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回帰列伝  作者: 鹿十
第一章 異能学園編
19/94

17 異能合宿④ 異世界とは何か

世界設定網羅回です。合宿編はまだ続きます!

 何とか野菜の肉巻きを二つほど頬張り、薄いスープを喉に流し込んだ後、肝試しが始まった。くじ引きで相手を決め、二人組で行動する。森の中の1㎞ほどの道を進んでいき、先にある神社? と呼ばれる建築物に瓶が置いてあり、その中に入っている赤色の紙を取り、戻ればよいらしい。多くの生徒たちが順にくじを引いていき、そのくじに書いてある番号を確認し、その後周りを見渡してペアを探している。

 

 中には男女のペアになった者たちもいるが、男同士のペアは少し可哀そうだ。彼らは、仲良くやっている様子ではあるが、その表情からは、出来ることなら女性とペアになりたかったという願望が見え隠れしている。

 

 ついに俺の番になり、箱の中に手を突っ込み紙を取り出す、そこには45と書かれていた。他の生徒と同じように周りをきょろきょろと見まわす。ペアを探している者が俺の他にも20人ほどいる。その中には、手当たり次第に声を掛けている者もいて、俺も声を掛けられたのだが、番号は異なっていたようだ。


 「いねえな……」


 引き続きペアを探す。周りの人たちはもうペアを見つけている様子だ。気づいたらまだ探している者は数名ほどになっていた。その中でひときわ目を引く少女がいた。そして俺はおそらくこの少女を知っている。


 紫色のストレートの髪に小柄な身長、来ている制服すらもその容貌と合わさって、コスプレのように見えてしまう。例えるなら小さい妹が憧れから、姉の制服を無断で着てしまったような様子だ。異能学園の女子の制服はセーラー服と呼ばれるものらしく、胸元についたリボンがついているのだが、この少女が制服を着ると、そのリボンが凄く大きく見える。

 

 この少女――正確には俺よりも年上の女性――は俺に気づくとニタニタと笑みを浮かべながら近づいてきた。ニタニタと表現したのは、その笑いは嬉しさによるものではなく、まるで新しいおもちゃを見つけた赤ん坊のような、興味・関心によるものであるだろうと推測できるからだ。


 「ねえ、君。何番なのかな?」

 

 「……45です……」


 「こりゃ奇遇ね、うちも45番ばい」


 彼女の名前は、一織わかば。前、食堂でいきなり話しかけてきた少し変わった口調と性格を持つ女性。


 「よろしゅうね、ク ロ ガ ミ 君」


 わかばは上目遣いでこう言った。何も起こらないはずがないという心の中の疑惑がこの時、確信へと変わったのである。






 

 「じゃあ1番のペアから順にならべ~、あ、まずお前らに言っておくぞッ!!! 森の中は真っ暗だし、恐怖も感じるだろう。それが原因でちょっといい感じの雰囲気になったり、異性との距離が縮まることがあるかもしれないなッ!!!! だァ~がァしかしなァ、一線は引くことだッ!!!! 暗闇を利用してイケないことをしてやろうとか、考えるんじゃねェからなッ!!!

特に男どもッ!! そんなことをした奴は速攻、俺の往復ビンタと強烈なハグを決めてやるからなッ!! そして女子生徒諸君も、なるべくハニートラップを控えるようにッ!!!!!!!!

男は単純だからそんなことをすれば一瞬で獣に豹変するからなッ!!! 覚悟しろッ!!」


 熱弁しているのは、皆ご存じの通りグリム教官だ。今日もタンクトップ一枚で、己の肉体美をこれでもかというほど露わにしている。上腕二頭筋が今日も美しい。しかし、その熱心な演説によって、せっかくの身の毛もよだつほどの薄気味悪い雰囲気が台無しになったことに、この男は気づいていない。


 「ああ? 反応が薄いなッ諸君ッ!!! ……もしかして、イケないこととは何を指しているのかが分からないのかッ???? そうだなァ、色々あるが、代表的な事だとすれば、ボカして言うとだなァ…………SE――」


 「はいはい、では初めて行きますよオー。じゃあ一番のペアから順に森に入っていって下さァーい、4分後に次のペア行きますからねェー」


 すんでのところでグリム教官の言葉を遮ったのは、別の教師である。おそらく、彼がグリム教官の話を遮らなかったら、それはそれは大変な雰囲気になっていたであろう。俺としてはその言葉をグリム教官に喋らせて、教師としての権威を地に落としてやりたかったとも思っているが、他の生徒たちは、胸を押さえ、ほっとしている様子だ。


 「あらあら、今何言おうとしとったとやろうか、あん教官」

 

 わざととぼけた様子で、にやついてこう話すわかば。口に手をやり、クスクスと笑っている。その様子はまるで、年下の女性に下ネタを言うおっさんのようだ。


 「さあ……きっと窃盗って言おうとしたんだぜェあいつ。SEで続く悪い事ってそれくらいしか思いつかねェーからなァ。窃盗は確かに悪いことだよなァ」


 「ほんなこつそうかしら? 誤魔化しとーごと見えるっちゃけど」


 「……」


 こいつは俺の口からそのセリフを言わせたいらしい。めんどくさかったので無視した。

誤魔化すように周りをキョロキョロと見ると、列の前方、番号にして30番あたりであろう所にリリーの姿が見える。果たして一体、リリーは誰とペアを組んだのだろうか。

 つま先で立って、目の高さを上げ、リリーの横にいるペアを確認しようとする。後ろ姿しか見えないが、ペアの相手の後頭部は確認できた。髪の色は金色であった。しかもかなりの高身長だ。頭一つ抜けて大きい。


 「何ば確認しとーと?」


 わかばは首を傾げながら問う。その様子は人形みたいで可愛らしい。


 「あ? ああ、これな。ずっと立ってるだけだと足腰に悪いらしいから、こうやってたまに、つま先立ちをすると体にいいんだぜェ」


 「そうなんや、そげな風習があるんね」


 「風習……ではないけど」


 しかしやはり顔は見えない。だが、なぜだろうか、リリーはその金髪男とそっぽを向いている。まさかいつもの人見知りが発動してしまったのだろうか、お兄ちゃんは心配だ。……いや、だとしてもおかしい。リリーのあの様子からは、恥ずかしいから喋らないというよりか、喋りたくないという拒絶の気持ちが見られる。


 リリーはそっぽを向き、横顔は少し不機嫌そうだ。俺以外の相手と一緒にいるとき、リリーは決して不機嫌そうな顔は見せない。なのになぜ、あんな態度をとっているのだろうか。しかも初対面の人に向かって。

 いったいあの金髪はどれだけ酷いことをリリーに言ったのだろうか? でないと、あのリリーの態度は明らかにおかしい。糞、あの金髪、あとでとっちめてやるッ。






 リリーの様子を観察したり、わかばと駄弁ったりしていると20数分が立った。割と回転率が高いようである。わかばと話していると、最初は意味が分からない方言ばかり使っていたのでほとんど理解できなかったが、段々と彼女のの言うことが理解できるようになっていった。主に語尾に「や」と「ね」を用いることと、「とー」と伸ばすときは、疑問を投げかけているのだという基本的なルールを知った。

 そ

 れに不思議なことだが、最初は鬱陶しかっただけのこの方言も慣れてくると可愛く思えてくるのだ。今では、わかばの容姿や性格と相まってとても可愛らしいと感じる。それに、ある程度彼女と話してみたのだが、悪い奴ではなさそうだ。たまに少し、気に障る発言をするが、おそらく天然なだけなのだろう。

 

 そうこうしているうちに俺らの番がきた、森の暗闇の中に足を踏み入れると、後からワカバがついてくる。正直、心霊や怪奇現象はどちらかといえば苦手な部類に属するのだが、かといって女の子を先に行かせるのは面目丸つぶれである。少しの勇気を振り絞って、歩を進める。

 

 すると沈黙に耐えかねたのか、わかばが話し出した。


 「ねェ、君ん名前、そういえば、聞いとらんかったばい」


 「ああそうだっけ? クロガミって呼んでくれ」


 「クロガミ? 君ん両親はちかっぱ、安直な人やなあ」


 「ちかっぱ?」


 「随分と っていう意味ばい」


 「ああなるほどね。いやクロガミっつうのはあだ名みたいなもん。本当の名前は無いんだ。両親の顔も知らないしな」


 わかばは聞いてはいけなかったことを聞いてしまったかのように申し訳なさそうにうつむく。


 「い、いや、いいんだ。別に気にしてないしな。それよりさァ、わかばさんこそ、どこ出身なんだ?」


 「わかば でよかばい。うちゃ前も言うた通り、一織家の者と。出身はマギコよりずっと北に位置する都市ばい」


 「へェ、その一織家ってのはなんなんだよ」


 「自分で言うんも恥ずかしかばってん、一織家は由緒正しか、正統天王と呼ばれる最上貴族ん一つばい。この方言も、その一織家に代々伝わる口調と」


 「ほう、ってことは、わかばはお嬢様って訳か。その口調も格式のあるモンだったとはなァ。ずっとただの田舎者だと思ってたぜェ」


 「田舎者とは失礼ね。この口調もわざとやっとーとよ、辛うてしょうがなかばい」


 顔を赤くして起こるわかば。この暗闇の中でもよく見えるくらい、紫色の髪は輝いている。


 「エエ? それわざとやってんのかよ?! キャラ付けのためにかァ、体張るなァ」


 「キャラ付んためやなかわ!! 母上からきつう言われとーんよ、こん口調で喋れって」


 なるほど、この可愛らしい方言は、故意的に行われていたモノだったらしい。外でも自らの格式ある古代からの家のしきたりを守ろうとするとは、さすが貴族様は違うな。


 「クロガミこそ、口調が生意気ばい。まあ、そん生意気な所がうちん興味ばそそるっちゃけど」


 わかばはこう言って俺の顔を見つめてくる。その表情は好奇心旺盛の少女のようだ。何か面白いことを見つけた、元気有り余る少女の表情と一緒である。


 「俺に興味があるのかァ? まだ会って二回目なのに? お前もちょっと変わってるよなァ」


 「変わっとんな君ん方ばい。転生因子ばそん身に宿しとーんに、自分んことも、世界んことも何も知らんなんて」


 また転生因子という単語が出てきた。一体何なんだそれは。


 「だァからッなんだよッ! 転生因子ってェのは」


 「機密事項よ、知らん人には教えられんばい」


 「……あー、そう言うと思ったぜェ」


  前を向きポケットに手を入れ歩みを続ける。すると再び、わかばが話しかける。


 「ばってん、少しくらいなら教えちゃってもよかばい。転生因子っていうんなね、大雑把に言うと、君みたいな、黒か髪、一重ん目、黄色がかった肌色などん身体的特徴んことやわ」


 「……それで?」


 「そげん身体的な特徴はな、うちらが暮らす地より、さらに東へ進んだ場所にある国ん人々が持っとった特徴ばい。確か彼らは……東洋人 と呼ばれとったげなばい」


 トーヨージン? 聞いたことが無い人種だ。それにこの国よりさらに東だと? ということは、もしかすると…………。


 「待て、おかしくねえか? 俺らが住むこの国が最東端なはずだぜ?」


 「まあ、世間に出回っとー世界地図によればね。実際はさらに東に、広大な土地、国々が存在していた。それもうちらが暮らすこん諸島と比較にならんほど広大な大陸ばい」


 「じゃあ、俺は、いや俺の先祖は、その東の国々から来たってことか?」


 「まあ、そうなるばい。あんたん先祖はきっと、そん極東ん国からこん地へやってきたんばい」


 俺の出身が、東の国にあるなどとは考えつくはずもない事実であった。正確に言えば、俺の先祖の出身地に当たるのだが……、どうやら謎は思ったよりも深いらしい。


 「ってことは……もしかして……」


 一呼吸おいてからまた喋り出す。これは確認しなければならない事実なのだ。おそらく、俺の予想があっていれば……俺のこの疑問に彼女は肯定するだろう。




 「俺の先祖は、あのカタストロフィを超えてこちらの世界にやってきたかもしんねェってことかよ……?」


 


 一織わかばは驚愕した顔つきになり、その後ため息をつくと、また語り始めた。


 「あんた、自分んことは何も知らんのに。『悲劇的大終焉』んことはよう知っとーんね」


 「『悲劇的大終焉』? なんだよそれは」


 「カタストロフィの別名ばい。そのままん意味しゃ。 あれはまさしく 悲しい終焉 やろう?」


 悲劇的大終焉、カタストロフィをこう呼ぶ奴もいるのか、そして何より、やはりわかばもカタストロフィの存在を認知している。


 「クロガミ、先ほどのあんたん質問に答えるとなると、そうねえ……半分正解といったところかしら」


 「……カタストロフィラインは越えられないんじゃなかったのかよ……」


 わかばは否定するように頭を振る。


 「まあ確かに、書物にはそう記載しゃれとるけど、実際あんあ歴史書なんていくらでも改ざんできるし、それに、カタストロフィラインば超えなくても、こちら側には来るーわ」


 「は? 今、ラインを越えなくても、こちら側に来れるって言ったのか?……」


 「そうばい、一つだけ方法がある。なんやと思う?」


 ラインを超えないで、こちら側とラインの向こう側を行き来する方法だと? どこかに抜け道でもあるのか? ……それか、何らかの方法をとれば、ラインを破壊できるとか?


 「ごめん、ちょっと意地悪な質問やったね。答えは単純しゃ、カタストロフィラインが引かれるさらに太古昔にこちら側に来ればよかだけ」


 ……まあ、一応筋は通っているが、少し意地が悪い回答だ。でも確かにその通りだ、カタストロフィラインが存在する前に、こちら側に来ればいいだけの話だな。でも、カタストロフィラインはいつから存在するモノなのだろうか。

 

 「詳しいことは分からんけど、転生因子ば持つ者、すなわち東洋人の特徴ば持つ者は、はるか昔にこちらん世界へやってきたんばい」


 「……なるほど」


 「そして我々は、そげん東洋ん世界んことを羨望ば込めてこう呼ぶばい」


 わかばは一呼吸を置いた後、こうつぶやいた。



 「――――異世界――――とね」


 

 


 



 

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