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回帰列伝  作者: 鹿十
第一章 異能学園編
13/94

11 悲劇的大終焉・人類活動限界境界=カタストロフィ

この物語の根幹をなす存在の初披露回となります。

このカタストロフィラインと呼ばれる超常現象を超えることが、一番の目的となります!

 異能都市マギコから東に向かうこと4時間、道中で2つの町を経由し馬を休ませながら進む。  

 家々が全て朱色の屋根で、赤子の頬のように朗らかな景観をしている町を抜け、人間の手が加わっていなく、もはや動物の完全な支配下にある自然の森を抜け、岩々が露出し、頑迷な雰囲気の山を登り、そして下り、紆余曲折して進むこの旅もついに終点に到達したようだ。

 

 目の前にはただただ広大な野原が現れる。夕暮れ時、太陽は低い位置にあり、その半身を山々に隠している。太陽のオレンジ色に染められ、野原の花々、草木は黄昏色に輝き、自然が持つ元来の美しさをこれでもかというほどに表現している。

 そして時々訪れる気まぐれなそよ風により野原の植物が隠れた指揮者に導かれるように、統一感をもって揺らめき、広大な緑が一体となって、一つの生物のように鼓動し合う。


 眼前に果てしなく広がる緑――花々の赤色や青色がアクセントとなっており、単調な印象を抱かせない大自然。

 すべての色が調和を育み、互いに気遣いあいながら、それでいて個々の色は自分自身の魅力を隠さず、ひたすら露わにしている。まさに圧巻。ここに訪れた誰もが、この色彩の結束に涙し、誰もが風でなびく緑を基調にした色彩に目を奪われる………………はずである。


 




 ではなぜ、ここに訪れた者は全て、驚愕と恐怖を露わにした表情を見せるというのか?

 

 理由は単純かつ明快だ。


 野原の向こうに広がる黒色、いや暗い色ではあるのだが、クロという言葉で形容してよいのかどうかも定かではない、この世の混沌を体現したかのような色が、果てしなく、それこそ果てしなく北から南にかけて連綿と、耐えることなくカーテンのように大地に覆いかぶさり、地表を横断している。

 よく見ると細部が少しだけ揺れ動いており、生きているかのような印象を抱かせる。

 この黒いカーテンは、時々部分部分が薄くなったり、逆に濃くなったり、紫色に変わったりする。その変貌の様子はまさに巨大生命体だ。変化のそのどれもが、気分の良いものではないことは確実である。


 太古から人々は北から南に横断する、この果てしない混沌を恐れ、畏怖し、同時に崇拝してきた。そして様々な気持ちが入り混じった混沌とした心情のまま、この忌々しい境界線を、誰もがこう呼ぶ。



 『人類活動限界境界=カタストロフィ』と





* * * * * * * * * * * * * * * * * * *  


「げええ? 嘘だろ? 試験明日かよッ?! 聞いてねえ」


「クロガミはいっつも授業中寝ているからな。赤点は罰則だぜ? まあ俺はそんな心配はないけどな」


 絶望を感じる。信じられない、やっぱりこれは夢だ。よし、寝よう。寝てしまえば夢だったらいつかは覚めるだろうし、夢じゃなかったとしても現実逃避が可能だ。だから俺は寝ることにした。


「おいおい、寝る気か? 明日の二限だぜ? テストは。今から勉強すれば、少しは点数が上がるんじゃないか? どうだ俺が教えてやろうか?」


「……いやきっと夢だ。だから寝る」


「なあ、罰則はな、噂によるとな、グリム教官関連の罰らしいぜ」


「!!! …………わかったよ。頼むホワイト、教えてくれないか?」


 グリム教官が関わるとしたらそれはもうとんでもない罰であろう。長距離走、過剰な筋トレ、無限に等しい量の往復ビンタ……少し考えただけで、こんなにも罰が頭に浮かぶ。ホワイトに教えてもらうのは癪に触ることだが背に腹は代えられない。

 覚悟を決めて勉強をした方がよいかもしれない。赤点は30点以下であり、たとえ今から勉強をしたとしても赤点回避ができるかどうかは怪しいが、たとえ赤点だとしても点数が高いに越したことはないだろう。


「へへ、いいぜ。えっとな、魔術平衡系だったよな、今回のテスト範囲は」


「ああ、頼む。俺は魔術平衡基礎も分からない。全く分からないから、一から優しく教えてくれると嬉しい」


「あー具体的にどこが分からないんだ?」


 ホワイトは俺に頼られてすっかり得意げになっている。こいつもあまり勉強はできないが、それでも俺よりは幾分ましなはずだ。


「ああ、えーっとな、まずここだ。平衡系は結束をするとかなんだとか」


「お前ェ、ここは基礎中の基礎だぜェ。簡単だぜ、えーっとなあ。平衡系ってのはな……えーちょっと待てよ? …………」


 長らく沈黙が続く。ホワイトは目を閉じ顎に手を置き、呻きながら考えている素振りを見せ続けている。


「………………あー、忘れちっまたな……ちょっと待てよ? 今思い出すから…………あのなあ俺レベルになると、他にもいっぱい知ってるから、基礎を逆に忘れちまうのよ………………あ

ー糞、ちょっと出かかってるんだけどなァ、昨日までは知っていたのになァ……」


 なるほど、大丈夫だ。少なくとも、赤点を取るのが俺一人ではないことが今確定した。ホワイト、こいつも全く分かっていないようだ。ホワイトは嘘をつくときしゃべる言葉がどれも棒読みになって、右瞼が少し痙攣する。今その条件を満たしている。

 ホワイトに軽蔑と、憐れみの視線を向けながらため息をついた。全く、どうすりゃいいんだよ。


「平衡系でしょ? それ」


「ああ! リリーちゃん! どうしたの? 君も教えてほしいのかい?」


 リリーがいつの間にか、リビングにいた。中央の長方形のこげ茶色で染められたローテーブルに座り、教材と菓子を広げながら向かい合って座っている俺とホワイトの間に割って入ってきた。

 リリーが来た瞬間、ホワイトは呻くのをやめ、ご自慢の――俺は全くイケてるとは思わない ――チャームポイントのソフトモヒカンを手でセットし直し、いつもの気の抜けた声とは打って変わって、聞いたことのないほどの美声と透き通った声でリリーに話しかける。

 ただし、本人は決まったと思っているかもしれないが、俺から見ればダサい喋り方だ。こいつのリリーの前での話方は、俺の神経を逆なでする。いつもゾッとしてしまう。


「いや、リリーその単元結構好きなんだ」


 そうか、リリーはかなり勉強ができる。このB棟の寮ではおそらく一番だ。次点でエマ、そしてマスタード、最下層は俺とホワイト、俺はホワイトよりは勉強ができると信じているがおそらくどっこいどっこいだろう。


「リリー、勉強得意だろ? 教えてくれよ、俺たちに」


「まあ、別に……いいよ。暇だしね。じゃあちょっと待っててね、教科書取ってくるから」


 リリーは教科書を取りに男子禁制の部屋へと戻る。


「おいックロガミ!! お前、リリーちゃんに向かって俺が勉強できないことを言うなッ。彼女から教えてもらうなんて……俺のプライドが許せないッ。彼女の俺に対するイメージが崩れてしまうじゃないか!!!」


「大体、リリーはお前にそんな高尚なイメージを持っていないと思うぞ? それにな、これはお前のためでもあるんだぜ?」


「な、なんだよ」


「リリーと近くで授業ができるんだぜ? このローテーブル小さいから、かなりきつきつだろうなあ、それにあいつ、さっき大浴場に言ってたな、きっと洗剤とシャンプーの匂いがするんだろうなあ……こんなに近くじゃ、自ずと匂いが漂ってくるだろうなあ」


「!!!!……そ、そうか。よくやったぞクロガミ。お前もいい奴だな!! やはり持つべき友は美女の親族だな!!」


 ちょろい。このホワイトという男の脳内には女と食べることと、寝ることしか詰まっていない。これじゃあ勉強したものが入る余地はないはずだ。三大欲求を忠実に追いかける、生物として模範的な男である。あっぱれだ、お前のそうゆうところ嫌いじゃないぜ。扱いやすくて。


「……あれ?」


「どうした?」


 ポケットに手を入れるが、入れておいたはずの羽根つきのペンがない。両方のポケットをはたいて確認するが、ペンの感触はない。そういえばついさっき、外に出て、廊下を歩いた時に、ポケットからハンカチを取り出したな。その拍子で落としてしまったのかもしれない。


「あー……俺、ペン落とした見てェだ。ちょっくら廊下を確認してくるわ」


「……別に、そのまま一生帰ってこなくていいぜ。そうすりゃ俺とリリーちゃんの一騎打ちだからな」


「一騎打ちって……お前おもしれえ表現するな。まあ数分程度だろう。リリーにもそう伝えといてくれ」


 テーブルに手をつき立ち上がる。そのままフラフラ歩いていき、階段を上り扉を開き、寮外へ行く。扉をくぐると目の前に廊下が広がる。真夜中だからか普段見慣れている廊下でも、何やら神聖でただならぬ気配を感じる。

 そしてちょっと怖い。ところどころにランプがあり、それなりに明るくはあるのだが、だからこそ先まで見えてしまい恐ろしい。


「……早く見つけよ……」


 前かがみの低い姿勢になって地面を確認していく。頭をきょろきょろと動かしながら、そのままの姿勢を保ち、少しづつ歩を歩める。そうこうしながら50メートルほど進んだのだが、まだペンは見つからない。羽まで含めるとかなり大きいサイズなので目立つはずなのだが。


 「…………わあああああ」


 急に背後から肩を叩かれ、驚いて情けない声を発してしまった。そのまま慌てて振り返ると、ファンデーションとチークをこれでもかというほどに塗りたくった厚化粧で、チリチリで背中にかかるほどの白色の髪の量、無駄に良いスタイルと細い足を持つ、まさに魔女と表現するのにふさわしい憎き婆、ブルーハウダー校長の姿があった。


「情けない声ねえ本当に。何をしているんだいッ。硬貨でも探すくらいなら勉強しなさいッ」


「なんだよ…ブルーハウダー……先生か。ていうか違えよ、落し物を探してんだッ」


「ふん、怪しいねえ。こんな時間にコソコソと」


「あ~?! それを言うならお前……先生だってそうだぜ? こんな時間に何してんだよッ」


「……ちょっとね、用事があって帰ってきたら、ちょうどお前がいたのよッ」


「あ~、そういや先生の能力って色んな所に行けるからな、あれだろ? ワープっつう奴なんだろそれ」


「まあ……そんなとこ。私だって忙しいわあ。お前にかまっている暇はないのよ、今すぐ戻らないとねえ」


「へっそうかよ。じゃあな、俺だって忙しいんだ、とっとと帰ることだな」


「……お前は本当に口が悪いねえ。私はこれでも、この学園の最高権力者なのよ?」


「はいはい最高権力者様、俺はいまから地味に、卑屈に廊下を徘徊しなくてはならないのでさようなら」


「……」


 ブルーハウダーの忠告と威圧を無視してまた前かがみになって廊下を徘徊していく。


「……やっぱり、罰としてお前も来なさい」


 ブルーハウダーはいきなりこう言って俺の右腕を後ろから掴んで離さない。俺は無理にほどこうとしたが、こいつは中々、いやかなり力が強く、ほどくことができない。


「な、何だよっ」


「課外授業よ……少しは私も教師らしいことしなくちゃならないわねえ」


「お、おいッ離せ離せ」


「……それに……もしかしたらお前は知っていなくちゃならないことだからねえ」


 すると突然、俺とブルーハウダーが青く光っていく、蛍のような光の粒子が俺らを包んでいき、ついには視界が青色の光で包まれたかと思うと、バシュンという空気を切り裂く音が響いた。

 足が感じていた廊下の硬い石の感触が消え、宙に浮いたように足裏の感覚がなくなったかと思うと1秒後には、また再び足裏に感覚が戻った、しかし、先ほどとは異なり何か柔らかい体毛のような感覚を感じた。

 視界にある光が段々減少していく、鼻からは木々の匂いを感じ、肌はそよ風の流れを受ける。


 「ついたわよ」


 目を開くとそこには広大な野原が広がっていた。俺はどうやら野外に出てしまったらしい、それもかなり遠い。こんな壮大に広がる自然を俺は知らないし、見たこともない。


 そして何より驚いたのが、黒い靄? いや霧? 形容しがたい黒い 何か が延々と大地に居座っていた。まるで大陸を遮断し、何も寄せ付けない壁のように、有り余る存在感を堂々と醸し出しながら、はっきりと北から南へ絶えることなく横断していた。

 例えるならば空に浮かぶオーロラのようだ、揺らめき動き形を変えながら、野原が広がるはるか東にはっきりとその存在を持て余している。それは夜中で見えずともはっきりと視認できるほど無辺際に顕在している。


「な、…………なんだよ……あれ……」


「あれが我々人類を閉ざす存在、あの黒い膜から向こう側に我々は侵入できないの」


「……は?」


「人類の限界を表す境界線 カタストロフィラインよ」


 ブルーハウダーはかつてないほど真剣な表情で、淡々と話す。彼女の顔は良く見えなかったものの、一瞬見えたのは、彼女が血が滴るほど強く下唇をかみしめている様子であった。まるで親の仇と対峙したかのような険しい顔。


 この時はまだ、幼く、無知な俺は、なぜブルーハウダーがこんなにも怒りに満ちた顔をしているのかが、微塵も理解が出来なかったのである。


 


 











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