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3-15 コエノユクエ

 

 夕に暮れる教会前。

 乱反射する閃光と何かが崩れる音がこだましていた。

 発信源は2つの人影。

 踊るように跳ね回り、近づいたり離れたりを繰り返している。

 片方が追いかけ、片方は距離を取ろうと動き回る。

 目映い光の中で、ただただ繰り返している。


「_______________“尖鋭火弾(フレイムバレット)”」


 マサムネが告げると巨大な火炎により新たな光が出現する。

 彼の周りにはそれ以外にも、巨大な氷塊や紫電等が取り巻いている。

 その中で無表情にも彼は何かを思案し続けていた。


「うおらぁぁ!!」


 ガルーグは襲い来る七色の光にただ立ち向かっていた。

 一直線でありながら無限に向かってくる輝きをかいくぐり、彼はひたすらに目指した。

 憎き仇を、彼にとっての諸悪の根源を。


「相変わらずうるせぇな」


 瞬きの中、唐突に伸びたマサムネの蹴りがガルーグの頬を振り抜く。

 一瞬、何をされたのか分からないような表情を見切ると、マサムネはまた距離を取って詠唱を始めた。


「っ、相変わらずはそっちだな。オレをどこまでもムカつかせやがる!」


 それでも騎士は止まることは無い。

 もう一度、標的へと目指すだけであった。


 マサムネの扱う魔術は強大でありながら、そのほとんどが単純なものであった。

 火球を飛ばすにしても、電撃を繰り出すにしても、そのほとんどは目標に向かってただ真っ直ぐに動くだけ。

 それが見慣れているガルーグにとっては避けるどけなら造作もなかった。


「勝手にお前がムカついてるだけだろ。お前はいっつもそうだ。何かと俺につっかかって来て、次の瞬間には暴力だろ?」

「ああん、お前自覚ねぇのか?原因作ってんのはいつもお前の方だろうが!」


 猛りに乗せて放たれた斬撃が微かに標的を捉える。

 銀の切っ先がマサムネの黒衣をわずかながら裂いた。


「今回だってそうだ!“村”があんなになったのは、テメェのせいなんだろ?」

「……ちっ」

「“核”とかいうのにテメェが触れたから、テメェが自分勝手に力を手に入れたから“村”は空警団に襲われた!」

「じゃあお前は今、その空警団のなんなんだ」

「オレが空警団にいんのは成り行きだ!テメェみてぇな自己中と同じにすんじゃねぇ!」


 互いの距離が徐々に縮む。

 光の勢いはいくらか衰え、剣による瞬きと風を切る音が次は増え始めた。


「そもそもオレがこうして鎧を着てんのも、テメェのせいなんだよ!なんで、なんでインガウェークを襲った!」

「……!」

「ミィンが、プレアが、狙われなくちゃいけない理由がどこにあった!アイツらは戦いとは無縁だった!」

「インガウェーク家は四大名家の中でも、一番空警団を支援していた。革命軍から狙われるには十分だった」


 刹那、ガルーグは手を止める。

 その隙にマサムネは杖を振り下ろした。


「っ……!」

「言っただろ?戦争だ。“陸”にいる以上、あそこの人間は全員俺たちに狙われる立場にいる」

「うるせぇ、だからってなぁ!」

「近いうちに俺は“陸”に降りる。まだ大切な人がいるんなら、今のうちに避難でもさせとけよ」

「……んだと、てめぇ!!」


 怒りを露わにすると、さらに鈍る剣先。

 マサムネは視線を真っ直ぐ向けたまま杖を振り続ける。


「俺には使命が、目的がある。力を手に入れたが故の。お前みたいな私利私欲野郎とは違うんだよ。どうせ復讐だろ?お前のやりたいのは」

「復讐の何が悪い!使命とやらで人殺しをするテメェと何が違う!」

「_______________馬鹿だよ。お前は」


 ガ コ ン


 かすめ取るようにして、振るわれた杖がガルーグの顎に打ちつけられる。

 ガルーグの視界は回り、身体は平衡を保てなくなる。

 やがて力が抜けたみたいにその場にへたりこんだ。


「ぁ……何が、使命だ。どんな目的があろうと、テメェがやってんのは、他の奴らと変わりねぇ、人殺しだ」

「分かってる。そんなこと構ってられないくらいには、大事な使命なんだよ」


 ガルーグの言葉などほとんど取り合っていない。

 そんな調子でマサムネは手を向けた。

 見据えている友人の先に、さらに何かあるみたいに。


「悪いな、ガルーグ」


 再び、何かを詠唱しようとした時。


「_______________2人とも!避けて!」


 2人に目掛けて何かが飛んできた。


 〜〜〜〜〜〜


 戦え……戦え……。

 ずっと聞こえていた。

 朝よりもずっと強く、大きく鳴り響いている。

 私の頭の中でずっとずっと聞こえている。


「うるさいなぁ……」


 周りに誰もいない路地裏で私は1人で呟く。

 割れそうな頭を押さえても、何も良くなりはしなかった。


 従え……探せ……。


 力を使うといつも聞こえてくる声。

 いつもはすぐに無くなるはずのそれがいつまで経っても消えない。

 しかも、心無しかいつも聞こえていた声よりもなんだか。


「怒ってる、の?なんで」


 唸りにも似た声で私の中を低く響いている。

 下、どこからと言えば遠く深い下の方からその声は届いている気がした。


 ……!……!


 騒がしい物音。叫ぶような声。

 どこかで誰かが喧嘩している音が、ちゃんと耳に入ってきた。

 聞き覚えのある声、もしやと思い走り出した。


「あっ……!」


 案の定、ガルーグとマサムネ。

 そして_______________。


「_______________2人とも!避けて!」


 私は走り出した。


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