3-12 私だけが分かってる
……静寂。
急に周りの音が無くなった。
気がつくと、手のあたりにジンジンとした痛みがあった。
「うお、なんだこりゃ?!なにがあった!」
声のする方に向くとマサムネとザッド、あと小さな女の子が部屋まで下りて来ていた。
「……あれ?」
マサムネ達が驚いた表情をしている。
ふと、視線を足元に投げると人が3人倒れていた。
その中にはツルギもいる。
「……ん、あれ?」
「メネ、ノルン!大丈夫デスか?!」
「ツルギ!?平気か!」
「おい、マーマ。どういうことだ」
「どういうって……」
手に残る微かな感触から、先程の光景を思い出す。
3人が倒れているのは……紛れもない私がやったのだ。
「3人がここで喧嘩しようとしたから」
「ああ?なんでそうなる」
「なんだったかな。ツルギとメネさんが交渉決裂だって怖い顔で……だから、しょうがなく私が」
「はぁ……お前なぁ」
「大丈夫。かなり手加減した。ちょっとだけ目眩がするくらいだと思うよ」
「いやお前のとこのやつ含め気絶してるんだが。ったく、お前俺ら以外にもこういうことすんだな。割と男女関係なく」
「しょうがないじゃん……ほっといたら死人が出そうだったんだし」
そうだ、死人が出ないように。
マサムネとガルーグが喧嘩する時もいつもそう。
放っておいたら面倒なことになる。
だから、私がしょうがなく両方に拳を向けるのだ。
今やっていることも同じなのである。
「……あ、そうだ」
瞬間、私にある閃きが。
懐にしまっていたペンダントをマサムネに向かって放り投げた。
「あん?なんだこれ」
「ペンダント。なんか写真付きのやつ?ガルーグから預かってたんだ。マサムネにって」
「なに、ガルーグ?」
マサムネは怪訝な顔をしながらも、ペンダントの写真を見た。
写真に写っていたのは椅子に座った16くらいの少女とその横に立つ父親らしき人物。
私にはどちらも見覚えのない人物である。
「……インガウェークの紋章。ってことはこの写真は」
「マサムネの知り合い?」
「いや、見たことはないが名前だけ知ってる。多分、ガルーグにとっては大事だった人だ」
「だった?」
「俺が殺した。革命軍としての俺が」
マサムネは後悔するような顔でペンダントを握る。
ガルーグの大切なものをマサムネが……。
『もしかして、またマサムネと喧嘩してる?』
『______________まあ、そんなとこだ』
ああ、そりゃあんな顔もするか。
心底憎んでいる瞳。許す気のない恨みを孕んだ目。
2人とも喧嘩していた時と同じ顔をしている。
「俺が悪いんだ。でも俺にはまだ……」
多分これはマサムネが何か悪さした時のパターンだろうな。
カンカンに起こるガルーグに対して、マサムネはどう凌ごうか考えている。
こういう時は毎回ナルカちゃんが宥めに入るんだけど。
「はぁ、しょうがないなあ……ねぇ、この島にガルーグいるよ。多分走り回ってればすぐ会える」
「ガルーグが、ここに?会え、ってことか」
「それはご自由にって感じ。でも喧嘩してるんでしょ?また、2人ともさ」
「……!」
「どうせ殴り合うまで終わんないんなら、ここで決着つけちゃおうよ。そっちの方が後々楽だと思うんだよね。私的には」
「……はっ!喧嘩ってな。お前、そんな冗談半分なもんじゃねぇぞ。今回のにいたっては、いつもの比じゃねぇ」
「そう?私からしてみればいつも通りな感じするけどね」
マサムネは一度迷うような素振りを見せた後、ゆっくりと来た道を戻り始めた。
いつも通りだ。
どちらかが死んだとしても私にとっては関係ない。
生き返してしまえば、なんの関係も。
「ハヤ……メネとノルンは任せた」
「は、はいデス」
「ザッド。そこの竜人族にも後で謝っといてくれ。ウチのマーマが迷惑かけたってな」
「う、うむ」
「頼んだぞ。俺はケジメをつけてくる」
やがてバタンと、閉まる音と共にマサムネの姿は見えなくなった。
恐らくはガルーグを探しに行ったのだろう。
と、思ったのも束の間、足首の辺りに掴まれたような感覚。
「ア、ンタ、ねぇ……!」
「メネさん?ごめん、大丈夫?」
「私のしてた話を覚えてないなんて、言わせないわよ!!」
「覚えてるよ。マサムネにガルーグは会わせないようにって」
メネさんはふらつく足取りで立ち上がり、私の胸ぐらを掴んだ。
「じゃあ!なんであんなことした!なんの目的が、あっ、て……」
「あ、メネさん大丈夫?まだ大人しくしてた方が」
「っ、いいから答えなさい!!」
メネは今にも倒れそうだというのに、大声を張る。
こうやって無理するところ、やっぱりナルカちゃんに似てるんだよなあ、としみじみ思う。
「あの二人がぶつかって危ないっていうんなら、早めに済ました方がいいんだよ。放っておいたらその分、2人ともの鬱憤がさ」
「そんなわけないでしょ?!戦わなくて済むなら、それに超したことはないの!今日だって」
「戦わないで済む?それはないよ。2人とも、今にも戦いたがってた。私には分かるよ。なら、止められる私がいるうちに」
「アンタ……何も分かってない!2人の同郷だかなんだか知らないけど、マサムネは変わったの!少なくとも、私達が初めて会った時よりは遥かに!涼しい顔で人殺しする人間になったのよ!喧嘩なんてもんで片付けられる戦いじゃ……」
「変わってないよ。何も」
「っ……!」
分かっていない?それはどっちだろうか。
マサムネも、ガルーグも何も変わっちゃいない。
何かの命で一喜一憂するような男達だ。
境遇や環境が変わったところで人は人。
私が見てきた彼らに変わりはない。
「なに、アンタ、一体何考えてるの」
「あ、そっか。メネさんはアレを心配してるんだね」
「……!それ」
透明の液体が入ったビンを取り出した。
ペンダントとは別にもう1つ、ガルーグから貰った物だ。
なんでも、中身はただの塩水だが、この塩水にはとんでもない毒性が秘められているらしい。
飲んでも死、浴びても死。
空警団側では革命軍が。
革命軍側では空警団が。
この毒をあちこちに渡して回っているという話を聞いているらしい。
ガルーグの予想では、どちらにも属していない第三者がどこかに潜んでいるとか。
「メネさんはこれ持ってる誰かがマサムネを襲うんじゃ、って怖がってるんでしょ?大丈夫」
「違う……アンタは、おかしい。そんなことよりも、心配することが……」
「じゃあさ。そいつを私が掴まえて来てあげる。それでいいでしょ?安心出来ると思う」
「ちょっと待ちなさ、い」
フラフラのメネさんをくぐり抜け、私も部屋を出る階段へと足を掛ける。
万が一、その毒をマサムネが受けたら、そりゃ心配だろう。
どうなるか分からないんだから。
「大丈夫。ちゃんとマサムネは無事に戻ってこさせるから。皆で待っててよ」
できるだけ優しく微笑んで見せて、私は部屋を出た。




