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回帰列伝  作者: 鹿十
第一章 異能学園編
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5 異能都市マギコ

 ある街に訪れ、馬車を変えてからまた再び学園へと向かう。第二の襲撃に備えていたが、あれから誰も襲ってくることはなかった。


 バロッドは馬車内でくつろいでいるように見えたが、突然起き上がってはあたりを見回したり、少しの雑音にやたらと反応しているなど、内心かなりの注意を払っている様子が見てとれた。

 

 山道を進んでいくと、突然開けた場所に出る。開けた先には大きな都市があった。貧民街とは比べ物にならないほどの壮大な都市である。


 教会に病院、広場に酒場まであり、オレンジ色の切妻屋根と木枠の壁が目立つ。そのどれもが整列されていて見ていて気分がいい。街の人々も垢ぬけているように見える。


「すっげえ、これが都会ってやつか……」


 思わず声に出してしまう。それほどまでに目新しい風景が広がっていた。リリーも興味津々な様子で街を眺めている。


「ここが異能都市マギコだよ、住民の約7割が能力者なんだ。そしてこの都市の中核を担っているのが異能学園だよ。我が国最大の学園だからね。全国から能力に自信を持ってる奴がここの学園に入学したがるのさ」


「へェ~そんな凄いとこなの、ここ。ダイジョブ? 俺入学できる? 」


「大丈夫だよ。何故だか知らないけどここ数年、学園の上層部の人々はヤッケになって炎系統の能力者を集めたがっているんだ。だから運がよかったね、クロガミ」


「俺はいいけどよお、リリーは? 平気なの?」


「……大丈夫だろう。彼女は……特別だろうし」


「あ? どうゆうことだ?」


 バロッドが発した特別という言葉に違和感を感じた。リリーに関しての情報は誰も知らないはずだ。なぜ大丈夫だと断言できる?


「……それよりも、僕の能力について知りたくないかい?」


「はあ、興味ないな。もう見ちまったしな。あれだろ? あの止めてたやつだろ?」


「ええ、前まであんなに興味津々だったのに?! 軍人の能力なんて知る機会普通ないぞ? 勉強にもなるしいいんじゃないか?」


 バロッドは俺の肩をつかみ顔を近づけてくる。しつこいし、暑苦しい。


「お前の性感帯でも教えてくれる方が、まだ興味あるね。だいたい、お前の能力知って何の意味があるってんだよ」


「本当に君は口が悪いな……。いやいや、聞けば能力ってこんな感じなんだと理解できるはずだ。君はこれから様々な能力と対峙することになるだろうね、高度な能力ほど複雑な条件設定や、発動規則があるからね。それらのことも知っておかなくちゃならない」


 発動規則か……。俺の能力も何らかの条件があるようなので、確かに知っていても損はないかもしれない。


「あーじゃ、教えろよ。簡潔にな、30文字以上は理解できねーぜ俺は」


「嘘つけ。ま、まあいい、俺の能力は『強制終点』って言うんだ。相手を最大で40秒間拘束できるっていう品物でな。まあ、拘束系統の能力は結構重宝されるからな。軍部でもなかなか丁重に扱われてるんだわ」


「ほん、なかなか強っそお~な能力じゃねえかよ。怖い怖い」


「でも、欠点もある。まず拘束時は俺も同様に動けなくなること、つまり能力を発動したとしても俺一人だと何にもできないから意味ないってわけ。あと一つは、拘束時間に関する条件なんだが……」


 バロッドは急に照れだす。今までの自信満々な態度が消え失せた。


「お? どうしたんだよ」


「いやあ、恥ずかしいことに、この拘束時間っつうのは、相手と対峙してから40秒間って意味でな……。つまりだ、この能力は初対面の奴にしか使えねーんだわ。目でその人を初めて目視してから40秒のカウントが始まる。決して40秒間いつでも拘束できますっていうお手軽な能力じゃねーんだ」


「はあ、ていうことは。お前、その能力、初めて見た奴にしか使えねーってことかよ。しかも初対面の40秒間だけ、ッぷ。だからお前、あんなに急いで能力発動しようとしてたのか、傑作だなこりゃ。とんだ粗悪品じゃねえかお前の能力」


 言われたくないことを言われたかのようにバロッドは急に不貞腐れる。


「な、何を。君だって自分の能力を発動できてなかったじゃないか。そ、それに言ったろ?高度な能力ほど条件が複雑なんだ。いつでもぽいぽい使える能力は弱っちくて大したことないんですわ。その点、僕の能力は条件がたくさんあるからね。そ、それだけ優秀ってことさ」


「キヒヒっ腹痛えなあ。あれほどたいそうな雰囲気出しておいてよおー」


「く、チンピラがっ。君のことを思って言ってあげたのに……」


 笑い転げる俺を見て怒りを隠しきれていないバロッド。大きな体と豊満な腹が怒りで小刻みに揺れている。


「何よりも、これから君も能力の中心地である異能学園に通うことになるんだ。これくらいのことは知っていなくちゃならないね」


「へいへい、俺天才だからよおーそれくらい朝飯前だぜ」


「……わかっちゃいないな、こいつは」


 失望するかのような目線をバロッドはこちらに向ける。


「あのお、すいません。目的地に着きましたよ」


 御者の人が声をかけてくる。どうやら到着したらしい、目の前には大きな門と、左横には通行の管理所が見える。管理人に声をかけ、何やら話し込んでいるバロッド。リリーは相変わらずドキドキしながら外を眺めている。


「リリー良かったな。これでいっぱい好きなことが出来るぞ」


 そう言いながら窓の外を見るリリーの頭をなでる。


「うん、そうだね! にいに」


「この門から向こう側は学園内だから。僕はもうここまでだな」


 管理人との話を切り上げるバロッド。何やら真剣な面持ちだ。


「この手紙を学園長に渡してくれ。入学のための認定書や推薦書が入っている封筒だ」


 バロッドが渡してきた封筒からは何やら重厚そうな雰囲気を感じた。


「おっけ」


 締まりのない返事を返す。こうゆう手続きは苦手だ。


「じゃあ、そうゆうことで。4年間はこの学園に通うことになるだろうから、あまり羽目を外しすぎないように……それと君は言葉使いと態度を直した方がいい。この学園は貴族やエリートが多いからね。奴らは礼儀や作法にうるさいからな」


「はいはい」


 丸みを帯びて優しそうな雰囲気をしているバロッドが真剣な表情を向けてくる。いや、心配しているらしい、俺らのことを。


「それとリリーちゃんもお兄さんが羽目を外しすぎないように見守ることと、安易に怪しい人物にはついていってはいけないぞ」


「はい、分かったよ」


 バロッドの心配の眼差しがだんだんと同情に変わっていく。俺らに対する同情だ。


「おい、バロッド。そんな心配しなくてもいーぜ。俺らはあのきたねえ貧民街で暮らしてきたんだ。そこらの奴にやられるほどヤワじゃない。しかもお前が心配する理由もないな、俺らの親じゃねえんだからな……お前は」


 バロッドは下を向きうつむく。少し考えて素振りを見せた後こう語った。


「……いや、何でだろうな。ただのよくいる貧民街の子供をなぜここまでかまってしまうのだろうかね……きっと似てるんだ君は。小さい頃の僕に……」


「似てる? 俺とお前が?」


「ああ……僕も貧民街出身だからね。君とは別のところだけどさ」


「ふーん、心配ないぜ。生ごみだろうが、虫の死骸だろうが、なんだって食えるぜ。俺は」


「リリーも。でも生ごみは勘弁」


 バロッドは笑う。脂肪が引っ付いた頬を重そうに大きく上げて。


「……そうだな。君たちなら大丈夫そうだ」


 バロッドに手を振り、リリーとともに馬車を下り、開いた門へと歩いていく。リリーは荷物が多すぎて重そうだ、よろめいて倒れそうだから、荷物を持ってやる。


「……おい、やっぱり言っとくよ」


 突然バロッドが馬車を下りて俺たちに向かって大声で叫ぶ。何やら決断を決めたかのような表情をしている。


「黒い髪、炎の能力、道中の襲撃、軍からの推薦書に排除依頼。どう考えても異常だ。詳しいことは言えないけど……君は確実に厄介ごとに巻き込まれると思う。それに……『悲劇的終焉』も近い…」


「あ?」


「くれぐれも気を付けてくれ。君は因果の中心にいる。それも厄介な結果を絡めとる因果だ」


「おう、バロッド、お前も体脂肪率には気をつけろよ。戦場で死なず、脂肪にやられたら軍人の顔が立たないぜ」


 バロッドを置いて先に進む。大きい門を超え、あり得ないほどに大きい庭を進んでいく。調停会、注射、舞踏武道、キリーさんに酒場のおっさん。これから起こるであろう悲劇、それと出会い、希望に胸を躍らせながら、先を進んでいった。


 


 


 


 


 



 


 


 


 


 


 


 


 

 


 

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