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暗殺者は世界に恐怖を知らしめる  作者: 永山ぴの
1章『殺し屋と女子高生』
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1章2話

ぶっちゃけ、前回のは1話より若干プロローグ感があったかな?って思ってるんで、こっからが本番的な感じですかね

2話~仕事~



 古い建物に囲まれ、明かりもない小道を俺は真っ直ぐ歩いていた。

静寂の中に足音だけが響く。

そして、俺の視界の先に見えるのはごくごく普通のサラリーマンらしき男。

 何の怪しいところもない一般男性のように見えるのだが、この男が俺の狙いなのだ。

サラリーマンの自宅がこの辺りなのは調査済みなので、待ち伏せしてすれ違いざまに仕事をこなせばいい。


 ゆっくり足を進めているところで、耳に掛けている通信機からノイズ混じりの声が聞こえる。

『ユキト君、狙いは気付いてない。作戦通り、速攻で頼むよ』

「了解っす、滝澤さん」

殺し屋としての師である滝澤ハジメさんからの指示通り、事前の作戦を思い出す。

 作戦としては、俺がサラリーマンに向かって歩き、すれ違いざまに即殺す。

滝澤さんは近くの建物の屋上から周りやターゲットの様子見。

監視カメラにも映らないこの場所なら気付かれずに終わらせられるはずだ。


 俺は右手で懐にあるダガーを握りしめる。


──サラリーマンとの距離5メートル。


そして少しだけダガーを懐から出す。

サラリーマンは歩きながらスマホを見ている。

歩きスマホをしている相手ならば、即座に終わらせられるだろう。


──サラリーマンとの距離3メートル。


着ているコートをなびかせながら、確実に近付く。


──サラリーマンとの距離2メートル。

────1メートル。

──────30センチ。


すれ違う手前、俺は一気にダガーを左から右へひと振り。

勢いのまま、数歩だけサラリーマンから遠ざかる。

──手応えを感じた。

そう思い、くるりと振る向くとサラリーマンはドサリと音を立てて倒れた。

うつ伏せに地に倒れ、ダガーで切った腹部からじわじわと出血していくのがわかる。


 「ふぃ…」


緊張感からの解放感と共に、思わず声がでる。

だが、すぐにダガーを何回かその場で振って、軽く血を落とす。

そしてサラリーマンの側にしゃがむと死んでいる事を確認する。

息は完全にしていない。

 たかがダガーだが、2年も使い込まれた俺愛用の武器はしっかりと相手の肉体の奥まで切れる。

このダガーが高値だったという理由もあるかもしれないが。


「うん…相変わらずスパッやるね、キミ」


背後から声が聞こえ、振り向くとそこには滝澤さんがいた。

「スパッと終わらせた方が楽じゃないですか。めんどくせぇし」

 滝澤さんは黒いコートに身を包み、The・殺し屋感が半端ないいつもの服装だ。

だが、俺も似たようなものだ。

今着ている薄地の黒コートにYシャツと長ズボンは滝澤さんがくれたものだった。

暗殺者なら目立つことは良くないと言われ、この服を貰ったのだ。

 そんな事を思い出していると、滝澤さんは俺の肩に手を置いて話しかける。

「そろそろ撤収しようか。見つかると大変だからね」

「ういっす」

俺達は痕跡をできる限り消し、その場を後にする。


こんな非日常は、俺の生き方に最適だった。




ーーーーーーーーーーー




 「ユキっちおかえりー!」

路地裏にある入り口から拠点へと戻ると、俺の首に巻き付いてくる女がいた。

だが、俺的には苦手なやつだった。

「暑いウザイ離れろ」

「冷たいなぁ…あ、ハジメさんもおかえりー!」

 この元気なやつは、俺が暗殺者へと転向してから出会った女だった。

年上なのに、バカみたいに元気なのだ。

金髪のボブヘアーに肩だしタイプの服というとても殺し屋とは思えない容姿でもある。

なのに、拳銃の腕は俺や滝澤さんよりもずっとプロ。

それが、この神奈リユという女だ。

「リユちゃんは元気だね。私たちも真似してみるかい?ユキト君」

「一生嫌です」

滝澤さんの冗談も流し、俺は拠点を改めて見回す。

 広い部屋の真ん中に10人も座れそうな円形状のテーブルがあり、ソファーも置いてあるが、壁の一角には銃や刃物がズラリと並ぶ。


 この拠点に来たのは2年前だった。

その日、俺は母親に殺されそうになるまでに追いかけられた。

元々、家庭でも学校でも誰も頼りにはしていなかった。

こんな中で生きられるのか、と考えた瞬間に転び、刃物が襲いかかってくる寸前だった。

その時、滝澤さんが俺を助けてくれたのだ。

母親が滝澤さんに殺された瞬間、実は少しだけ罪悪感も残った。

だが、俺は滝澤さんの手を取って暗殺者になる事を選んだ。

そこでなら、俺でも自分の意志で自分の思ったように生きられる道が見つかるんじゃないかと。

 そうして案内されたのが殺し屋組織の『トゥルース』というところだった。

拠点やら組織やらがあったのは予想外だったが、案外居心地は良かった。

組織の中でもお互いに干渉し過ぎず、仕事をこなしていく空間。

大人に囲まれようと、殴られる事もなかった。

 それから1年ほど滝澤さんから暗殺技術を教わった。

俺は身体能力が高いと言われ、習得は早かった。

 そこからまた1年、本格的に仕事を始めてからは慣れる事もでき、今に至る。

 もちろん悪いことをしているという自覚はある。

だが、こうしていないと生きられないのだ。

人を信用できないのだから。

俺の生きるところが他にないのだから。


「おーい?ユキっち?」

ふと顔をあげると、リユが俺の顔を覗き込んでいた。

「ああ…考え事」

そう答えると、「ふーん」と言って滝澤さんの元へと行き、何やら話始めた。

リユは暇そうにちょこまかと動いている事から既に今日の仕事は終わったらしい。


 俺の今日の仕事はサラリーマンの暗殺だけだったため、もう夜とは言えど、暇になってしまった。

どうしようかと考えていたが、テーブルに置いてあった自分のパソコンを起動する。

別に何かしようというわけではないのだが、とりあえず暇で開いたのだ。

すると、仕事用のメール箱に1件の新しい依頼が来ていた。

即座にメールを確認する。

 内容は、同じ学校の女子生徒を暗殺してほしいとのこと。


「うーん…学生なんて久々だね」


突然の声に驚いて後ろをみると、滝澤さんが画面を覗き込んでいた。

「何盗み見てるんですか…」

「いやぁ学生の暗殺ってのはわりと面倒だよ」

「えっ。そうなんですか」

「学生って1日の大半は学校で過ごすだろう。帰り際に殺っちゃうってのがよくあるけど…この依頼人、何故か校内で殺してほしいみたいだね」

滝澤さんがパソコン画面に指差すと、そこには言う通り、校内での殺害希望と書かれていた。

理由はわからないが、あまり依頼人の諸事情を聞いてはいけない。

「難しいけど…ま、やるかやらないかはユキト君次第だよ」


俺は暫し考え込む。

方法ならいくらでもあるが、難易度的に言えばかなり難しい。

依頼人の希望とあらば、校内で仕事を終わらせなければならない。

だが、ライフルでの狙撃となっては目撃者が出る可能性もある。

どうするべきか…


「じゃあさ!変装して乗り込むってのは?」


再び、パソコンの向かいからリユが勢いよく提案してくる。

「えっと…学生のフリして暗殺するって事か?」

「そ、そ!それならターゲットを人気のないとこに誘導して1対1で殺れるでしょ」

Vサインをして、どうだとばかりに胸を張る。

確かに、変装すれば簡単にターゲットに接触できるかもしれない。

変装と言っても、制服を用意するだけだし準備も手短に済む。

「よっし…受けるか」

俺はそう決めて承諾の返信を打ち始める。

 すると、滝澤さんが小声で話しかけてきた。

「この仕事終わらせたら、そろそろ言いたい事があるんだ」

「愛の告白ですか?悪いけど、俺そーいう趣味はないですよ」

「あっは!ハジメおっさんとユキっちくんのラブコメじゃん!」

俺の冗談にリユはケラケラ笑う。

滝澤さんはと言えば、苦笑いをしている。

「冗談ですよ。その話、今聞かせてくれないんですか?」

「まぁ…『トゥルース』全体の問題だからね。…本当に大事な事なんだ」

そう言うと、滝澤さんはそそくさと拠点から出てしまった。

「あれれ。ハジメさんもう寝ちゃったの?」

「そうなんじゃねぇの」

 俺は返信を送ると、パソコンを閉じてそのまま立ち上がる。

「じゃ、俺も寝るから」

「はーい。おやすみユキっち」

何故かリユの方がアクビをしながらブンブン手を振ってくる。


 俺は部屋の右奥にある扉を開けて廊下を歩く。

この先に俺の寝室があるのだ。

他にも空き部屋はあるが、俺以外のメンバーは基本的に自宅へ帰って寝るらしい。

部屋に入り、パソコンをベッドの端に放り投げると自分もベッドにダイブ。

コートだけ脱いでそのまま布団を被る。

うつ伏せ状態のまま、もう一度パソコンを開くと依頼人から再びメールが来ていた。


「ターゲットは…早野ユズ、か」


名前やら情報の確認をしてパソコンを閉じる。

するとすぐに眠気に襲われる。


……明日から制服の準備をしよう。


そう決めて、俺はゆっくり瞼を閉じた。

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