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回帰列伝  作者: 鹿十
第一章 異能学園編
27/94

25 異能合宿⑫ B寮 第一回戦略会議

一瞬26話と27話を間違えて投稿してしまいました。すいません

 気が付くと、ふかふかとした感触を全身で感じた、俺はベットの上にいる。視界には見慣れた顔ぶれが揃っている。データと、ホワイトにマスタード、リリーとそしてエマ。

 

 俺は起きてばかりで頭が朦朧としており、何も状況が理解できぬまま「え?」という覇気の抜けた声を発しながら起き上がると、その様子を見た彼らは、表情をぐちゃぐちゃにして俺に飛びついてきた。


 皆のその表情は、怒りによるものなのか、喜びによるものなのか、安心感によるものなのかは定かではなかった。おそらく様々な感情が混沌と混ざり合った挙句に生み出された表情なのだろう。


 俺は飛びついてくる彼らを一身で受け、ただ顔を赤くして照れることしかできなかった。俺の体は5人の人間が抱き着くには少し小さすぎた。どのような感情が込められているかは分からないが、彼らはめいめい大きな声を出して赤子のように叫んでいる。


 その彼らの様子に困惑しているうちに、俺はなぜここにいるのかを思い出した。そうだ、俺は響夜と言う襲撃者に腹部を傷つけられ、大量出血し、倒れこんで気を失っていたのだ。その証拠に俺の脇の下部の横腹がジンジンと痛んでいる。


 「クロガミィッおばえぼう死んじまったがどおもっだぜェ」


 データは泣き叫びながら発言するので、何を言っているのか聞き取りずらい。


 「お、お前、鼻水を俺の服で拭くなッ」


 データは俺の腕に顔を擦り付けて男泣きをしているので、彼の鼻から滴った滑りのある液体が俺の服にべったりとくっつく。汚え。


 「ホントだぜ、よく生きてたなァ、今度こそ葬式もんだと覚悟してたよッ」


 こう言ったのはマスタードだ。彼に至っては、俺に抱き着くとか、泣きつくとかそうゆう次元を通り越しており、もはや四肢すべてを用いて、蛙が壁に張り付くように俺の背中に張り付いていた。足を俺の腹部に絡め、俺のうなじあたりで大泣きしている。


 「お、重い……しかも痛ェんだよッ、俺ァ横腹に怪我してんだッ……」


 体を揺さぶり、俺の体に張り付いたマスタードを追っ払おうとするが、どんなに揺らしても彼が離れることはなかった。


 データは唯一俺に飛びつかず、少し距離をおいて、立ち上がりながら嬉しそうに頷いていた。クリーム色の髪の毛がその振動で優しく揺れている。


 「……ホント……馬鹿……」


 子を注意するような優しさと、呆れがこもった言葉を吐き出しながら、俺の太ももに顔を伏してこうつぶやくのはエマである。エマが伏す真下にある俺の太ももは、彼女の涙が服に浸透していき、じんわりと湿っているのを感じる。


 「……エマ……ごめん」


 俺は思わず彼女に謝ってしまう、それはこれだけの怪我をして心配させたことと、もう一つ、今朝の髪の件についても含まれている謝罪でもあるのだと思う。


 マスタードが俺の背中の領域を占めているとしたら、前面の領域を占めているのはリリーであろう、マスタードが俺に絡みつけた足を上手くよけながら、俺の胸元あたりに抱き着いて泣いている、しかしリリーの涙は少し落ち着いている気がした、おそらく彼女だけは生きていると心から信じていたのだろう。


 俺はそんな彼らの姿を見つめ、馬鹿だなと笑いながらも、安心感と感謝の気持ちで覆われていた。気持ちが落ち着く、あるべき居場所に帰ってこれた、そんな気がするのだ。


 しかし、そんな高揚感に身を包まれていたのも束の間、俺は安心感で緩まった顔を引き締めなおし、身体を動かす。彼らはそんな俺の姿に驚き、俺から離れていく、というか俺が彼らを離していく。


 「ど、どこにくんだよッ」


 とデータは俺に向かって叫ぶ、その叫びにはもう危険な所へ行って欲しくないという希望の気持ちが含まれていた。


 「にいに、またあそこへ戻るの?」


 「……響一が……危ない……」


 リリーはつぶらな瞳をしながら、首を傾げて質問をしてきたが、俺はぶっきらぼうに答えた。


 「響一って、一条家の? ……リリーちゃんから、詳しい話は聞いたよ。クロガミ、君は響一君とともに、襲撃者と戦っていたらしいね」


 立ち上がっているデータが俺と出入り口の扉の間に入り込み、俺の行く手を阻みながら言う。


 「……ああ、そうだ」


 「それで、君とリリーちゃんは彼に逃がされてきたというわけだ」


 「……ああ…………そうだよ」


 俺はデータが発した、響一に逃がされた という発言に少し憤りを感じた。誰に対して? おそらく、因縁の相手に救ってもらったという情けない真実を受け入れられない自分自身に対して。


 「リリーちゃんの断片的な話を聞いている限り、その襲撃者の能力はおそらく第三領域だ、しかもかなりやり手だね」


 「……だからなんだよ」


 「分からないのかい? 何のために響一君が自身の身を犠牲にしても君とリリーちゃんを守ろうとしたかが?」


 「……」


 「君たちが彼にとって足手まといでしかなかったからだよ」


 「ッツ」


 俺は思わず、データの胸ぐらをつかんで叱責してやりたくなった。しかしすんでのところで理性を保ち、右手を抑える。


 「……とりあえずどけよ」


 そう言って俺は、データの肩を乱暴に押す。顔を俯け、なるべくデータに俺の情けない表情を見せないようにしながら。


 データはその衝撃で一瞬よろめくが、その後すぐに姿勢を正し、同じように俺の前に立ちはだかった。


 「……行っても無駄だと言っているんだ。ここで寝ていた方が、君のためでも、彼のためでもある」


 「……無駄か、どうかとか、関係ねェんだよッ。殴られたら殴り返す、盗られたら盗り返す、馬鹿にされたら馬鹿にし返す、そうやって俺は生きてきた……そう生きなきゃ、ただ奪われて死んでいくだけだから……あいつは、響一は俺を助け、響夜は俺とリリーに傷をつけ、挙句の果てには、人を殺した。だから、響一を救い返して、響夜を殺さねェといけないんだ。分かったらどけよ……」


 「どけないね、死人が一人増えるだけだ」


 俺は遂に怒りに耐えかねて、データの胸ぐらをつかみ、今にも殴ろうとした。後ろから傍観していたエマの俺を呼ぶ声が聞こえ、思わず殴ろうと出しだ拳を止める。


 「じゃあ……どうすりゃいいんだよ……俺に……ただ祈ってろともいうつもりかよ……」


 俺はデータの胸ぐらを両手でつかみながら、俯き、彼の胸当たりですすり泣いた。涙は出てこないが、目を閉じ、うめき声をあげる。


 「……頼ればいいじゃないか、単純な話さ」


 するとデータは驚くほど爽やかな声でこう言った。場に似合っていない清々しい静音が空間を支配する。


 「ここには、クロガミ、君の仲間がたくさんいる。俺らに詳しいことを教えてくれれば、対策案くらいは立てられるはずだろう?」


 データは背を屈め、俯いた俺の顔を持ち上げ、俺の顔を見つめながらこう言った。


 「……襲撃者の能力について知っていること全て話してくれ、君が一人で突っ走って突入するよりよっぽど、マシな解決案だろう?」


 俺はほっとした。こんなに追い詰められても、それでも冷静に、別の視点で考え、俺を諭してくれる友を持っていたことに気づいたから。俺が顔を上げてデータを見つめると、彼は持ち前の人当たりの良さを余すことなく主張するかのような微笑みを向ける。


 「さあ、早速行おうか! えーっと名前は……どうしようかな。まあ、シンプルに、B寮 第一回戦略会議 では……開始ッ!」


 データは熱量を込めて叫び、その場にいる皆がそれを聞いてほほ笑みながら頷く。


 今の俺は、とってもこんな気分ではないのだが、本当は今にも便所に籠って一人で泣きだしたいほど辛いのだが、それでも、これを言うのは俺の役割だろうし、俺がこれを言わなきゃ何もしまらない。だから言おう、大きな声を出して――


 「データ、お前はB寮生じゃないけどな」







 「……なるほど、難解な能力だな」


 「ああ、俺も自分が理解した通りに語ったが、若干間違っているかもしれん」


 俺は知っている限りの襲撃者、すなわち響夜の能力についての情報を洗いざらい話した。皆、木材でできた床に座り、円を描くように集まって俺の話を聞いていた。大方話し終わった後、データはなるほどと呟く。


 「ある条件下において、起こった出来事すべてを無かったことにする能力か……聞いたところ、かなりの発動条件があるみたいだな」


 データは胡坐をかき、腕を組みながら話す。


 「ちょ、ちょっと良く意味が分からないんだけど、どうすれば勝てるのよ……そいつに」


 エマは目の下を赤くしながら問う。涙を流した跡であろう、声も少し鼻声になっている。


 「行動に到達する前に殺すか、その場に第三者を介入させて、能力を解除させるかだな。だけど後者は、響夜がいちいち能力を発動する事に人を投入しないといけないから、足止めにしかならないけれど。あ、響夜っつうのは襲撃者のことな」


 するとエマはいきなり両手の拳を上に向け強く握りプルプルと振動しながら言う。


 「それより! 信じられないわ、私たちの私物を盗んでいたのがその襲撃者だったなんて! 化粧品を早く返してほしいのだけど!」


 「ンなもん新しい奴を買えばいいだろォ?」


 エマの怒りのこもった発言に対して冷静にホワイトが横やりを入れた。エマはホワイトににらみを利かせる。


 「あれ、高かったのよ!」


 「まあ、盗みの件は置いておいて、それより早くしないと、クロガミが倒れてからもう30分は立とうとしている。時間がたてばたつほど、響一君の生存確率が下がってしまう。クロガミの話からすると、襲撃者の能力は強力だが、かなり「結果」という限定的な事柄に左右されるみたいだな。彼の能力はいわばゼロか百だ。発動さえすれば、ほぼ無敵、神のごとき力を得るが、発動しなかったらもう終わり、博打のような能力だな」


 博打のような能力、データの表現は的を得ている。博打が運というたった一つの事柄で勝負が決まるように、『軌跡欠陥』の能力も結果というたった一つの絶対的な条件により、すべてが決定してしまう。


 「その不安定さが、響夜の弱点なんだよな」


 俺はデータの発言に同調する、すると横に座るマスタードが口を開き始める。


 「奴の能力の発動条件の一つである 行動の結果は能力に関わる全ての人が認知できるものじゃなければいけない という条件は、少し分かりずらいな。認知っていうのは、その行動を 見る という意味なのか?」


 「いや、見る必要はおそらくない。きっと、その行動の結果に気が付けばいいだけなんだ。だって、僕らが寮で窃盗をされたときも、その「窃盗をする」という行動の結果を実際に見ていた者は誰もいなかったろう? 僕らは窃盗されたという行動が起こったことに気が付いただけだ。であるのに、奴は能力を酷使できていた」


 そうなのだ。データの言う通り、結果を俺らが見る必要はない、俺らが結果によって生じた異変を感じ取ればよいだけなのだ。その時初めて 認知できた という扱いになるのであろう。


 「彼の能力発動の手順はおそらくこういうものだろう。


①結果を指定(ただしこの時指定した結果は誰でも認知できるものでなければならない)

②透明化の力を発動して姿だけを消す(この時、姿が消えているだけで、攻撃も当たる)

③指定した結果に到達

④指定したときから結果に到達するまでに起こった出来事(自分に関するもののみ)を全て無かったことにする(軌跡を欠陥させている)


さすが第三領域能力、複雑で強力だね。ここまで詳細に第三領域能力について聞いたのは初めてだよ」


 

 データが指を折り、数を数えながら順に説明していく、何やら彼の顔は嬉しそうだ。うすうす思っていたことだが、こいつはおそらく能力オタクなのだろう。前、俺の炎の力を聞くときも目を輝かせていたからな。


 「で、俺らが出来ることは②と③の手順の時に彼を邪魔して④に到達させないことだ。方法は何回も言う通り二つ、一つは行動を認知する人を④に行くまでに増やすこと。二つ目は、そもそも④に到達させる前に襲撃者を殺すこと。おそらく、後者の方法しか、彼を殺す方法はない」


 「殺す?……ねえ、その襲撃者殺しちゃうの?」


 データの解説の続きを聞きながら、エマは殺すという言葉に引っかかったのか疑問を振る。


 「……そうせざるを得ない場合は……そうするしかねェ」


 俺は静かにこう言った。俺の発言を聞き、恐れるように体を縮めるエマ。すると、俺らが話をしている部屋の扉をノックする音がする。規則正しい感覚で鳴り響くノック音は聞いていて気持ちがいいとすら感じる。


 「誰ですか?」


 データが声を掛けると、ドアが開く。するとそこには毛むくじゃらの男がいた、肝試し中にわかばと一緒に見た大男の姿がそこにはあった。暗闇で見るよりもよっぽど獣っぽい。体中に人間の範疇を超えた量の毛が生い茂っている。完全に二足歩行を始めた狼にしか見えない、それかかなりやせ細った熊。


 「きゃあ」


 「わッーーー」


 エマがまるで女の子がするような可愛らしい悲鳴を上げた。いや、この表現は不適切か、彼女も女性なのだから、獣男の姿というより、エマの悲鳴に驚いて、俺も情けない声を出してしまった。


 「ああ、驚かせてすいませんね。クロガミ君にこの包帯を届けるように言われまして」


 狼男はその見た目からは想像できない紳士的なトーンと言葉使いで話す。よく見ると片手には包帯らしき白い帯のようなものが見える。


 「ああ、びっくりしたー、リリー狼男なんて初めて見たよ」


 「……リリー、あれは正真正銘のホモサピエンスだぜ。地球上で一番恐ろしい種、つまり俺たちと同種だ」


 リリーは俺の指摘を浴びた後、再び獣男に目をやり恥ずかしそうに頭を下げた。


 「おいおい、皆引かないで上げてくれェーこいつ、根はめっちゃいい奴だからよオー」


 ホワイトは嬉しそうに立ち上がり、獣男と肩を組んだ。かなり親しそうな間柄だ。


 「……やっぱホワイトさん、嘘じゃなァいですか……この姿になってからもう女子に悲鳴をあげられてばかりっすよお。何がイケてるんですか、この姿の!!」


 「ええ、俺ァイケてると思うぜ? ほらこの腹なんて、まさに獣のそれと同じだぜェ? まるで人間に見えねえよッ!!」


 そう言って、大型犬をさするように、獣男の腹をさするホワイト。獣男は、その感触をくすぐったがり、甘く少しいやらしい声を出す。キツイな、男同士はキツイ。これがエマとりりーだったら、少しは見物なのだが……というか少し見てみたい、いやかなり。


 「いやあ、凄いな……本当に、初めて見る人には人間とは認知されないんじゃないのか?」


 データが彼の姿を見ながら、感心するかのように呟く。


 人間とは認知されない?…………はっ!!!!!


 頭の中を雷鳴が響くように、痛快な考えが貫いた。分かった、奴を倒す方法。これは使える。


 俺はニコニコしながらデータに近づき、耳元でこうつぶやく。


 「なあ、俺はさ、さっきお前が言ったような対処法を考えてはいたんだよ」


 「え? ああそうなんだ」


 データはいきなりの耳打ちに少し驚いた様子で相槌を打った。


 「だけどさ、その対処法に対する対処法っつたら分かりずらい言い方なんだが、それを響夜が考えてねえはずがないと思ってんだよ」


 「まあ、そうだろうね。だから結論として、僕らは 結果に到達させる前に彼を殺す という手段を取らざるを得ないといったんだ」


 なるほど、こいつも俺と同じように考えていたのか。だけど、この方法を使えば、彼の能力を解除させることが出来るだろう。単純で簡単な方法だが、実践ではおそらく強固に働く。


 「データ……第一回戦略会議とか言ったな、これ」


 「ん? ああ、そうだよ。ぶっつけでつけた名前だけど、中々イカしてるだろう?」


 「イカしてるかどうかはともかく。役に立ったぜ、二回目も行おうな、これ。」


 俺はこうつぶやき、データを見つめる。データはずれた眼鏡の位置を元に戻しながら、困惑するだけであった。





 


 

 

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