4-2 情報:神の存在
無数の生命と青に包まれた世界の中、私が告げられたのは死の宣告であった。
「なっ、なに?私が死んでるって?」
はい、とコヅエは喜怒哀楽なしに返事する。
私はというと少しパニックになっていた。
何故なら私は今普通に生きている、いきなり言われても信じにくい。
そして、目の前の少女が嘘を言っているようにも見えない。
「なるほど。ここが死後の世界ってんなら、まあ納得は出来るかも」
「いや、別にそういうんじゃなくてですね」
「じゃあ……もしかして私は一回死んで、何かしら不思議なパワーで生き返りましたーって感じかしら?」
「お、察しがいいですね。その通りです」
またもや少女は表情を動かしすらせずに答える。
だが、その通りと言われて信じられないかと言われれば、実はそうでもない。
そういうことが出来る人間は身近に居たからだ。
「思ったよりも反応が淡白ですね」
「そう?まあそんなの気にしないで、説明してくれるんでしょ?続けて」
「ナルカさん、貴女はここよりずっと高いところから落ちてきました。ずっとずっと高い……落ちたのが水の上と言えど、ただじゃすみません」
「夢、じゃないわけね。あれは」
コヅエの言葉から連想できた光景はここに来る前に見た夢の最後の瞬間である。
島が崩壊、そして落ちた先には……。
「アレが本当にあったことなら、私は死んだことになるわね」
「実際に死んでますよ」
「そんで、何がどうなったら生き返ってこんなとこまで来る羽目になんのよ」
「ふ、それら全ては自分の力を使えば可能なのですよ」
得意げな顔で足元にあった小石を拾い上げると、軽く放り投げてみせた。
「_______________っと、まあこんな感じです」
が、投げられたように見えた小石は不思議なことにピタリと空中で静止してしまった。
私でも分かる。それは魔術の類いによるものではない、別の力である。
だが、初めて見る光景なのにも関わらず、働いている見えない力には何故だか触れたことがあるような気がした。
「これは私たち竜人族だけが持つ特別な力。“祝福”と自分達は呼んでいます」
「どうなってるの?魔術とは仕組みが違うみたいだけど」
「竜人族一扱いが上手い自分でもよく分かりませんが“祝福”は時を司る力と言われています」
「時を、司る……?」
「時の流れを進めたり、逆に戻してみたり、と応用の効くありがたーい力なのですよ」
コヅエが指を振ると、小石はさっき描いた弧を描き直したり、はたまたその軌道のまま地面に着地したり、とまさにやりたい放題といった感じであった。
「時を戻して、私を生き返したってわけ?」
「ご名答。力の範囲を貴女だけに限定すれば、貴女の体が落下前の地点まで戻ることなく、治すことだって出来るんです」
時を戻す、それを聞いた途端コヅエにつかみかかった。
「なら、私を村に戻して!私だけを治せたんなら、私の位置だけを戻すことだって出来るんでしょ?!」
「おおう、どうどう。い、いけないことはないですけど、ほとんど不可能です」
「なんで!」
「貴女が元の位置にいたのは4年前。時期が経ちすぎてると戻すのがキツいんです」
「……!そ、そう。ごめん」
苦しそうな少女の声に思わず手を離す。
そうだ、あれから四年経っているのだ。
今更行ったところで誰も村にいないだろう。
そう思うと、村の皆の顔がいっせいに浮かんでくる。
「皆……」
「ごほっ、ごほ……!とりあえず話を最後まで聞いてください。上にいる知り合いなら、会おうと思えば会えるんですから」
「それ、ほんと?」
「そりゃそうです。死ぬまでこの空間で立ち往生なんて、自分も嫌なんですから」
コヅエは落ち着いた様子で服の襟を正した。
大人びた雰囲気だが、彼女は何歳なのだろう。
いつからここで生活しているのだろうか。
「ふぅ……先程言った通り、竜人族は不思議な力“祝福”をその身に宿しています。これは本来、自分たちには備わっていなかったものとされているんですね」
「誰かからもらったってこと?」
「伝え聞かれただけの話ですけどね。となれば、授けてくれた神様的な人がいるはずですよね」
「ここに来て遠いご先祖さま昔話する?」
「いやいや、大事なお話なんですよ……?多分ですけど、事実でしょうしね」
コヅエはおもむろに立ち上がるとグルグルと私の周りを歩き回り始めた。
「自分は見られていませんが、ナルカさんは少しではありますが上の様子を見られましたよね?」
「一瞬だけどね。なんか、この海?ってのが下いっぱいに広がってて……島?っぽいのがたくさん空中に浮かんでたわ」
「そうでしょうね、そう見えて普通です。ですが本来なら、下いっぱいに広がっているのは“陸”のはずなんですよ」
「本来?あれが普通じゃないわけ?」
「貴女達が“村”で見せられていた幻想。それが本来あったはずの世界の姿です」
「……アナタ、村のことを知ってるのね」
「聞いたことがあるだけなので、少しですけどね」
コヅエは初めて表情を崩して見せると、踵を返し、空間の端を目指して歩き始めた。
「本来。なら今は違うというなら、そうなるよう施した者がいるはず、そう思いません?」
「めんどくさい聞き方するわね」
「その原因となったのは、ある2つの生物。自分らはそれを“神”と呼んでいます」
「……生き物に“神”なんて、おかしいと思うけど」
「しょうがないですよ。世界をこんな風にしたのが生き物だったんですから。世界を創ったんなら“神”と呼ぶべきです」
コヅエは空間の端で止まると、外に見える青の景色を指さした。
指し示した先には無数の島。
海の底に沈んだいくつもの島々であった。
まるでおもちゃみたいに、形を保ったままの島は海の底で山のように積み重なっている。
「まだ上にいってない島達です。元は“陸”だったものをこうして海底に沈めてあるのが神その1」
「あ_______________!!」
そして、積み重なった島達に埋もれている何か。
島に埋もれることでようやっとその全貌が隠れているのが分かる。
途方もないほどに巨大。
私は全体像すら見えていないその“何か”と目があった。
「そして元あった“陸”がこんなになるまで破壊した生き物……それがこの、神その2です」
遠く離れたそれと目があっただけ。
それだけで私は息をすることを忘れた。




