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暗殺者は世界に恐怖を知らしめる  作者: 永山ぴの
1章『殺し屋と女子高生』
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1章7話

7話~敵~




 早野ユズを殺す。

俺がそう宣言し、『トゥルース』内で作戦が進んでから数日後。

ユズ、そして依頼人の瀬川アカネの通っている高校の校舎裏で俺は突っ立っていた。

ちょうど俺の真上の木はユズが落ちてきた木だが、今待っているのは早野ユズではない。


「殺し屋さん、お持たせしました」


 ふと、少し遠くから声がして振り向くとそこに人影があった。

すると人影は歩み寄ってくる。

それも当然だ。

この人物は俺が呼び出したのだから。

「瀬川アカネ……やっと来た。早く」

「そんなに急がないで下さい」

呼んだのは、ショートカットの髪型のこの女子生徒、瀬川アカネだ。

 ユズほどではないが、整った顔立ちの依頼人は俺の前で立ち止まった。

「何かご用でもありましたか?もしかして、早野を殺せないとか……」

「違う、そうじゃねぇ。作戦を伝えに来たんだよ」

アカネは予想外だったのか、「あらー」と感心したように声を漏らす。

それでそれでと聞きたそうなので、俺もさっさと作戦を話す。


「ユズはお前が誘き寄せろ」


「わ、私が!?」

またまた意外な作戦だったのか、動揺したようだ。

「お前も依頼人ってなら相手に恨みやらなんやらあるだろうけど。でもアイツは格闘技もやってて運動神経も良い。何故か誘拐とかに巻き込まれるっぽいけど全部1人で回避してるしな」

「もしや、私が誘き寄せてる間にあなたが襲いかかると…?」

俺はコクリと頷く。

 そう、これが作戦だ。

アカネに気を引き付けて貰っている間、隠れている『トゥルース』が4方向から襲いかかる。

大掛かりだが、これが最適なのだ。

 何故なら、ユズは本当に戦えるほど実力がある。

この前、下校中に何やら厄介な男に絡まれているのを見た。

だがアイツは軽々と2メートル近くも跳んで後ろから頭を殴りつけたのだ。

そんな奴と1対1で殺し合う展開となってはどうなるか分からない。


「すごい!!」


 するとアカネは声を跳ね上げた。

ズイッと俺に顔を近付けて、何やら感動している。

「まあまあ…!流石はプロの殺し屋さん!私、喜んでご協力します。それで早野を抹殺できるんですよね」

「あ、あぁ……」

あまりの勢いに少し引きそうになる。

だが依頼人だから相当な事情があるのだろう。

それにしても目に見えて喜び過ぎだと思う。

 するとアカネは、ハタと勢いを止めた。

何やら盛り上がった自分が少し恥ずかしかったらしい。


 ──こんな感情的な依頼人見るのは珍しいな。


そう思ったが、まぁそういう人もいるのだろう。

 今までは、暗い雰囲気の依頼人や、ただ憎々しい相手を消し去ることしか考えていないような依頼人ばかりだった。

そう、まるで狂気に満ちたような奴らばかりだったのに。

早野ユズという人物を殺すのはまるで当たり前ができるようになったという子供のように喜ぶのがこの女だ。

気になってくるが、俺が聞いたりするような事ではない。

 「コホン……取り乱してしまったわ。では殺し屋さん、日時はどう致します?」

アカネが訊いてくるので、背後のフェンスに立て掛けてあったケースの中からノートパソコンを取り出す。

すぐに起動して、前回使用したときから開きっぱなしの画面を見せる。

そこには、作戦などの詳細が書かれているのだが、俺が指で指したのは日時の欄。

「ここに書いてあるだろ。明日の放課後、決行」

「ふむふむ……わかりました」

アカネは頷くと、画面から離れる。

 俺もパソコンを一旦閉じ、ケースに適当に投げ込むとアカネがパンと両手を合わせる音がした。

「やりましょう、殺し屋さん!私、あなたの事を信頼していますので……早野はちゃんと殺して下さいね。あっ、わざわざ惨たらしくしなくても処理すれば問題ありません」

「あぁ、言われなくてもそうする」

 どうやら、相当な執着心はないらしい。

ユズがいなくなれば問題ないと言っている限り、俺が仕事を終わらせればそれで終わりだろう。

 「じゃ、用はそれだけだから」

俺は伸びをしながらそう言うと、アカネは頷く。

「了解しました。では私は休み時間のあとの授業がありますので」

するとアカネは礼儀正しいお辞儀をしてから、その場から去っていった。




「──さて、表向きはこんなもんか」






ーーーーーーーーーーーーーー






「──流石ね。あの殺し屋さん」

 私は校舎裏を離れ、教室に向かうべく旧棟の隣の新棟の廊下を歩く。

休み時間が終わるまではあと5分と少し。

余裕で授業開始までには着くだろう。

校舎が広いからか、この廊下の角には人がいない。

 あの人に殺しを任せれば、私の目的は果たせる。

早野を殺せればそれで良い。

そしてあの組織ごと…

……そうすれば、お父様が喜んでくれる!


「あ………」


 そう心をウキウキさせている時だった。

私の歩く向かい側から声が。

こちらに向かって歩いてくる人影があった。

同じ学年のピンクの長髪の生徒は私の顔を見た途端に思わず声をあげてしまったらしい。

「……あら。早野」

「瀬川さん……」

数メートル先で突っ立っているのは早野ユズ。

 どちらともその場に留まり、動かない。

私の額からは緊張感からか、汗が滲み出てくる。

 すると、私の口から言いたい事が我慢できないとばかりに溢れだす。

「私はあなたの事、許していないわ……あなたのせいで、お父様が!」

「ち、違います!!」

私の声に被せるように、早野は叫ぶ。

両手を胸の前でキュッと握ると少しだけ震えているのが見えた。

 ──それが何だと言うの。

 「私は何もしていません!だから言いがかりはもうやめて下さい……!」

「消えるのはそっちよ!」

私は右手の指を突き付けて言葉を続ける。

「あなたとあなたの父親のせいで、私のお父様が苦しんでいるのよ!そもそも……」

私は左手をギュッと握り、息を吸ってから叫ぶ。


「あなたの父親が殺し屋なんかになって、お母様を殺したのが悪いのよ!!」


 決定的な事実を突き付けると、ユズはフラりとした。

だが、グッとその場に踏み留まったようだ。

 それでも、私は止まらず次々と言葉は洪水のように溢れだす。

「あなたがその時止めていれば、お父様は絶望の底に落ちないで済んだわ!それなのに……あなた達2人だけの家庭だったんだから、止めなさいよ!!」

「ちが……お父さんは……き、きっと……そんな事は」

「早野家は許さないわ!」

 片足を怒りに任せて床を踏む。

ダンッと床に衝撃が走るが、それだけでは私の怒りはおさまらない。

 何故だろう。

殺し屋さんと作戦を話している時はただ嬉しかったのに、いざ本人と会えばこんなにも恨みが湧き出てくる。

 「社長だったお父様もお母様も、私も含めて幸せだったのに……!!それを、あんたの父親がお母様の命を奪った事で全てが崩壊したわ!ねぇ、この気持ちわかる!?」


 そう、昔、早野の父親が殺し屋になった。

その時のターゲットに私のお母様が狙われたのだ。

セキュリティー万全の高級住宅だったにも関わらず、殺し屋となったアイツの父親は糸も容易く忍び込み、お母様の部屋で刃物を使い、心臓を突き刺したのだ。

その瞬間、私はちょうどお母様の部屋に遊びに来たときだった。

部屋のドアを開けた瞬間に見えたのは、血塗れの母親と刃物を握る真っ黒な男。

そして、月明かりで男の顔が見えた時の衝撃は覚えている。

『──早野ユズの父親!!』と。

授業参観か何かで何度か見たことがある顔だった。

私は呆然と突っ立っていたが、早野の父親は私を狙うことなく、窓から去った光景は鮮明に頭の中にある。

それからお父様はお母様が殺された事にショックを受け、部屋に引きこもり続けた。

もちろん、そのせいで会社も上手くいかなかった。

小学校六年生の私は学校で早野ユズを問い詰めたところ、「部屋に置き手紙があって、私を置いて殺し屋になったんです。お父さんの居場所は知りません……!」と言った。

信じられなかった。

そこは、娘であるコイツが止めるべきだったのだ。

どうあっても、察して殺し屋になる事を止めてさえいれば、こうはならなかった。

だから報復のためにこうして同じ高校まで行き、チャンスを狙っていた。

暴力団をお金で雇って襲わせても返り討ちに会うし、屈強な男でさえ相手にすればコテンパンにされてしまう。

だから、こうしてあの殺し屋さんを雇ったのだ。

お母様が殺されたのと同じ職業の者。

──そう、人を消す本当のプロに。


 「瀬川さん……お父さんの事は………」

 早野が何かを言おうとした時。

2人だけだった廊下の一角にもう1つの足音が響いた。

私の後方からだった。

そちらを見ると、そこからは先ほど見た人影がいた。


茶髪の髪に制服を着た殺し屋。



「そこの2人、仲良くしようぜ」



そう言って、殺し屋は予想外な言動を起こしてきた。

だんだん真相も明らかになって、ちゃんと戦闘シーンもやっていきます……!

ちょっとずつですが、それぞれのキャラの事情や出来事も露になっていくので、楽しんでいただければ幸いです。

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