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暗殺者は世界に恐怖を知らしめる  作者: 永山ぴの
1章『殺し屋と女子高生』
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1章4話

ヒロインこと、ユズが本格的に出てきます!

頑張って文章力上げて続けていくんで、良ければこの先も見ていって下さい

4話~依頼人~



 人の行き来が少ない校舎の廊下の一角。

俺は目の前のピンク髪の女子生徒、早野ユズに校舎内を案内してもらっている。

と言っても、向こうから強制的に連れていかれた気もするが。

「この一番端の教室が3つ目の自習室です。と言っても、ここを使う人は少ないんですよね。玄関からも教室からも一番遠いので」

「へぇ……じゃあ、人通りが少ないとも言えんのか」

「──? そうとも言えますね」

ユズは俺の呟きに不思議そうな表情をしている。

 正直、このユズと言う生徒は俺のターゲットであり、命を奪う相手なので何かを聞かれたところで困ることはない。

もしも、何の関係のない人物に計画を知られてしまえば、俺が暗殺者という事がバレる。

そうなれば、場合によっては口止めをする事になってしまう。

なるべく、依頼人がターゲットに選んだ人以外を傷付ける事はしないというのが『トゥルース』の方針でもあるのだ。

だが、ターゲットが俺の計画を聞いていたところで他人に言いふらさなければ問題はない。

どのみち、死んでしまうのだから。

 「名前は……ユキトくん、でしたよね。他に案内して欲しいところはありますか?」

ユズが覗き込んで訊いてくるので、俺は考えていたことを頭の隅に置いておく。

「あー……じゃあ、屋上とか見たい」

「いいですよ!向こうの廊下の階段を上ってすぐだから行きましょう」

──屋上なら、作戦実行の時に目撃者が出ないで済むはず。

そう思って、俺は屋上を指定したのだ。

広さや高さ、屋上の普段の人数を把握しておきたい。

と、ユズは先導して廊下を進む。

俺も後に続いて歩く。

 この高校は人数こそ多いが、休み時間の終わり間際なだけあって、ここの棟には生徒が見当たらない。

さっき、1人だけ教師とすれ違ったくらいだ。

そもそも、俺たちのいる棟が一番古く、使われる事も滅多にないとか。

なのに何故、この女子生徒はわざわざこんなところまで来るのかが少し疑問だった。

いや、それ以外にも気になるところはある。

 「……なぁ、聞きたいんだけど」

「はい?答えられる範囲なら」

ユズは歩きながら、チラリと後ろの俺を見る。

「何でわかったんだよ、俺が転校生だって。この学校、バカみたいに多い生徒数のはずだろ」

「──それは」

ユズは少しだけ俯いてしまった。

すると、先程よりも小さな声が聞こえてきた。

「母親が言ってるんです。自分の身の周りの事は全て把握しろ、と。」

「それでも、学校の生徒全員を覚える必要は……」

ユズはふるふると首を横に振る。

「完璧でいなきゃダメなんです。全部成し遂げて、周りから称賛されるような……そうやって育ってきました。勉強も、運動もできるようにって言われて、小さい頃はそういうものなんだと思って、塾とか格闘技ばっかの日々で……ちょっと遊びたかったんですけどね」

後ろからじゃ歩く度に揺れる長い髪しか見えない。

だが、ユズが苦笑するのがわかった。

 そしてなんとなく、似たようなものを感じた。

家庭に縛られて生きているという事が──。

「あっ…ご、ごめんなさい!」

突然、ユズが足を止めて振り向いた。

「まだ会って間もないのに、いきなり私の話をつらつらと…!」

焦って、何やら恥ずかしそうにしている。

美少女だとどんな表情でもやっぱり可愛いらしい。

「いや、構わないって。そういうの苦労するだろ。……なんとなく伝わるから」

「そう……ですか?」

ユズは俺の顔色を伺いながら恥ずかしくて顔を覆っていた手を降ろす。

 すると、俺は自然と言葉を発していた。


「……けどさ……そういうの、疲れたか?」


「へ?」

ユズは間抜けな声をあげる。

突然の質問にわけがわからないというように。

「ああ、いや……生きづらくて逃げたいとかないのかって話」

するとユズは数秒の沈黙のあと、すぐに答えを出した。

「はい、疲れちゃいます。今言った事が全てじゃないんですけど……全部含めるとパンクして爆発しちゃいそうですね」

苦笑いで言うが、すぐにパッと微笑む。


「けど、逃げたら全部無駄になっちゃいますから!ここまで色々やってきたなら、逃げる事は難しいと思います。いつか、生きやすいところが見つかるまでは頑張ったみたいです」


「そうか」

ユズの答えに、俺はそれだけ言う。

 ──何聞いてるんだ俺、アホか。

そう思った。

これから殺してしまう相手の人生論なんて聞くものじゃない。

もし、もしもだ。

その境遇に同情なんかして、殺すことを渋ってしまったら仕事にならない。

だから今まで、ターゲットの事情には触れてこなかったのだ。

 「ユキトくん、ここです。着きましたよ」

ユズが俺の袖をクイクイと引っ張って現実へと引き戻す。

階段の上にある、小さな扉。

どうやら、ここから屋上に繋がるらしい。

ユズが階段を駆け上がり、扉を一気に引く。

俺も急いでその後をついていく。

 「すごい!見てください、ユキトくん!」

屋上に飛び出すと、ユズは風を受けて気持ち良さそうにしている。

淡いピンク色の髪がサラサラと流れ、制服のスカートもなびいているのが、よりいっそう早野ユズという美少女を彩っていた。

 「もしかして、あんまり来ないのか?人もいないし」

見渡すと、屋上には人ひとりいない。

「屋上を解放してるのは、この古い棟だけなんです。私も最近知ったばかりなんですよ」

そう言うと、ユズは鉄柵へと寄り、身を乗り出す。

「危ないからあんま乗り出すなよ」

「えー……けど、また受け止めてくれますよね!ユキトくんが」

「ここは無理だろバカ」

 そんなやりとりをして、屋上から辺りを眺めていた。

すると、学校の予鈴が響く。

「あっ、もう休み時間終わりですか!?ユキトくん、戻りましょう」

そう言ってユズは乗り出していた柵から離れていく。

だが、俺には授業を受ける教室などない。

制服を着ただけの暗殺者なのだから。

「俺はサボるから、行ってろ」

「ええ!?もう……次の授業は受けてくださいね」

「気が向いたら」

ユズは手を振ると、走っていってしまう。


 適当に理由を付けて一緒に校舎に戻る事を回避すると、気が抜けてしまう。

「ふぅ……疲れるヤツだな」

本当に元気なやつだった。

いきなり木から落ちてきて、お礼を言われて、強制的に校舎案内へと連れていくような。

そして、その早野ユズを俺は殺すのだ。

 改めてそう自覚すると、俺の視線は入ってきた扉と向く。

──屋上に出た時から気になってはいた。

「誰だよ、そこにいるのは!」

叫ぶと、扉が開く。

そこから一人の女子生徒が出てきた。

早野ユズではない。

この学校のブレザーにスカートに身を包み、髪はショートカット。

少しだけつり上がっているような目の持ち主は、1歩だけ俺の方へと近付く。


「こんにちは、殺し屋さん」


女子生徒はそう言ってニコリとする。

「───誰だよ」

 ぶっちゃけ、怪しい。

俺とユズが屋上へと出た時から気配がしていた。

だが、ユズが去るまで明らかな敵意は感じなかった。

そして、俺が殺し屋という事も知っているのだ。

 「ごめんなさい、突然で。私、あなたに依頼した者です」

女子生徒──いや、俺の依頼人はペコリとお辞儀をして見せた。

「ああ……なんだ。依頼人か」

「ええ、瀬川アカネと言います」

「報酬は仕事を終わらせてからだろ」

「それはそうですけど。ちょうど二人が屋上に行くのが見えたものでして」

どうやら、この依頼人のアカネは俺達を見かけて、俺が殺し屋だと気付いて後を付いてきたらしい。

 「それにしても、プロなんですね!」

アカネは突然、顔を近付けてきた。

なんというか、圧がすごい。

「ターゲットとある程度仲良くなって、人気のないところに誘い込んで殺っちゃうんでしょうか?」

「あ、ああ……まぁ」

アカネは感心したようにうんうんと頷いて、再び屋上の扉へと戻る。

「では任せますね、殺し屋さん。早野ユズの始末をお願いします」

「………ああ」

アカネが扉の奥へと消えると、俺は考えた。


「──なんか考えてる」


そういう目だった。

あれは、何か考えがあって企んでいる時の。

なんとなく、目でそういうのが伝わるのだ。

 俺は屋上で突っ立ってしばらく考えた。


「さて、どうするか……」


そう呟くと、空を見上げた。

だが、もちろん空は答えなどくれなかった。

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