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回帰列伝  作者: 鹿十
第一章 異能学園編
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19 異能合宿⑥ 能力の設計図

 「てめェ、なぜここにいるッ?!」


 「……いいから肩から手を離せよ、お前には何も語ることはないぜ」


 「……!! こいつッ」


 振り向いた響一の顔面を本気で殴りにかかったが、首を少し動かして避けられ、その後、彼の振った左腕が俺の首元に直撃し、よろける。


 「……っき、今日という今日は……許さねえぜ?」


 首を右手で押さえて、響一の顔に向かってにらみを利かせる。響一は怖気づくどころか、お決まりの鋭い眼光を俺に絶えず向けてくる。


 「……お前の妹……だっけな。あいつ動きがたるいんだよ、だから簡単にやられる」


 「お前ッまさかッ、勘違いしてたぜ、誰かの襲撃にあったんじゃなくて、お前がリリーを傷つけたんだな? 俺に勝てないから怒りの矛先をリリーに向けたんだろッ」


 「……」


 響一は沈黙を守っている。何も言わない、周りの人間は恐怖や衝撃で何も動けていない。


 「イエスってことかよッ、なんとかいえよこのクズッ!!」


 そう言って再び走って彼に向けて拳を振りかざしたが、結果は分かっていた通り、簡単に奴の右腕でいなされた後、無防備な腹部に強烈な左ストレートをお見舞いされた。

 ああ、懐かしき感覚。腹の溝に上手く衝撃が入ったときは確か、こうやって強烈な吐き気に襲われて、かがんで地面に丸くなるしかできなくなるんだっけ。


 「がああああッ!」


 響一は地面で丸くなる俺に追撃を加えず、そのまま後ろを向いて闇の中へ消えていこうとした。俺は何とか、吐き気に悩まされながらも出来るだけの大声でこう叫んだ。


 「……俺ァ狙うのはまだ許してやったよ……でもリリーを狙うとなると話は別だッ!! てめえ地獄の淵まで追い回しても殺してやるッ!!!」


 沈黙のまま、夜の闇へと消えていく響一、彼の耳に俺の声は届いたのかどうかすら定かではない。


 響一が消えると周りにいた生徒たちが俺のもとに駆け寄ってきた。


 「だ、大丈夫君?」


 「あ、ああだいじょう……ぶだ。それよりもあっちの白い髪……の女の子を……頼むよ……」


 「彼はうちに任しぇといて、君たちは、あん女ん子ばよろしゅう」


 そう生徒たちに言ったのはわかばであった。彼女は俺を頑張って持ち上げると、そのまま森の出口まで肩を貸してくれた、随分と小さい位置にある肩ではあったが。

 森を出るころには、もう一人で歩けるようになっていた、吐き気もだいぶ収まった気がする。わかばに感謝を伝え、腹を抱えながら、猫背のまま歩いてコテージに戻る。

 

 その後、先生にリリーと俺、その場にいた数名の生徒は集められた。リリーは簡単な治療を受けた。額にかなりの損傷が加わった後があるが、命に別状はないようだった、どうやら出血を抑えられたことが良かったらしい。またあらためて彼に感謝を伝えなくては。


 俺は30分程度横になると、いつの間にか気分が良くなっていた。腹には痣が出来てしまったが、何も問題はなさそうだ。とりあえず、リリーは今から馬車に乗って学園に戻るらしい。

 

 学園まで片道6時間ほどかかるので、急がなければ保健室の美人先生でも直せなくなってしまう。彼女の治療の能力は、ケガを負ってから10時間以内でないと効かないからだ。


 担架に乗せられたリリーはまだ意識を失っている。先生たちは、生徒を集め緊急集会を開いた。どうやらリリーが怪我を負った現場を見たのはもののの3名ほどだった。彼らから証言をもらい、一条家に確認を取ろうとしている先生たち。


 しかし、一条家の末端の女性たちに拒否されてしまっている。詳しいことは知らないが、先生たちはとても困惑しているように見えた。そして何やら異常な緊張感を身にまとっていた。


 俺も関係者として証言を求められる、体験したことをありのまま語った後、他の生徒からの証言を聞かされた。それは現場を見たという3名の生徒の証言であった。


 そしてそれらを聞いて俺は、彼らの証言は全く辻褄が合わない、非合理的なものだと言わざるを得なかったのだ。


 まず、一人の男子生徒、彼は一条の次の番号のペアだった。神社に着いて数秒後に丁度、リリーが悲鳴を上げながら額から血を流したのを見ていたのだという。

 近くには、リリーのペアである一条響一しかいなかったため、彼が傷害事件の犯人だと主張しているようだ。


 二人目は、先ほど紹介した男子生徒のペアだった女子生徒だ。彼と手をつなぎながら歩いていたところ、数メートル先の白髪の少女が血を吹き出しながら倒れたのを見たようだ。彼女はその様子を見て、耐えられずに目を背け、リリーよりも大きい声で絶叫してしまったらしく、あまり損傷の瞬間を見ていなかったらしい、俺がわかばを負ぶっている間に聞いたあの女性の絶叫は、リリーのものではなく、彼女のものだったようだ。

 彼女も同様に、一条響一がやったのだと確信しているようだ。


 三人目は、神社に来た者を驚かせようと画策していたレクリエーション係の男だ。どうやら道中の火の玉と獣男はこいつらの仕業だったらしい。

 こいつは神社の中に入っていて、階段の上にある瓶に手を入れた瞬間、扉の中から飛び出して驚かせるという役割だったらしく、扉の向こうでずっと息をひそめて待機していたようなのだ。

 こいつは扉の隙間から、かなりの至近距離でリリーと一条を観察していた。


 彼が言うことによると、いや全くこの発言は謎なのだが、一条響一がリリーと反対方向を向き、何やら口を動かしていたらしい。その時リリーは瓶の中に手を入れ、中の紙を取ろうとした瞬間、大きな振動がその場を響いたようで、その衝撃によって瓶が階段を転がり落ちていき、それを拾おうと、リリーが追いかけた瞬間、リリーは血を吹き出しながら後方へと吹っ飛んだようなのだ。

 響一はリリーとは正反対を向いていたし、何ならリリーが瓶を取りに数歩追いかけていたことも知らない様子だったらしく、リリーが血を流して吹っ飛んだ後に、響一は初めて後ろを向き、彼女が血を流して倒れているのに気付いたようだというのだ。


 そして響一はそんな倒れた彼女をしばらく見つめた後、またどこかへ歩いて行ったのだという。そして1分ほど経過した後、また彼女の元へ戻ってきたのだと証言している。

 だから、傷害事件の犯人は、響一ではなく幽霊だ!! と本気で言っているらしい。


 近い位置で見ていたのだからレクリエーション係りの彼の証言が一番正確なものだとは思うのだが、いかんせん彼の話は少し逸脱しすぎではないのだろうかとも思った。彼は正確に事件の現場を覚えてはいるらしいのだが、その話には現実味がない。


 なぜなら、リリーは『五感強化』という能力を持っており、視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚の5つの感覚が常人よりもかなり鋭いのだ。常時その能力を発動しているわけではないが、異変を感じたならば、無意識の内にも発動してしまうことがあるとリリーは以前語っていた。


 では、はたして彼女が異変一つ感じることなく迅速に、額から血を流すほど強烈な攻撃を彼女に食らわせることが出来るのだろうか?いくら夜の暗闇の中といえども、それは不可能に近いのではないだろうか? しかもすぐ周りにも他の生徒たちはいたはずだ、そこまでの危険をおかして、リリーを攻撃する者がいるだろうか。


 教師用のコテージ内で、ベットの上で横たわっているリリー。俺らの合宿に同行した先生のうちの一人――白衣を着ているので治療担当の者なのだろう――が深刻な面持ちでこう語った。


 「……やっぱり、彼女は強烈な 共鳴波 を身に受けたことで気絶したのだと思われます」


 腕を組みながら、仁王立ちをしているブルーハウダーが口を開く。

 

 「となると、能力を用いて攻撃されたということね……」


 白衣を着た先生が深くうなずく。


 「そうですね……しかもかなり強力です。これほどの共鳴波を発する能力者は中々いません。それこそ、第三領域クラスですね……」


 深刻な様子で語り合っている教師たちの間に俺が割って入る。


 「お、オイオイ。共鳴波 って何だよッ……リリーの意識はしっかりと回復するんだろうな?」


 「共鳴波 というのは能力を用いたり、発動したりした時に漏れ出す能力者特有の規則性をもった波のことよ。波長は能力によって異なるけれど、能力が強力なものほど、多くの共鳴波が放出されるわ」


 共鳴波、初めて聞いた言葉だ。どうやら能力者が出す波動のことらしい。水に衝撃を加えると波紋が生じるように、能力を発動すると、共鳴波と呼ばれる波が生じるということだろうか。


 「だから、共鳴波ってのは、能力の設計図とも呼ばれているのよ、その人が発する共鳴波を調べれば、ある程度の能力の概要と、出力の大きさが大体分かるわ。まあそれでも、共鳴波のデータがある程度揃っている能力でないと分からないけどね」


 「そうなんです。だけどこのリリーさんにあてられた共鳴波は、あまりにも強烈で、しかもこの波長は見たことがありません、データにありませんから。ゆえに、第三領域の能力であるということが予測できます」


 専門家のように語るのは治療担当の先生である。彼の発言に基づくならば、一条響一が、リリーを攻撃した犯人であることが決まったようなものではないか。第三領域の能力者は、この合宿には彼しかいない。


 「じゃあ、一条響一が犯人なんですねッ!! やっぱりあいつ、ぶっ殺してやるッ!!」


 そう言って、扉を出ようとした俺をブルーハウダーが止める。


 「なんだよッ」


 「一条響一が犯人である可能性が高いことには同意だ……しかし、かといって彼とお前が対面できるはずがないし、またできたとしても、お前は返り討ちにあって体中穴を開けて帰ってくるだけだねえ。行く意味がないって言ってるんだよ」


 俺をこう言って説得するブルーハウダー。


 「んなことッわかんねーだろッ。俺ァ頭に来てんだぜッ、リリーのことを傷つけたことによォー」


 「まだ分からないのかいっ、一条家は極めて排他的な家系だっ、前回は運が良かっただけ、こんどこそ響一に殺されるよっ」


 ブルーハウダーの手を無理やりほどいて、前に進む。


 「知ったこっちゃねェッ!! 相打ちになってもいいッ! 殺してやるッ!!」


 ブルーハウダーは俺の言葉を聞き、ため息をついた後こう話した。


 「……しょうがない、あんただけ行かせれば大変なことになるだろうね、命があったらマシだと思った方がいい」


 「それでも行くっつってんだよ」


 「……私も同行するわ、今回の件については私たち教師の責任もあるからね、それに響一君から話を聞きたいし、生徒と教師としてね」


 そう言ってブルーハウダーは俺の右手を掴むと、前と同じように体が青白く光っていく、そしていつの間にか教師用のコテージから、別の場所へ移動していた。おそらくここは響一が過ごしている場所なのだろう。


 暗くて、コテージよりもじめじめとした場所だ。熱気がこもっており、お世辞にも快適な場所とは言えないその簡易的な建物の中に、しっかりと作りこまれた座敷が存在していることに気づいた。その座敷の中央には、あぐらをかきながら、頬杖をついて座布団に座る響一がいた。


 「……テメエら、不法侵入だぜ」


 そうつぶやく一条響一の表情は、予想とは異なり、全く驚いた様子をしておらず、むしろ、俺たちが訪れるのを待っていたかのようなトーンで語った。


 

 



 



 


 


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