表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
回帰列伝  作者: 鹿十
第一章 異能学園編
24/94

22 異能合宿⑨ 力無き者の特権、それは祈り

 響夜は、響一が放った弾幕から逃げる。竜巻のように一点を中心に回転する石の弾幕は、響夜が逃れた先まで追尾して追いかける。響一はまるで指揮者のように右手を動かし、その弾幕を指揮している。


 「チッ……」


 響夜はコテージ外でも自身を追ってくる弾幕に嫌気がさしたのか、舌打ちをした後、再び能力を発動し、姿を消した。石の弾幕は響夜を見失い、空中で静止する。打つ手なしかと思われたが、響一は消えた響夜の姿を見て、また詠唱を始めた。


 〔鎮魂と初夜、聖と穢、暁に生を持って償い、警句には帰路を確保して進む。屍に値する罪人に静寂な軋轢と、それを揶揄する導きを譲渡奉らん。臓物は――渾沌――〕


 うねり収束し、回転していた石たちは、詠唱とともに今度は不規則に広がっていき、それぞれ思い思いに乱雑に運動を始めた。石の多くは無秩序な軌道上を動くので猛スピードでぶつかり合い、熱い鉄を打つかのような高音が響き、火花が散る。


 「……響一……」


 俺はつい呟く。彼のイメージとはかけ離れた行動をしているのを目前にして、俺の思考回路はぐちゃぐちゃにかき回される。

 

 すると響夜は何かにおびえるような顔をしながら、森の木に片腕をつき、息を切らした姿で、現れた。


 「……ハア、ハア……響一兄さん、われ能力が使えたのか?」


 かなり苦しそうな顔をしているが、響夜は何も外傷を負っておらず無傷である。


 「……ああ」


 響一は肯定すると、響夜の元に向かった。


 「なして邪魔をする? 殺されたいのか? 兄さんはただ黙って傍観しとりゃ良かったじゃろうに」


 「……」


 響一は響夜のまっとうな質問に答えず。無言で彼の元へと近づいていく。響一の周りには、石の弾幕が静止している。


 「いくらお前と言えど、先ほどの無秩序弾幕は効いたようだな」


 「わしがわれに質問しとるんだ!! 答えろッ!!」


 響夜は再び姿を消す、響一は右手の人差し指を上下に振ると、響一の周りに配置されていた石の弾幕が一斉に拡散しながら、近くの木々をなぎ倒していく。


 すると、響夜の姿が現れた。しかも右手首をおさえており、そこからは血が滴っている。


 「俺は、お前の能力を理解している。お前の能力は強力だが、俺と相性が悪い。諦めて帰宅したらどうだ? 弟と殺し合うってのはやはりいい気分じゃねえからな」


 響一はポケットに手を入れたままこう言った。響夜はその発言を聞いて激しい歯ぎしりをする。どうやら、響一は響夜に攻撃を与えることに成功したようだ。あの右手首の損傷は響一が与えたものだろう。


 「弟にも勝てん兄が、生意気言いやがって」


 「本気でやってみるか? いつもとは違って手加減なしでな」


 俺は響一と響夜が会話している間、どうにか立ち上がって、気絶したリリーをソファから起こし、担いだ。できるだけ、響夜とか言う襲撃者よりも遠くへリリーを運ぼうとしたのだ。鼻からは血が滴り、頭がくらくらとするが、それでも踏ん張って彼女を運ぶ。


 「……やめだ。兄さんたぁ相性が悪いけぇな。」


 響夜は降参したかのように両腕を上げた。その姿を見て、響一は警戒を解き、こう質問した。


 「なぜ、彼女を狙った?」


 「……そがいな指令が来たけェな。ー統家からだ」


 「一統家からだと? あの孤立主義家系からか?」


 「……ああ、そうだ。業火の情報を貰う代わりに、抹殺してほしい対象がおるという依頼を承った、その対象が彼女じゃ」


 「……」


 響一は考え込むように下を向く。すると今度は響夜が質問をする。


 「兄さんこそ、なんで彼女と業火を庇うんじゃ?」


 「……ある約束だ」


 「あ?」


 約束という言葉をつぶやいた響一は少し優しそうな顔になる。しかし、響夜はその回答に納得がいっていない様子だ。


 「まあええや、それよりも兄さんの周りにある石の弾幕を早う閉まってくれんか? 恐ろしゅうて仕方ないよ 見ての通りわしゃもう、降参じゃ。両足と右腕、腹部に石の弾丸を食ろうちまった」


 響夜はそう言って響一に、腹部の傷を見せる、1㎝ほどの穴が二つ腎臓の上の位置に空いていた、それを見て響一は能力を解除する。空中に静止した石の弾幕は能力解除とともに重力の影響を受け、地に落ちていき、ただの石と化した。


 それを見て、二ヤリと笑う響夜。


 「……兄さんはげに学習せんな、そがいな甘さのせいでいつも、わしにやられとったということを忘れたのか?」


 響夜が見せた腹部の傷が治っていた、いや正確に言えば、はじめから傷など存在しなかったかのように、二連の風穴が消えていたのだ。


 「わしが指定した結果は 傷を負うこと だ」


 「……チッ……クソが」


 響一は舌打ちをし、焦りながら再び詠唱を始めようとした、が響夜が先に能力を発動し、視界から消えた。


 〔虚無と実存、蒼と紅、対立する二つの――


 響一の詠唱も虚しく、途中で彼の顔面に大きな衝撃が加わる。そしてその衝撃に流されるがまま、地に横たわった。

 すると倒れた響一の頭上に響夜の姿が現れる。右腕を振り切っている、おそらく響一は響夜に右手で殴られたのだ。


 「遅いな、兄さんの能力発動にゃあ詠唱が必要じゃけぇ、早さでは勝てんに決まっとるじゃろう?」


 「……き……てめェ、響夜……」


 響一は倒れたまま頭上の響夜に向かって睨みつける。


 「顎と顔面に二連の拳を放ったけぇな、しばらくは立ち上がれんよ。まあ、腐っても響一、われはわしの兄じゃ。敬意を表して、殺さんでおいちゃる。わしゃ今からあのカワイ子ちゃんと業火を殺しに行く、追うてきたら今度こそ殺す。分かったか?」


 「……ハア、テメエ、待ちやがれ」


 「ギャハハハハハ、やっぱ兄を見下ろすなぁ気分がええな。家でもそうやって這いつくぼうとったらええのにな」


 笑い声とともに響夜は再び姿を消した。響一はただただ悔しそうな表情をしながら地にふすのみだった。







 

 「……ハア……ハア、リリー。待ってろよ……兄ちゃんが……お前を……安全な所へ……送ってやるからな……」


 俺はリリーを背負いながら、必死に森の中を駆け巡った。別のコテージにリリーを届けることも考えたが、きっとそうしたら最後、コテージ内の生徒たちも殺される。だから、森の中に進むしかなかった、リリーの安否が最重要だったが、だとしても見ず知らずの犠牲者を出したくはなかったのだ。


 「…ハア……それより……リリー……わかばより……ハア……重ェなァ」


 まあ、当たり前のことではある、リリーの方が背も高いし、身体だって大きい、それに……これは余計なのだが、胸も。


 「……ハア……起きてたら……ぶん殴られてたな……」


 森の木々を避け、力の限り走りまくった。行く当てもなく、見当もつかぬまま。

すると目の前に現れたのは男の人影だった、和服と呼ばれる奇妙な服を着た男、一条響夜だ。


 「カワイ子ちゃん一人占めたぁ、中々ええご身分じゃのぉ、業火」


 俺はリリーを地面に優しく起き、臨戦態勢をとる。


 「ストーカーする男は一番女から嫌われるぜ、金髪。いくら顔がいいからって、許されねえこともあるんだ」


 「しゃーなーしや、目撃者はおらん。全員殺しちゃるけぇな」


 不味い、これは不味い。夜の森に俺とリリーだけ、相手は第三領域の能力者、それも能力の見当が全くつかない力を持つ者。最悪だ、こいつがここにいるってことは響一はやられたのか?


 ブルーハウダーにグリム教官を一瞬で倒し、響一ですらやられたこの男に果たして俺が勝てるのだろうか?…………結論は出ている、不可能だ。しかし、やらなくてはならない。こいつは何故かリリーを狙っている。俺がやらなくては、誰もリリーを守れない。


 こいつの能力を推測しろ、こいつは消えては現れるを繰り返していた、しかもただ消えるだけじゃない、存在事いなくなる、正確に言えば、こいつ自身が存在したという事実すらも無くなる。だから、俺の攻撃も当たらなかった。


 しかもこいつは、経路を吹っ飛ばす など意味の分からない話をしていた。結果がどうとか、なんとか。そこから推測するに、こいつの能力は、途中経過を全て無かったことに出来るような能力なのであろう。行為の結果だけが現実に反映され、それ以外の道中、辿った軌跡、存在が消え失せるという、とてつもない能力だ。


 しかし、ならばなぜ、響一は彼に攻撃を与えることが出来たというのか? 結果だけが存在し、それ以外は無かったことになるというのならば、攻撃を当てたという経路における出来事もなかったことになるのではないだろうか。そこに、こいつの能力の欠陥がある気がする。


 響夜の姿が消える、やはり、何も感じ取れない。まるで響夜など初めから存在しなかったかのような沈黙と虚無感だけが広がる。


 まずい、まずい。死ぬ、今度こそ死ぬ。やられる、次はない。


 「うああああああああああ」


 拳からも炎が発火しない、なぜだ、また能力が使えない、これじゃあ丸腰だ。訳も分からず、叫びながら腕を振らしまくる。


 当たれ、当たれ、もうどうとでもなれ、頼むからたまたま当たって、挙句に果てには発火して燃え尽きてくれ、そう願うしか俺にはできなかった。


 力のない者は祈ることしかできないから。


 「……??!! ああ?!」


 すると突然、響夜の姿が目の前に現れる。響夜は驚いた様子だ、彼が能力を解除されたことに気づく前に、俺が彼の存在に気づいた。


 「そこかァッ!!」


 俺は姿を現した響夜に向けて、思いいきり拳をお見舞いした。鼻の位置に当たった拳をそのまま振り切ると、響夜は鼻血を出しながら後方へよろける。


 「……チッ……目を覚ましやがったか……」


 鼻を抑えながら舌打ちをする響夜、俺は後ろを向くと、リリーが気を取り戻し起き上がっていた。


 「……にいに? ここ……どこ?」


 「リリー、気が付いたか!」


 リリーは困惑した様子だ。それもそうだ、起き上がったら森の闇の中にいるのだから。


 「……突然、見られるなぁ困るわ、能力が解除されてしもうたじゃないか」


 響夜は鼻血を手でぬぐいはらう。響夜はもう一度、臨戦態勢を取り直す、しかし俺とリリーの後方から、数十個ほどの石が直線上を飛び、響夜に向かっていく、響夜は驚き、それを避ける。


 「……追うてきたら殺すって言うたよな?」


 響夜は俺らの後方の闇に向かって話しかけている、すると闇の中から響一の姿が現れた。

響一は何も言わずに、俺らの前に出る。そして俺に向かってこうつぶやいた。


 「奴の能力を説明してやるッ、彼女を守りたかったら、俺に協力しろッ」


 響一の口から 協力 という言葉が出たことに驚いて俺はただ茫然とするのみであった。






 





 


 


 


 


 





もしよろしければブックマークと感想をお願いします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ