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回帰列伝  作者: 鹿十
第一章 異能学園編
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21 異能合宿⑧ 憎き救世主

熱い回!! だと思います!! 

 自重により加速度的に落下していく金髪。すると、俺の5メートル真上あたりで、金髪の姿が消えた。こいつの能力が『透明化』らしきものだということは事前に聞いていたので、あまり驚かずに落下してくる金髪に向けて拳を突き出そうとする。


 俺はこの時、能力発動に成功していた。いつもは失敗してばかりだったが、俺の拳からは、火の粉が待い、煙が立ち上っている。 


 今までの経験から、俺の能力の炎に触れた者は一瞬にして燃え盛りはじめ、そしてその炎は消えることがないということを自覚していた。なので、そのまま拳を金髪に当ててしまえば、勝利が確定すると信じ切っていた。


 『透明化』のような能力を持っていたとしても、姿が消えるだけで、拳は当たるはずだ。そう信じ込んで、落下する金髪に向けて拳を当てようと腕を振った――のだが、振られた拳は宙を切り、何も当たった感触がしなかった。ただただ、空気を切り裂くのみで、そこには何も存在していなかったのだ。


 そしてさらに奇妙なことに、拳を振り切った後に、俺の顔面に落下で加速をつけた金髪の蹴りが炸裂されたのである。


 明らかにおかしかった。相手の能力が『透明化』のような類のものであったならば、俺の頭上へ向けた拳は宙を切ることなく、金髪に直撃していたはずだ。しかし実際は、拳は彼に当たることが無かったにも関わらず、彼の蹴りだけは俺の顔面に直撃したのだ。


 顔面を蹴られ、鼻が曲がるように痛い、よろめき、尻もちをつこうとしたその間数秒の間に、俺は確信した。こいつの能力は単純な『透明化』のようなものではないということを。


 こいつは消えたんじゃない、まるで初めから存在しなかったかのように存在ごといなくなったのだ、そして俺の拳が通過した後、また再び存在し始めたのだ。


 でなければ、俺の拳が当たらず、金髪の蹴りだけ俺に直撃する意味が分からない。


 こいつはきっと『存在自体をなかったことに出来る』というような恐ろしい力を持っている。

そしてきっといつでも出し入れ可能なのだ。


 金髪は俺の元を離れ、リリーに向かって走り始める。ソファで寝ているリリーを守るかのように、その前をブルーハウダーと、グリム教官が立ちふさがる。


 すると、金髪は、ニタァと不気味な笑みを浮かべ、ベロを出す素振りを見せた後、また再び姿を消した。認識できない、消えた のではなくて その場からいなくなった のだから。


 数秒後、ブルーハウダーが真横に吹っ飛ぶ。吹っ飛んだのと同時に、蹴りを入れる姿勢をとっている金髪の姿が現れた。そしてそんな金髪にめがけ、グリム教官が殴りかかろうとするが、再び、金髪の姿は消え、グリム教官の拳は俺と同じように空を切るのみだった。


 その後、茫然とするグリム教官の顎に衝撃が加わったかと思うと、金髪の姿が現れる。グリム教官は衝撃でよろけ、さらにそこに金髪の俊敏な蹴りが腹部に与えられた。しかし、グリム教官は気を失っていないようだ、すんでのところで耐えている。


 「っが……」


 「われ、中々頑丈じゃのぉ。さっきのパンチも、あそこにおるクロガミやら言う奴のよりよっぽど筋がええ。しかしじゃのぉ、一般人にしては……だ」


 消えては現れ、消えては現れを6回ほど繰り返した後、グリム教官はいつの間にか気を失い、その場に倒れていた。

 ブルーハウダーは吹っ飛んだ後、近くのクローゼットに突っ込み、横たわっている。蹴りを入れられた腹部からは、大量の血が噴き出していた。

 おそらく二人とも再起不能だろう。早すぎる、瞬き一瞬するともう、二人とも気を失っていた。


 これが第三領域能力者。俺たちのかなう相手じゃない、俺も床に倒れ、鼻から血を吹き出しながら、必死に彼の元へ這いつくばって進もうとする。


 「……まて……俺ァまだ、やられ……てねェぞ」


 「ああわれ、気失うとらんかったのか。う~ん、やっぱりこのカワイ子ちゃんじゃのうて、われから殺すことにするか。業火保持者の抹殺が、一番最重要じゃけぇな」


 這いつくばる俺に近づき、俺を見下ろす金髪。


 「テメェ、なんて……野郎だ」


 「冥土の土産に教えちゃる。わしゃ 一条響夜。われと、このカワイ子ちゃんの暗殺命令を承った者じゃ。まあ、われらが感づいとるように、第三領域の能力者じゃ」


 一条響夜と名乗る金髪は這いつくばる俺の頭に足を乗せ、踏みつけてくる。


 「…っ糞……がッ」


 「わしの能力はなァ、姿が消えるとか、さえんモノじゃないけぇな。存在自体が消える、言うてしまえば、動作経路すべてが吹っ飛ぶんじゃ、ほれほれ、われ、結構踏み心地ええな」


 一条響夜はさらに足の力を強める。俺の頭はゴムまりのようにつぶれる。


 「結果だけ、わしが指定した行動の結果だけが現実に反映されて、その道中の出来事、存在、認識、全ては無に帰す。じゃけぇ、だあれも、わしのこたぁ認識できんし、気づくはずもない」


 「……くっ……痛え」


 「われらのこと、ずーっと監視しとったでぇ。合宿前、時々物が盗まれることがあったろ? 

それもわしが犯人じゃ。結果を 物の略奪 に指定したけぇな、じゃけぇ、物を盗まれてもわれらは、わしのことを認識できんかった。戸惑うとる姿はおもしろかったな」


 「っき……殺す……殺してやる」


 「ハハッ、威勢だけはええなあ。おら、もっと泣き叫べよ」


 さらに重量を足にかけてきた。顔はつぶれ、息ができない。


 「がああああああああ」


 「ええねええね、最高じゃ」


 痛みで叫ぶ、そして叫べば叫ぶほど、響夜は喜ぶ。


 「…………」


 もう言葉が出てこない、息ができない、苦しくてたまらない。


 「……ああ、そろそろ飽きたな。殺すか、われを殺した後、あのカワイ子ちゃんも殺しちゃるけぇな。全く、ええ女なんに。殺さにゃあいけんなんてわしでも心が痛むでぇ」


 響夜の足首を掴み、精一杯の力で握り締める。爪が響夜の皮膚に突き刺さり、響夜の足首からは血が滴る。


 「て……めえ、リリーを少し……でも触れてみ……ろよ……殺し……てやるぜ」


 「残念、殺されるなぁわれだ。われも、あのカワイ子ちゃんも死ぬる。どれもこれもわれが弱いのが原因じゃ」


 「……」


 「じゃあな業火、一瀬響也の意思を受け継ぐなぁ、お前じゃのうて、我ら一条家じゃ」


 ああ、俺死ぬのか。なんだかあっけない人生だったな。殴られ、飯にもありつけず、助けてくれる人もいなかった。俺なんかがなんで生まれてきてしまったのか。リリーも守れず、蹴りを入れられただけでまともに立ち上がれなくなるほど弱く、なのにすぐに喧嘩をうる。


 でも、学園に入ってからは楽しかった。データ、ホワイト、エマ、マスタード。彼らがいたから俺のこの2か月は黄金色に輝いていた。ああ、また礼を言い忘れたな、酒場のおっさんと、キリーさんが死んだときと同じ過ちをしてしまった。


 少しくらい有難うって声に出しておけばよかった。


 それに……なぜ死に際になって浮かぶのが、今朝コテージで見たエマの姿なのだろうか? 髪を縛り、ポニーテールをした彼女がまぶしく、それでいて鮮明に思い出せる。


 ああ、彼女に、その髪型似合っていると、褒めてあげていたら、彼女の笑い顔が見られただろうか――その表情が見られなかったことが、唯一の心残りだ――――――――――
















〔虚無と実存、蒼と紅。対立する二つの事柄を統合し、我に啓蒙の称号を与えんことを望む。帰路を規定する使者よ、彼に栄光たる試練を与えたまえ。手始めに、迷える子羊に性質を譲渡奉らん。臓物は――追躡――〕












 コテージが振動を始める、すると壁を破り、無数の石が等間隔に、規則正しく直線運動を動きながら、一点に収束し、うねりながら一条響夜に向かって猛スピードで動いていく。


 響夜は石の竜巻から逃げるように走り出し、コテージの外に出た。しかし、石の巨大なうねりは、逃げていった響夜の後を追うように自動追跡を始める。


 コテージの木でできた壁は巨大な穴が開き、その穴の向こうにある人影が立っている。


 見覚えのある人影だ。忌々しい姿、俺のことを一番嫌っていて、俺も同様に彼を一番嫌っている。しかし、そんな彼がなぜ、俺を助けるような行動をしたかが不可解だった。


 そこには一条響一の、堂々たる威厳を保った姿が確認できたのだ。


 そして、このことは、今思い返すと恥ずかしく、決して認めたくない事実なのだが、正直に告白しよう。


 



 この時、俺を救ってくれた彼のことが、とてもかっこよく、まるで救世主のように、俺の目には映ったのである。


 




 


 


 

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