3-10 ゆうれいみたい
「それじゃあね、ガルーグ」
「おう。部下の視線が痛いからはやく行ってくれ」
バツの悪そうな顔をしたガルーグに手を振ると、私達は宿屋を後にした。
チラホラと周りにいる騎士の目が集まっているが気にしない。
遠ざかる鎧姿の影達。
やはり持つべきものは友である。
堂々と胸を張って、人気の少ない早朝の街中を闊歩した。
「なんなのだ。わからん。どうして空警団が?」
風と私達の足音だけが聞こえる朝。
隣にはオロオロとうろたえるザッドと難しそうな顔で頭を抱えるツルギが並んで歩いていた。
「な、なあ。どういう状況なのだ?何故我らは空警団に見送られて宿を出ている?我が昨日の夜に寝てから、何があったというのだ?」
「いろいろー」
「その色々というのをだな……なあ、主もどうか」
「……。」
「我が主よ。聞いているか」
「聞いておるわ。ふむ……ザッド、お主本当に昨日の夜眠りについてから今の今まで、意識はなかったのか?」
「“本当に”とはどういうことだ。確かに我の普段通りならすこぶる規律正しい朝を過ごして」
「わかった。もうよい」
「っ、な、我は何もわからずじまいなのだが」
ツルギは顎に手を当てると、顔を下げ深く考え込み始めてしまった。
何を考えているのだろう。そう言えば結局、ツルギが何を目的にしているのか、まだ分かっていない。
そう言えばこうしてツルギの表情が優れなくなったのは私が“奇跡”を見せてからだ。
何か関係があるのだろうか。
『答……よ……我が……よ』
「んん……?」
「今度はどうしたのだマーマよ」
「あ、気のせいみたい。気にしないで」
ザッドの諦めた様子に苦笑した後、辺りを見回した。
突如聞こえたのは頭に響くような声、私はこれに慣れている。
何故なら私が“奇跡”を使う度に聞こえているものだからだ。
久しぶりに使ったせいだろうか。
まだ少し声が聞こえている気がする。
「見つけた、デス」
突然、前方に立ち塞がる小さな影。
何やら仮面を着けており、顔は一切見えない。
空色の髪と妙にヒラヒラした服装をしている。
「貴方達に会いたいという人がいます。ついてきてくれデス」
「え、あの……」
こちらの返答は聞くことなく、その小さな子はどこかに向かって歩き始めた。
言葉を交わすことなく、私はザッドと顔を見合わせる。
「行くぞ」
淀みない声。
ツルギはきっぱりと言うと、小さな子の後を追っていった。
さっきまでうんうん唸っていたというのに、急にキビキビ動き始めている。
仕方ない、と私とザッドもそれに遅れて移動し始めた。
街の大通りを抜け、昨日通った路地裏へ。更に進んでいくと小さな子はそこらにある物を足場に、建物群の屋上へと目指し始めたのだ。
続くツルギも建物の間を軽々と上がっていく。
「あー……ザッドは大丈夫そう?」
「う、うむ。主が行けるのであれば、我が行かぬわけにもいくまい」
「多分この上でゴールではなさそうだし。一応、私は待っとくから」
「かたじけない……」
必死によじ登ろうとするザッドを尻目に、私も建物の上へと行った。
「……っと。わあ、凄い良い景色 」
日が姿を見せて数時間。
斜めに照らす陽光がちょうどいい比率で街に影を作っている。
影の黒とレンガの橙、白色の日光が街を彩っているのだ。
ただ吹いているだけの風も心地よく感じられる。
「綺麗デスよね。私もここからの風景は結構好きなんデス」
「あれ、ツルギはどこ?」
「先に行ってるデス」
そう言って小さい子は足先で私の足下を示した。
ボロ布がかぶせてあってよく見えないが、建物の中へと続く隠し戸がそこにはあった。
「これ、すぐバレない?」
「騎士の人達は鎧を着てるので屋上にあまり行かないデス。それに、アジトに続く入り口はここしかないデスカラ」
少し得意げに小さい子は胸を張った。
信用していいものか。だが正直、あまり悪い子には見えない。
ツルギは疑う素振りも見せずついていっていたが、本当に無事だろうか。
「……アナタも先に行っておくデスカ?」
「うーん、行っておかないです。下から登ってくる人を待たないといかないですから」
「ふふ、そうデスネ。ザッド1人で置いてくのは可愛そうデス」
体を揺らしながら、その子は下から登ってくる鱗人族をまだかまだかと待ち続けた。
ザッドの名前、彼女の前で出しただろうか。
少し怪訝に思っている間に待ち人はすぐに来た。
「はぁっ、ぜは!ぜはぁ!ま、待たせたなマーマ、我は、追いついた、ぞ」
「お疲れ様。良かったね、ここがほぼゴールだったよ」
「むぅっ、それは、良か、った」
「あっ、大丈夫デスカ?!」
ドズン、とザッドはその巨体で地に突っ伏した。
苦しそうに肩を上下させながら横たわっている。
立ち上がるにはまだかかりそう。
「あの、先行っておいて良いデスヨ。そこから降りればすぐなので」
「え、良いの?そこの人任せちゃうけど」
「はい。疲れた人を介抱するの、結構慣れてましたデスカラ」
また、嬉しそうな声でそう言った。
まあどちらかと言えばツルギの方が心配だし、と思い私は下へと続く隠し戸を開けた。
開いてすぐ見てるのは簡易的な階段。
続く闇の先には、微かながら灯りが見える。
灯りに照らされて薄ら分かるのは4つの人影。
その中にはツルギとやはり昨日見た長耳と獣耳。
そして……。
「お、マーマ。来てくれたか」
また、どこかで聞いた声。
思い出そうにも、思い出せない。
何故だろう、その声はもう聞けないものだと思っていたからだろうか。
私がその人物を革新するまで、少々ラグがあった。
「……え」
恐る恐る、借りてきた猫のような素振りで階段を降りる。
嘘、いやでも、本当なら、信じたい、でも、そんな。
まとめようとする思考にカットインしてくる疑念。
そして、諦めかけていた心を打ち砕くように。
「何やってんだ、早く来いよ」
点と点が繋がるみたいに。
私の中でその声と顔が完全に一致した。
「マ、サム、ネ……マサムネ?」
当たり前に佇んでいるその姿に目を疑った。




