんだ。でも母さんは普通の人なんだ」
「え、えぇ……。初耳……」
「あれ? 言ってなかったけ?」
「言ってないよ!!」
「なんてこった」
溶けたとしてもおれの思いは変わらない。
「こんな子供の姿の時でもいつもの時でも、おれは絶対に白銀さん……いや、真雪。おれが絶対に幸せにするから」
「はぇっ!? あっ、保冷剤が全部溶け――」
真雪は一気に顔が紅潮し、おれと同様に煙に包まれたと思ったら子供の姿になってしまった。
「もう! わたしまで小さくなっちゃったよ!!」
「ごめん。……というかこのじょーきょーまずいんじゃないのか?」
「え? あ……」
二人とも子供になってしまった。
今までは俺が子守的なことをしていたけれど、どちらも子供姿になったらどうするんだ――ッ!
――こうして雪女の血を引く者同士でカップルになった俺たち。
照れ合って両方子供になるということもあるけれど、幸せな日常を過ごして行くのであった。
完
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