1章1話
始めたばっかですが、書いてみたのでぜひ…!!
1話~機転~
俺の人生は悲惨だ。
小さい頃から両親に愛されず、ただ殴られる。
母親は俺をストレス発散のための道具のように愚痴を吐き、父親は俺に関係のない事まで俺のせいだと言ってぶつのだ。
母親と父親同士の中も徐々に悪くなり、家庭は最悪の状態だった。
それだけでも俺の人生の半分は不幸に満ちた。
もちろん、小学生にもなれば自分が受けているのは親からの虐待という事に気付いて学校に相談した。
それでも教師は誰も味方してくれなかった。
「考えすぎだ」と言われた。
俺の家庭を見たことがあるのか。
文句を言いそうになった。
けど、そこで言おうとした言葉を飲み込んだ。
大人に反発したら殴られる…
その思考が頭を巡った。
それ以降は誰も信用しなくなった。
両親の悪い噂のせいで、俺はクラスで──いや、学校で完全に孤立した。
そんな人生を歩んで15年。
中学3年生になっても俺、稲垣ユキトは人を完全に信じられない性格になった。
無駄な会話はせず、毎日勉強して食べて寝るだけ。
そんなつまらない日常生活に親からの暴力が降ってくるだけだ。
その日も、学校から帰宅するまではいつも通りだった。
友達と雑談をして帰るなんて事はせずに、帰路を真っ直ぐ進んでボロいアパートの自宅へと着く。
狭いリビングに入って、違和感があった。
荷物が散らばって片付けもろくにされていないのはいつもの事だ。
だが、母親は電気もつけずに薄暗い部屋の中、テーブルに突っ伏しているのだ。
そして今日は仕事が休みと言っていたはずの父親がいない。
「母さん…?何してんだよ。電気もつけないで……親父もいないのか」
同じ家に住んでいても話す事など滅多にないくせに、今回は少しばかり気になって話しかけるが、返事はない。
俺は通学用のバックを降ろして近寄ってみる。
「母さん……?」
それでもピクリとも動かない。
そう思ったが、母さんの口元がかすかに動いた。
「……んたの……よ…」
「え?」
聞き取れなかったが、その言葉は再びハッキリと発せられた。
しかも、絶叫に近い声で。
「あんたのせいだって言ってるのよ!」
反射的にビクリとして目を見開いてしまう。
「あの人なら出ていったわ!私を見捨てたのよ…!本当にとんだクズだったわ!」
この言葉だけでは詳細はわからない。
だが、何か喧嘩でもあって父親が家を出ていったという事だけはわかった。
俺は一瞬、いつもの愚痴かと思ったが違う。
目が違う。
まるで、俺を殺そうとするほど強烈で、憎悪に満ちている目。
次の母さんの行動で俺の考えは的中した。
「あんたなんか…いなければ……」
そう言って、母さんはキッチンに置いてある包丁を手に取る。
両手でしっかりと握り、その刃先を俺へと向ける。
このままだと殺される…!
そう思って、玄関に飛び込んで乱暴に靴を履き、ドアをぶち開ける。
「待ちなさい!!」
アパートから離れて走るが、母さんも追ってくる。
背中から、ゾワゾワと追い詰められている感覚に襲われる。
今までの暴力や暴言とは違う。
俺の命を絶とうとする感情は確実に俺に近付いている。
母さんは外に出てもなお、刃物を手に追いかけてくるのだ。
完全に正気とは言えない。
しかも、この辺りに人は少ない。
道には人を見かける事はなく、助けを求める術もない。
だが、人がいたところで自分は「助けて」と言えるだろうか。
人を信用できなくなった自分が、これ以上生きられるのか…
そう考えたところで、右足が小石に引っ掛かり、バランスを崩して前から転倒してしまう。
「いっづ…!」
痛みに襲われ、その場に座り込んで足をおさえる。
どうやら足首を捻ってしまったらしい。
「本当に…あんたのせいよ……」
後ろから冷たい声が聞こえてくる。
振り向くと、息を切らしている母さんが立っていた。
異物を排除しようとするかのような狂気の目。
母さんはゆっくりと包丁を振り上げる。
………無理だ。
そう思って、俺は諦めた。
目をギュッと瞑り、覚悟してその時を待った。
だが、いつまで経っても刃物は俺に突き刺さらない。
不思議に思って目を開けると、母さんは立っていない。
倒れていた。
横倒れになって、腹部から赤い血が出ている。
その血は地面を流れて徐々に広がっていく。
俺は何が起きたのかわからず呆然としていたが、もう一人だけ人がいる事に気づく。
黒いコートと帽子に身を包んだ男だった。
アニメや漫画にでも出てきそうな怪しい雰囲気を醸し出しているが、ただ見上げている事しかできない。
だが、その男の右手に血を被った短剣があった。
それは明らかに母さんを刺したものだった。
「キミ、追われていただろう。…もしかして驚かせてしまったかな」
低く太い声で話しかけてくるが、こっちには答える気力もない。
そもそも、この男を信用できない。
助けてくれたのは事実だろう。
だが、本当に助けるだけの目的だったのだろうか。
俺は疑うが、男はニヤリと笑って空いている左手を差し出してくる。
「…あ、あの……?」
訳がわからなかったが、すぐに男は話し出す。
「いい目をしているよ、キミ」
「は、はぁ…?それで?」
「うん…殺し屋にでもならないかい?」
その言葉は、何故か俺の中に深く響いた。
そこに、何かがある気がしたのだ。
そんな、非日常的な人生なら俺でも生きられるのではないか。
俺は無意識のうちに手を取っていた。
すると男は座り込んでいた俺を引っ張り、立たせてくれた。
「名前は何かね?ああ、私は滝澤だよ」
「ユキトです。稲垣ユキト」
──こうして、俺の人生は機転を迎えた。