2章17話
17話~変更~
仮面男からの依頼のターゲットを処理したあと、『ライフ』と会った。
しかも、ターゲットは同じ。
こうなれば怪しまれるのは仮面男の方だ。
だが、俺は『ライフ』を通じて再び仮面男からの暗殺依頼を受けた。
更に驚くべきは、またもや『ライフ』とターゲットが丸被り。
依頼人も双方ともあの仮面男。
こうなればアイツを問い詰めるしかない……と、思ったのだが、『ライフ』は違った。
あの狂気的な集団だ。
〝これは大量殺人の競争だ〟等と言って勝手に勝負を振られ、あっという間に立ち去ってしまった。
何も言わずに勝負をドタキャンすれば、確実に何故来なかったのか問い詰められたり、約束事も守れない暗殺者だと思われる可能性だってある。
いや、自由勝手なのは『ライフ』の方だが。
ともあれ、一旦は拠点に戻り、滝澤さん達に相談するしかない。
「──ええぇ!?勝手な大量殺人競争を受けた!?」
俺の説明を受けたリユがオーバーリアクションで椅子から立ち上がった。
同じく円形のテーブルに座る滝澤さんとアオトはあまり態度には出さないが、多少なり驚いてはいるらしい。
ユズは学校にいる時間帯なのでこの場にはいないが、今回の件は危険な対立になる可能性が高い。
むしろ、なるべく巻き込みたくはないが──。
と、滝澤さんが腕を組ながら呟く。
「『ライフ』か……なるほどね、おかしな集団だ、うん」
「ああ。しかも、どいつもこいつも狂気に満ちてる。あんまり相手はしたくなかったんですけど……」
「そうか。だが、自由すぎる相手だと、向こうから何をして来るかわからない。…………うん、受けよう」
「マジで!?」
滝澤さんの答えに再びリユが驚きの声をあげる。
叫んでばかりで落ち着かないリユに、アオトは「落ち着いて」と声を掛けるとリユはハッとして座り直した。
それを確認し、滝澤さんは口を開く。
「これは、その……仮面男だったか、その人から受けた依頼でもあるんだろう。なら、勝負云々はともかく、ユキト君は暗殺者として行動すべきだ。競争だなんだのは気にしなくていい。だから、そのパーティーに行くべきだよ、うん」
そう言って、俺をジッと見る。
確かに彼の言うべきだ。
さすがは長年の殺し屋経験で活かしてきた頭脳。
冷静な判断であり、的確だ。
言う通り、別に『ライフ』の言っていた競争にこだわる必要はない。
気にせず、いつもの通り暗殺をこなすだけでも依頼を受けた事になるし、『ライフ』からしても勝負をしているように思われるだろう。
「わかりました。そう言う事なら、なんとかできます。単に殺せばそれで終わる……!」
俺は答え、グッと拳に力を入れる。
これなら、この件も乗りきれるだろう。
〝至って普通に暗殺依頼を受ける〟
そうしてしまえばいい。
そしてこの依頼が終われば、仮面男を問い詰めて全て吐かせる。
これで脅威はなくなるはずだ。
俺は思い、笑みを浮かべた。
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その頃。
「──皆聞いてっ!パーティーの招待状が来たの!」
私達のクラスの教壇の上に立ち、高々と招待状を掲げるクラスメートの一人。
確か、あの子はどこかの有名な会社の社長の娘だとか聞いたことがある。
わりと人付き合いもよく、好かれている子だ。
どこかの会社からパーティーの招待状は貰ったのだろうか。
突然の事でポカンとしていたが、クラス内の人達は徐々にざわめき始める。
そして段々とパーティーに参加できる事実を認識すると、全員の顔に喜の表情を浮かべる。
クラス内が賑やかになって行く中、私は自分の席でボーっとその光景を眺めていた。
すると、後ろから肩を触られ、振り返る。
そこには髪をサイドテールに結ったアユがいた。
「急にパーティーとか……変なの」
「そう思いますよね……でも、あの子が言うのなら本当なんじゃないですか?」
「んー……まぁそうだよね。あの子、すんごい御曹司の娘だとか、豪邸に住んでるだとか、総理の娘だとか、ごちゃごちゃだけど色んな噂流れるほど有名だからね」
「総理ってのは盛り過ぎなんじゃ……」
私が苦笑すると、アユは私の前の空いている席に腰掛け、椅子の向きを変えて私の机に肘をついて口を開く。
何か面白い話でもあるのかと期待する。
が、出てきた言葉は予想外だった。
「そういや、ユズってユキトの事好きなの?」
目をぱちくり。
私は数秒間固まったあと。
「ふっ、ふぇぇぇぇ!?」
自分でも驚くほどに顔がヒートアップし、真っ赤になる。
だが、クラスの賑やかさに叫び声が埋もれたので目立つことはなかった。
私はしばらく手をバタバタとして挙動不審になっていたが、時間をかけて落ち着くと、やっと口を開く。
「きゅ、急に何言うんですか……」
「あはっ。ユズ慌てすぎでしょ」
アユはクスクス笑うと、何やらニヤニヤしている。
「今度は何ですか……」
「ユズって他人の心はよく見えるくせに、自分の心には疎すぎて可哀想だなってねー」
「どういう事ですか、それ!」
声をあげて言葉を返すと、アユのニヤニヤは一層増していく。
私は口を尖らせていたが、ハッとしてスマホを取り出す。
「何?電話?」
「はい、少し」
私が席を立ち上がり、アユは首を傾げるのに頷き返すと、アユは「いってらっしゃーい」と言ってから机に突っ伏した。
短い休み時間だというのに、どうやら昼寝するらしい。
私は仮設校舎の廊下を出て、人気の少ない踊場へと辿り着き、ある人物へと電話をかける。
「ユキトくん、パーティーに行くこと知ったらどんな反応するんでしょうか……ふふっ」
私はユキトくんが出るまで、心をワクワクさせてスマホを耳に当てた──
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──『トゥルース』のメンバーにパーティー会場の場所、日時を伝え終わると、滝澤さんは顔をしかめていた。
その反応に疑問を浮かべていると、滝澤さんは口を開く。
「しまった……手伝いたいと思ったんだが、その日はアオト君と依頼を受けていてね。だいぶ遠くへ出向かないと……」
「あー、平気ですよ」
滝澤さんの言葉に俺は手を横に振る。
それでも滝澤さんは不安そうだ。
仕方なく、俺はリユの肩を掴み。
「コイツも連れて行くんで」
「えっ、私!?」
突然の事に声をあげるリユの耳に寄り、コソコソと話す。
「手伝ってくれたらパフェ奢る」
「私やる!頑張る!」
俺の言葉に元気を出し、椅子を蹴って立ち上がり、拳を上へ突き出すリユ。
その様子に苦笑する滝澤さんだったが、スッと目を伏せる。
それに気付いた俺達が首を傾げ、アオトが声を掛ける。
「どうかしました?」
「……ああ、そろそろ話したい事が………」
俺はその言葉にハッとする。
確か、ユズの暗殺依頼を受けた時に言っていた。
後で大事な話がある、と。
あの時は色々と慌ただしかったが、やっとか──と思った矢先。
「あ」
俺のズボンのポケットにあるスマホが震える。
取り出すと、ユズからの着信だった。
それを察したのか、滝澤さんは優しい顔で頷いてくれた。
大事な話があると言うのに、娘と俺の事情を優先してくれる気持ちはよく解らないが、彼なりの思いがあるのだろう。
俺は電話に出ると、機械越しでも可愛らしい声が聞こえてくる。
「あーユズ?」
『あ、ユキトくん!ごめんなさい、急に。仕事中とかじゃありませんでしたか……?』
「滝澤さんがいいって言ったから、少しなら大丈夫」
『お父さんもいるんですね。あっ、それでですね、すごいんですよ……!』
何やら声の調子を上げて話し出すユズ。
一体何だろうと思っていると、ユズの声が再び聞こえる。
『私達のクラスがパーティーに招待されたんです!確か、1週間後に』
「な……」
俺は思わず絶句した。
パーティーに招待されただけならまだいい。
だが、コイツは今、1週間後と言った。
それでは、俺の受けた依頼と同日だ。
唾を呑み、ゆっくりと聞き出す。
「おい、その会場って……」
『? えっとですね……』
少々間を置いてから、ユズからの返答が。
『1週間後の夜7時から、東京の──』
場所を聞き終わる。
途端、俺は強く拳を握った。
当然だ。
何故なら、間違いないから。
「………ターゲットは、ユズのクラス……」
俺は呟くと、その場の三人はこちらを見た。
その顔には、全員が驚異の表情を浮かべている。
滝澤さんは眉を寄せ、何やら考え出した。
だが、俺はそれよりも早く、何かを押し殺した様な声音で言う。
「『ライフ』は殺す」
「「「……!!」」」
その言葉に俺以外の三者が息を詰める。
通話越のユズは困惑したように『ユキトくん……?』と呟いた。
すると、アオトが俺に向けて言う。
「待ってくれ、ユキト。さすがにそれは危険すぎるよ。いくらキミでも、6人を相手にするのは……!」
「今さら何言ってんだ。ユズもいるしアユだって。これは完全に仮面男の企み。それを阻止するのに理由なんかいるか。『ライフ』も仮面男も怪しいし邪魔だから潰す、それだけ」
俺が言うと、アオトは黙ってしまう。
まだ何か言いたい事があるようにも感じたが、俺の決意を曲げない事を知っての事だろう。
すると、奥に座る滝澤さんが口を開く。
「ユキト君、ユズを守るのかい?」
「もちろん」
俺の返答に、何かを噛み締めるようにゆっくりと滝澤さんは頷く。
「良かったよ」
「は?何が……?」
俺が首を傾げていると、滝澤さんは苦笑して。
「ユキト君が誰かのために動く子になるなんて思ってもなかった。しかも、娘のために……ありがとう」
そう言って、頭を下げた。
俺は思わず目を見開いたが、すぐに気を引き締める。
「ああ、任せて下さい」
俺のしっかりした返答に滝澤さんは満足そうに頷いた。
そして滝澤さんはリユの方へと向き。
「ユキト君と娘を頼むよ」
「お姉さんだもんね!任せとけーっ!」
宣言し、自信あり気に胸を張る。
なんだろう、どこか頼りない。
だが、リユの腕は本物だし、きっと大丈夫だろう。
と、持っていたスマホから声が。
『あの……なんとなく、聞こえました』
「………俺が」
言おうとした途端、ユズの声が被る。
『私も手伝います!』
ハッキリした声は、きっと滝澤さん達にも聞こえたのだろう。
だが、滝澤さんだけはわかっていたと言いたげな顔だ。
「またそれかよ…… 今回のは殺し屋を相手にする。死ぬ可能性は高い」
『はい、それでも構いません。アユだって狙われる側になっていますし……それにユキトくんに死なれるのも困りますから』
俺はその言葉に先日の言葉を思い出す。
〝死なないで〟と。
そうなれば、仕方ないだろう。
俺は小さく息を吐いてから。
「無茶は禁止。あと死ぬなよ」
『はい……!』
耳にユズの嬉しそうな声が響いた。
俺は思わず苦笑し、電話を切ろうとする。
が、滝澤さんが声をかけた。
「あ、ユキト君。ユズと……瀬川アカネも呼んでくれないか?」
突然の言葉に思わず固まる。
だが、すぐに滝澤さんは続きを口にする。
「大事な話をしよう」
緊張した面持ちでそう言った。




