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3-11 誰か

 

「よ、元気そうだな」


 手を振るその姿に違和感。

 と同時に慣れ親しんできた感覚が私を襲う。

 どうしていいのか分からない。

 それでも身体は動いた。


「おっ、す、久しぶり」


 ただ手を振り返していた。


「ん?なんか割と淡白な反応だな。お前のことだからもっとわんわん泣くかと思ってたんだが」

「自惚れね。アンタみたいのが死んで泣く女なんていないわよ」

「ワタクシだったら泣きますよー、多分」

「なんも知らないのによくそこまで言えるなお前ら……まあいい。悪いなマーマ、急に呼び出し_______________?!」


 自分でも驚く程に悲しくない。

 ガルーグの時に涙が枯れてしまったのだろうか。

 死んだと思っていた友達との感動の再会だというのに、鼻水のひとつも出やしない。

 でも不思議だ、視界がボヤけて揺らぎ始めている。


「えへ、えへへへへ」

「おおい!無茶苦茶泣いてんじゃねぇか!お前らなんか、綺麗な、拭くもの!」

「真顔で笑いながら涙を流してますね」

「器用なやつ……ほら、拭いてやるからじっとしてなさい。可愛い顔が涙でぐしゃぐしゃ」


 長耳の人がハンカチで私の顔を拭いてくれた。

 職業の性質上、死んだ人間を何度も生き返したことがある。

 だが、もう助からないと思っていた人間が生きていたことは生まれて始めてだった。

 感傷的になっても仕方がない。


「へ、へへ。ツルギに恥ずかしいところ見られちゃったな」

「別に恥ずかしい奴とは思わん。死んだと思ってた奴が生きておればそれくらい泣くじゃろ」


 特に気にする素振りも見せず、ツルギは横から私をじっと見つめていた。


「大丈夫?落ち着いた?」

「う、はい。ありがとう、ございます」

「そんだけ泣けるなら結構平和にやってそうだな。お前は」

「いや、昨日まで普通に奴隷だったけど」

「マジか。お前が鎖に繋がれて大人しくしてる様子が全く浮かばないんだが」

「結構食べ物くれる所だったから……美味しくはなかったけど」

「餌付けかよ。それなら納得だな」


 何気ない会話でも内心嬉しかった。

 “村”の中、あの何も知らない時みたいに会話できるのが何よりも。

 ここにガルーグもいたら……。


「あ、そうだ。ガルー_______________」

「ちょっと待った。お二人さん、積もる話もあるだろうけど一旦止めて」

「あ?どうしたメネ」

「まずマサムネ。一旦この部屋を出て貰えるかしら」

「おいおい、何だ急に。何年ぶりかの再会だぞ?もうちょっと話させろよ」

「いいから。女には色々あんのよ。ついでに上にハヤとザッドがいるから様子見てきて」

「はあ……?まあ時間はあるだろうから別にいいけどよ」


 イマイチ意図を読み取れてない様子のマサムネは、口をとがらせながら渋々階段を上がっていった。

 遠くなっていく足音。

 やがてマサムネの姿が完全に見えなくなったかと思うと、長耳と獣耳の2人はほっと肩を撫で下ろした。


「え……あの、私も上に」

「あー、いいのいいの。今からする話にアイツだけ邪魔だったのよ。アナタはここにいて」

「ゴメンなさいねマーマさん。色々話したいこともあったかもしれませんが、少しだけ」

「は、はい。あの、お2人の名前は」

「メネメー・バレタ。メネでいいわよ」

「ノルン・ノランシー。見ての通り二人とも亜人です」


 名乗った2人に首輪は着いていない。

 亜人でありながら私達のように奴隷であることを偽装する必要がないのなら、この人達、加えてマサムネも普通の境遇ではないことが伺えた。


「話したいこと、っていうかこっちからのお願いなんだけど」


 そう言ってメネさんは私が取り出そうとしていたペンダントを指さした。

 それはガルーグから預かっていた、マサムネに渡す予定のペンダントであった。


「これがどうかしました」

「それ。ガルーグ・メルスバッサから貰ったんでしょ。それもついさっき」

「え、はい」

「今日の朝から儂らを監視しとったんじゃと」

「まあ空警団の方も兼ねてね。で、お願いしたいのはそのガルーグとマサムネに関することなんだけど」

「……?は、はい」

「マサムネにはガルーグ・メルスバッサがこの島に居ることを悟らせないで欲しいの」


 メネさんは極めて真剣な表情で、私の手を握ってそう言った。


「今あの二人は一触即発な状態なの。多分、会った瞬間本気で殺し合う気よ」

「あ……2人やっぱり喧嘩してるんですね」

「ワタクシ達としてはそんなこと望んでないし、争い巻き込まれて死ぬ可能性だってあるし、そもそもワタクシ達はこの島にやるべきことが」

「まあ諸々(もろもろ)ある理由で、マサムネにもガルーグ・メルスバッサにも、互いのことはふせてほしいってワケね」

「……ナルカちゃんみたい」

「……え?なにかしら」

「あっ、私の、友達です。いつも2人の喧嘩を仲裁してて。その、雰囲気が似てるなあって」

「喜んでいいのかしら。今後ともこんな状況は御免(ごめん)(こうむ)りたいけど」


 二人の喧嘩に振り回されている感じがよく似ていた。

 そう言えば、ナルカちゃんはどうなったのだろうか。

 マサムネが生きていたのだ。

 きっと彼女も……。


「メネとやら、その願いを聞くにあたってこちらからも要求があるんじゃが」

「あの、それはつまり」

「そうじゃ。さっき話していたことじゃな」

「ツルギ……なに?話してたのって?」

「お主がザッドを待っておった間、先に話していたことがあっての」


 昨日までとは全く違う雰囲気でツルギは語る。

 やはり“奇跡”を見せてからというもの、ツルギの様子がおかしい。

 誰よりも重苦しい表情で、ツルギは喋り続けた。


「革命軍の本部まで連れて行け。それと、そちらにいるコヅエとやらと会わせろ」

「……無理ね」

「いいや。会わせんというなら、今すぐにでもマサムネとガルーグをかち合わせる」

「ツルギ?どうしたの」


 瞬間、ピリつき出す部屋。

 私以外の3人が鋭い目つきを交わし始める。

 意味がわからない。さっきまで和気あいあいとしていたはずなのに、どうして。


「本当にそうする気なら、貴方をここから出すわけには行きません」

「儂と戦う気か?止めておけ、お主ら程度なら瞬く間に殺せるぞ」

「舐めすぎね。革命軍の噂を聞いたことないのかしら」

「ほざけ。ならば動いてみろ。まずはその気味の悪い耳を切り落とす」

「なんで……?なんで皆……!」


 構えをとりはじめる三者。

 悲しい、何故こうも私の前で争いが起こる。

 私は、誰の傷つく姿も見たくないというのに。


『……ころ……せ』


 だというのに、私の身体は意識とは無関係に沸き立った。

 目の前で起ころうとする戦いのために、その体を奮い立たせていた。

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