2章2話
2話~迷子~
楕円形に作られたプールの上で浮かびながら、一定方向に流れる。
いわゆる、流れるプールで遊んでいる。
と言っても、ユズは一人でどんどん進み、楽しんでいるようだ。
俺とアユが二人で会話しながら進む状況になっている。
それも、アユが俺と話がしたくてユズは先に行くように仕向けたわけたが。
「で?ボールのパスの仕方を学びたいのか?」
「はぁ!?違うし」
食い気味で否定したあと、アユは自身の浮き輪に体重を掛けて浮かぶ。
「アンタの正体が怪しすぎるって話」
俺達の周りは純粋に泳ぎ楽しむ人達が囲む。
だが、俺とアユの間には険悪な雰囲気が漂う。
「ただの学生」
「嘘。だってもう学校来てないくせに。今、仮設で立てられてる校舎中探し回ってもいないし、先生にも聞いたから」
やはり誤魔化せないらしい。
それに、爆発まで起きた校内でユズと一緒に戦い抜き、校庭まで出てきたのだから〝ただの学生〟で納得するはずがない。
「……まぁ、普通じゃないのは確かだ」
「やっぱり……!ねぇ、アンタ何者なの?警察とかじゃないよね。危ないことしてんじゃないの」
アユは水をかき分け、浮き輪ごと近付いてくる。
俺は後ろに引いたりせず、言葉を発する。
「……もし、俺がその危ないことしてる奴だったらどうするんだ?」
「………」
俺の言葉にしばし黙り込んだと思えば、すぐに顔を上げる。
「ユズをそれに巻き込まないようにさせる」
「何でそんなにユズの事考えてるのか、聞いてもいいか」
「あの子、最初は私にとって神様みたいな存在だったから」
予想外な言葉に、俺は思わず笑う。
「ハッ。親友が神様ねぇ」
「何。文句あんの!」
「いやいや。それで、自分に取っての神様は守りたいと?」
「違う。私が昔助けて貰ったんだから、今度は私がユズ守るってだけ。恩返し」
そう言って、アユは奥で水を被るユズに視線を向ける。
「だから、アンタがユズに危害を加えるようなら……」
俺はアユの言葉を制止して、肩に手を置いた。
「何触ってんの……」
「とりあえず黙って聞け」
変質者でも見るようなアユの視線が痛い。
だが、俺は言葉を続ける。
「確かに俺は世間一般で誇れる事はしてない。でも、この前ユズを守ってやった後にお前はもう関わるなって俺は言った。けど、今度は自分が守って恩返しするって聞かなかったんだよ」
「た、確かにユズは優しいけど……!アンタも関わるなって言ったなら、意地でも追い返せばいいじゃん!」
つい声を張り上げるアユはハッとして、口元を抑える。
俺はため息ついて、再び口を開く。
「俺と一緒にいた黒いコートのおじさん覚えてるか?」
滝澤さんの特徴を言うと、アユは頷く。
「あれがユズの父親」
ぱちくり。
アユはポカンと瞬きして固まる。
ただ水の流れで前に進むだけだ。
数秒後、やっと脳の処理が追い付いたのか、ワナワナと腕が震える。
「なっ……えぁ………はぁ!!?」
周りに構わず、驚愕の声を漏らす。
バシャバシャと水を騒ぎ立てたかと思えば、俺の肩を掴んで揺らす。
「あの人がユズのお父さん!?んなわけないでしょ!だって失踪して、瀬川って子のお母さんを殺して消えちゃったって……!」
「落ち着け、声がデカイ」
最後の方の発言はマズイと気付いたのか、慌てて口を結ぶ。
「俺もあの日、初めて知った。けど、だからこそ父親と話がしたいからユズは俺達と関わってる」
アユは何も言わず、再びユズを見つめる。
今度は先程とは違い、迷いのような感情が見える。
「この分、ユズは必ず守る。それは決めた。これだけ伝えるから、俺の事には触れるな」
言い切り、水中を歩いて前へ進む。
だが、アユに腕を捕まれる。
「まだあったか?」
「ほ……う……に…」
「え?」
ボソボソ喋ったかと思えば、顔を上げる。
「本当に……アンタが、私の親友……守ってくれるの?」
何かを期待するような表情で見つめてくる。
コイツもコイツなりに、思うこともあるのだろう。
だからこそ、ユズを守ると言い切った俺にすがりたい気持ちがもしかしたらあるのかもしれない。
「ああ、そうしてやるよ」
俺はアユの頭に手を置く。
「けど、俺も忙しいから学校でのユズは任せた」
笑みを浮かべ、言う。
するとアユは何に驚いたのか、コクりと頷く。
「わ、わかった。言ったからね?けど……」
目線を反らしてから。
「キモいから手をどけて……」
珍しく、照れて呟く。
ふむ。
俺はアユがツンデレという事を学んだ。
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「アユ、熱中症みたいです」
俺とユズは救護室からプールサイドへ出る。
あの後、炎天下の中遊んでいたらアユが熱中症になった。
担いで救護室まで向かい、熱中症だと言われたのでアユが回復するまで時間を潰すことになった。
プールとはいえ、屋外だから太陽の日は射すし水分補給も忘れやすい。
熱中症になるのも無理ないかもしれない。
「けど、アイツ置いて遊ぶのも気が引けるな」
「そうですね……何か食べてましょうか」
俺達は屋台を順に見て行き、何か食べるのもはないかと探す。
かき氷、ラーメン、焼き鳥……看板を見ながら歩いていくと、耳に泣き声が響いた。
それも、幼い女の子の。
「ユキトくん、あの子……迷子じゃないですか?」
ユズが木陰で座り込む女の子を指す。
おそらくだが、親子でプールに遊びに来てはぐれてしまったのだろう。
「行きましょう!」
「あっ、おい」
ユズが途端に走り出すので、慌てて追いかける。
近付き、目線を合わせてユズが話し掛ける。
「こんにちは。一人ですか?」
泣いたいた女の子は顔を上げてユズを見る。
「ママが……いなくって………」
涙目のまま、ボソボソ話す。
「……探したいんだろ」
俺がユズの背中に言うと、彼女は振り向いて苦笑いで頷く。
「あはは……いいですか?」
「今回は特別。………めんどくせぇ……」
俺も近付き、少女に手を差し出す。
「行くぞ」
「えっ……あの、いいの?」
おずおずと手を取り、立ち上がる。
俺が無愛想なのに対して、ユズは微笑む。
「はい。三人であなたのお母さん探しましょう」
すると、少女はパッと笑顔になって頷いた。
「うん!」
「──ママー!」
案外、女の子の母親はすぐに見つかった。
女の子を挟むようにして三人で手を繋いでいたが、女の子は母親を見るや否や抱き付く。
二人でそれを見守っていると、母親が俺達の存在に気付いて寄ってくる。
「あの、娘をありがとうございます」
母親は俺達にお礼を言い、一枚のチケットを渡してくる。
「これ、ちょうどカップル限定の食事券で……」
「ち、違います!!そんなんじゃないんです!」
ユズが真っ赤になって拒否する。
「お礼もいりませんから!」
「でもおねえちゃんとおにいちゃん、なかよしだよね」
「ふぇっ!?」
「それほど仲良しでもねぇけど……」
二人して狼狽えている中、母親はどうぞどうぞと食事券を渡してくる。
「だっ、だから違いますってば!!」
母親はそれでも何かお礼をしようとしていたが、俺達は
断り続け、親子は去った。
何故か、今のでどっと疲れた。
二人してふぅと息を吐いて離れて行く親子を見る。
親子は仲良く手を繋いで、笑みを浮かべて笑っている。
どこか、微笑ましくてホッとしてしまう。
「なんかいいですね、親子って」
「ああ」
ユズの言葉に頷き、遠くを見る。
すると、視界の端に見覚えのある人物が。
「困ります!どいて下さい」
サイドテールに髪を結った女子高生が男の集団に囲まれていた。
「えっ、嘘……アユ!?」
ユズも気付いたのか、すぐに駆け寄ろうとする。
だが、俺はユズの腕を掴んで止める。
おそらく、アユは体調が回復したからプールサイドに出たのだろうが、こうして狙われてしまったのだろう。
「勝手に行くなバカ」
「じゃあ、ユキトくんも一緒に……」
「ユズが行け」
「へ?」
予想外だったのか、ユズは目を丸くする。
すると戸惑いの声で聞いてくる。
「あ、あの……あ、いや私一人でも大丈夫なんですけど………ユキトくん、助けないんですか?」
「誰が助けないって言ったんだ」
俺はため息を付いたあと、水着のポケットから防水加工された仕込みナイフを出す。
「ああいうのは強行手段じゃないと抜けれない」
「ちょっ、殺し屋は封印して下さいね!?普通に!武器はやめて下さい!」
ユズが慌てて腕にしがみつく。
「冗談。まぁ一発くらいは殴らないといけないのは事実」
「じゃあ私が……」
「いや」
ユズは首を傾げる。
「暗殺者ってのは見つからずに仕事をこなすんだ」
俺は確信を持って、笑みを浮かべた。




