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4-3 情報:私にやれること

 

 戦え……戦え……。


 幾重にも重なった声が私の頭に重く響いている。

 無限に反響し回り、やがて頭の中はその声だけで埋め尽くされていく。


「戦え……?だ、誰と、戦えば……」


 戦わなければいけない。

 何故?いつ、どこで、誰と?

 それは、誰のために_______________


「ナルカさんっ!!」

「……!」


 コヅエの声で我に返った。

 本当に息をするのも忘れ、戦いのことだけを考えていた自分に気づく。

 脳みそが何かの液体で満たされたような感覚だった。

 気持ち悪い、今までの私の人格が嘘だったと否定され、自分の存在自体が揺らがされたようだった。


「っは!はぁ、はぁっ!な、なに今の、うぇぇ……!」

「奴とまともに目を合わせたからですよ。二度となりたくないなら、奴の方は見ないことです」

「そう、するわ……」


 どっと来る疲労感に顔を顰めながら、私はその場にへたりこんだ。

 まだ、小さくだが声が頭に反響している。

 とてもじゃないが、もう“神その2”とやらを拝みたくはない。


「あれが神その2、“陸”をバキバキに崩壊させた生き物ですよ」

「……なんか、村の本で見た、竜?っぽかった。私にはそう見えたんだけど」

「竜、そうですね。アレはまだ“陸”が無事だったころに生きていた、竜という生き物に近い姿をしています。ですが近いというだけで、見れば分かりますがその全貌は何にも形容出来ません」

「コヅエは神の全身、見たことあるの?」

「いいえ。全く」


 コヅエは肩をすくめた。

 大量の“島”に埋もれていて見えはしないが、神その2には翼のようなもの少なくとも3つは生えている。

 目は爬虫類に近く、全身は鱗のようなもので覆われており、竜と違い尻尾はない。


「今あの生き物は封印されています。ですから、あのように眼やあらゆる力を使って、人間達を操ることしか出来ないのですね」

「封印って……あんな化け物を誰が」

「神その1ですね。どういうことか分かりませんが、2体の神はどうも敵対しているようで」

「神は2体、だけ?」

「ええ。自分が聞いている限りは、ですが。ちなみに竜人族に時を司る力を授けたのがその1の方です」


 あんな生物がもう1体いる、想像しただけでゾッとした。

 あんな規模の生物が2体もいるなんて、この世界はとっくに終わっていてもおかしくないのではないか。


「……ん?じゃあそのもういっこの神はどこにいんのよ。封印してるってことは、近くにいるわけ?」

「どこに……いやぁ今どこにいるかまではわかりませんが、結構ナルカさんの近くにあったんですよ?」

「はぁ?どうゆうこと?」

「“村”ですよ。あなた方の故郷。ナルカさんが落ちてきた所の“核”として、それは封印されていたはずです」

「“核”?なに、村に居たっての?」

「ええ……ですが、いつも同じ場所に感じられていた反応が、今はありません。どこかに移動しているのでしょうね」

「……そう。なんか、よく分からないけど」

「まあ生きているということは封印は続けられているということ。神その2が起き上がることはないでしょう……と、思いますよね」

「……?」


 ボ ゴ ォ ン !!


 唐突に大きな地響きが鳴った。

 耳を塞ぎたくなるような轟音にナルカは身構えるが、コヅエは依然として落ち着いていた。


「な、なに?!」

「お、ちょうどいい。見てくださいよ、ほら」


 コヅエが指さす先、私はその光景に目を疑った。


 海底に沈む神を下敷きにしていた“島”の1つ。

 重くのしかかっていたはずのそれは、まるで力を失ったみたいに上へ上へと浮き上がっていくではないか。

 やがてその“島”は海面へと到達すると、ザバンと音をたてて上へ、上へと消えていく。

 “島”のなくなった箇所には、海底の神の爪らしきものが見えていた。


「ちょ、ちょちょっと!どっか行っちゃったけど?!大丈夫なの?!」

「大丈夫、では無いですね。まあ、あんな感じに島がどこかへ行ってしまうとですね、この海底の神が少しばかり力を取り戻してしまうんですね」

「島、全部なくなったらどうなるのよ……!」

「この海底の神は復活します。そうなったらもう、色々と終わりですね」

「終わりって……!」

「要するにですね。そんなことになる前に、自分達はこの封印を解こうとしている輩を止めなきゃならないんですよ」


 コヅエはそれまで淡々としていた声や喋り方を一転させて話した。

 それまでは前座、まるでこれからが本題だ、と言わんばかりにコヅエは私の方を向き直る。

 おちゃらけた調子ではなく、真剣な表情でコヅエは続けた。


「そのために、自分達はこの海中を出て、上の連中の様子を見に行かなければなりません」

「……!へぇ、それで?」

「協力してくれますか?」


 コヅエはそう言って手を差し出した。


「なんだか、いきなりね」

「それくらいに急を要する話なのですよ」

「この海から脱出って、泳いで出るっての?」

「いえ、この海の水は触れるか飲むかをした時点で、神その2の“祝福”を受けることになるのでしません。自分の力で、この空間ごと上へ押し出します」

「……ちなみにその“祝福”は受けたら?」

「さっきのナルカさんみたいになって、死ぬか、奴の操り人形になります」

「はっ!なにそれ」


 海底に潜む神。

 それが目覚めればこの世界は終わるから、頑張って止めに行く。

 突拍子もない、悪夢みたいな話。いきなり言われて信じられるか?


「正直“上”がどうなっているのか自分にはわかりません。状況によっては、他の生物全てを相手にする可能性すらあります……どうです?それでも、協力してくれます?」


 だが、コヅエの目は依然として変わらない。

 本当のことを言っている目だった。


「世界救えって?他に仲間は何人いるの?」

「自分と、あと一人だけです」

「ふふ。世界の命運かかってるってのに、たったのふたりぽっち?」

「へへ、なんせ自分の仲間達はもうとっくの昔に死んだもので」

「……いいわ」

「え?」

「いいわ、協力してやろうっての!」


 差し出された手を勢いよく握った。

 どうせこんな退屈な場所にいても何も始まらない、ならばやるに決まっている。

 じっとしている方が、私にとっては地獄だ。


「ナルカ・ケルベヤン。世界を救った英雄の名として、この世に轟かせてやるんだから!」

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