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回帰列伝  作者: 鹿十
第一章 異能学園編
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23 異能合宿⑩ 能力の正体

予定通り、『軌跡欠陥』という能力を解説するための番外編を設けました。

分かりづらい、意味分からんナニコレと思った方はそちらをがご参照ください

 「きょ……協力って……」


 「そのままの意味だッ、早くしろッ追撃が来るぞッ」


 響一は口を動かし、詠唱をする。すると大地が揺らめき、草木、根っこが盛り上がり、露出し、地面の下から、無数の石たちが飛び出した、数にして数千個のそれらは地面から2メートルほどの高さで静止している。


 「げに殺しちゃるぜ兄さん、いやてめェはもはや兄じゃとも思わん! 一条家に敵対する謀反者だッ!!」


 響一から9メートルほど離れたところで響夜は姿をくらます。

すると、響一は俺らの方を向き、こう言った。


 「奴の能力は、『軌跡欠陥』。予め、ある行為の結果を指定し、その結果へと到達した瞬間に、奴が辿った軌跡全てが無に帰す、という力だッ」


 「……あ、ああ」


 「しかし、色々な条件がある。まず、響夜の指定できる結果は、その場にいる全員が認知できるものでないといけないことだッ!!」


 「……あ?、ど、どうゆうことだよッ」


 「つまりだ、指定した結果となる行為が、誰の目から見ても分かるもんじゃないといけねェ。

例えば、指定する行動を 息を吸う とかには出来ねえんだ。息を吸ったかどうかなんて、見てわかるもんじゃなェからなッ。だから、道中や辿った軌跡、その時起きた出来事すべては文字通り、 無くなる んだが、行為の結果だけは、全員が認識できるもんじゃないといけないッ」


 大体わかった。やはり俺の推測は間違ってなかった。指定した行動が実際に達成できたときに、途中経路で起こった出来事すべてを無かったことにするという能力か、恐ろしい力である。


 「随分とおしゃべりじゃのぉ」


 響夜の姿が現れるとともに響一の腹部に衝撃が走る、が響一はそれが分かっていたかのように手で腹部をガードしていたので、ダメージは少ない。


 響一はすぐさま詠唱をすると、それに気づいた響夜は、後方へと急いで後ずさっていく。


 「だ、大丈夫かッ」


 思わず響一に声を掛ける。が、響一は険しい顔をしながら会話を続ける。


 「……っき、痛えな糞が……『軌跡欠陥』の能力の効果は大きく分けて二つある。

①姿を消す力 この力は、条件なく常時発動できる。俺らはこの力が発動されている間、彼のことは認識できなくなる、しかし、姿を消すだけの力であるので、実際に攻撃は奴に与えることが出来る。


②経路を吹っ飛ばす力 この能力には発動条件があり、それはさっき話した通り、行動を指定して、その行動を実際に行うことが出来た時、初めて、その行動で経た経路、出来事、軌跡全て諸々を無かったことに出来るというものだ。そして、指定できる行動は、その場にいる誰の目にも明らかなものじゃないといけない……」


 「……ああ、何となく理解できた……対策はあるのか?」


 「……対策は二つ、一つはなるべく大勢の前で戦うこと。人が増えれば増えるほど、奴の指定できる行動は減っていく、誰でも認知できる結果しか、奴は指定できないからな。二つ目は、単純な話だ、奴は指定した行動の結果に到達できなければ ②経路を吹っ飛ばす力 を発動できない、言ってしまえば、結果に到達できなければ、ただ姿が消えるだけの能力なんだ」


 「……おう」


 「だから、奴を行動の結果に到達させなければいい。例えば、奴が結果を 俺を殴ること に指定したのならば、殴られる前に奴を攻撃して、殺しちまえばいい。殴るという行動を起こす前は、彼の能力は単純に姿を消すだけの力なんだからな、攻撃は当たるはずだ」


 「……あ、ああ、わ、分かったよ」


 どうゆうことだよ、さっぱりわからなくなった。一応頷きはしたが、理解できたのは半分くらいだ。響一の話によると、響夜の能力の中心である 途中経過をすべて無かったことに出来る という力は、指定した行為を終えて初めて発動できる能力であるらしい。


 だから、響一は攻撃を響夜に当てることが出来たのだ。響夜があの時、結果を、「響一を殴ること」に指定したと仮定すると、殴る前は、ただ姿が消えているだけであるので、響一の弾幕は実際に響夜に当たっている。

 

 そして弾幕に当たったことによって負傷し、「響一を殴る」という結果に到達できなかったので、②経路を吹っ飛ばす力 が発動できなかった、ゆえに、弾幕に当たって負傷をした という経路における出来事を無かったことに出来ずに、能力が解除され、負傷を負ったままになったということか。


 「俺は、さっき奴に負傷を負わせた、二つ目の対策の通りに実践してな……だが、勘違いしていた。奴が指定した行動を見誤っていたんだ。奴は「負傷を負うこと」を結果に指定していた。

だから、奴が実際に負傷を負い、それを俺が確認した瞬間 ②経路を吹っ飛ばす力 が発動してしまい、奴が怪我を負ったという経路における出来事が存在しないことになってしまった」


 「な……じゃあ、あいつが「負傷を負うこと」を結果に指定し続けたら、勝てるわけねえじゃねえかよッ!!!」


 響一はゆっくりと頷く。響夜は俺たちの会話を待たず姿を消し始めた。


 「方法は……ある。しかし、後でだ、奴は今 ①姿を消す力 を発動したッ。どんな行動を指定したのかは定かではないが、今のうちにダメージを与えてしまえば、こっちのもんだッ」


 そう言って響一は詠唱をすると、石の弾丸は不規則な動きを始める。先ほど、発動した技と同じだ。


 「……っがあああいってえええええ」


 右腕に4発、肩と胸に3発の風穴を開け、血を吹き出している響夜の姿が現れた。痛みで悶絶し、絶叫している。


 しかし、その絶叫を聞き、その場にいる響一と俺と、リリーが目をやると、彼の傷がいつの間にかふさがっていた。


 「……クソッ、今、奴は同じように「負傷を負うこと」を結果に指定していた。実際に負傷を負い、指定した結果に到達し、俺らがその結果を認知したから、②経路を吹っ飛ばす力 が発動したんだ」


 響夜は恐れた顔をしながら、息を切らしている。しかし、わざとらしく平常心を保って見せながら、偉そうにこう言う。


 「能力が全部ばれちまったようじゃのぉ、まあ、ばれたとしてもわれに理解できるたぁ思わんけどのぉ、結局、先に死ぬるなぁお前らだ」


 響夜は鋭い眼光をこちらに向けて威圧感を与えてくる。夜の闇と彼の姿が相まって、恐ろしい。そんな威圧をものともせず、響一はこう言った。


 「……結局だ、奴を倒す方法は一つだけ、奴が姿をくらましている間に即死させることッ、これ以外の方法はねェ!!!」


 俺はこの言葉を聞き、やっと肩の荷が下りた様に考えを貼り目振らせることをやめた。


 「……ンだよ、早くそれを言えってんだ。指定やら、経路やら、結果やら、小難しい言い方するこたーねェよ!」


 俺は、響一の言葉を聞いて立ち上がり、腕を回して響一に近づく。


 「……俺の炎ォぶつけちまえば、あいつは即死するに違いねェよ……だろ?」


 響一は俺の話を聞くと初めて少しほほ笑む横顔が見せた、そして、自分の顔の焼け跡を指で指し示してこう言った。


 「……全くだぜ、この顔面の傷を俺につけたのはテメエなんだぞ?」


 俺も響一の言葉を聞き、微笑み返し言う。


 「ああ、もっとでっけえ傷跡を、お前の弟につけてやるッ!!」


 「共闘か……『業火』に『弾幕遊戯』。二人相手は少し、厄介じゃのぉ」


 響夜若干の焦りがこもった声を高らかとつぶやく。駒はそろった、盤上には俺と、そして憎き響一の姿、相手は、不可解な能力を持った青年、響夜。かつてないほど強敵であり、俺が出会った中で比べるまでもなく、一番強い人物であろう。彼の言動の全てから、その圧倒的な強さに見合うだけの自信が伺える。


 しかし、何故だろうか、不思議と負けるビジョンは浮かばない。通常ならば、響夜と対峙した時点で、俺の脳細胞は危険を察知し、逃げろという単純な指令を出すのみに徹するだろう。俺の足りない頭ですら、一瞬で判断する、逃げなければ死ぬぞと。


 だが、俺の後ろには守るべき存在がいて、何よりも俺の横には因縁の響一の姿がある。憎くてたまらなく、傲慢で、冷徹で、それでいて高貴な彼は、最悪な存在であることに変わりはなかったが、……実力は確かである。


 これから一生見たくないと思っていた彼の横顔を見て、怒りが湧くとともに、ある種の安心感で心が満たされていくのを感じた、こいつがいれば、何でもできるという万能感に支配されてしまう。だから不思議と、負ける気はしなかった。


 来いよ、響夜。その小綺麗な面、面影が無くなるまでグチャグチャにしてやるぜ。

響一、まさかこいつからこれ程の勇気をもらうことになるとは、思いもしなかったのである。




 





 


 


 



 


 


 


 

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